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INTERVIEW

Japanese

キタニタツヤ

 

キタニタツヤ

Interviewer:秦 理絵

キタニタツヤが、フィジカル盤としては、昨年8月にリリースした『DEMAGOG』以来、1年ぶりとなるニュー・シングル『聖者の行進』をリリースする。"ノイタミナ"枠のアニメ"平穏世代の韋駄天達"OPテーマとして、自身初のアニメ・タイアップとなった今回の表題曲は、どこか不穏な雰囲気をまとう緩急のあるバンド・サウンドにのせて、"生者"の叫びを鋭い筆致で描いたキタニ節全開のナンバー。さらに、カップリングには既存曲「Ghost!?」と「人間みたいね」を大胆にリアレンジして収録する。ソロ・デビュー当初から、創造性に富んだ楽曲で"自分だけの音楽"を追い求めてきたキタニだが、ここにきてその裾野をさらに広げていく熱量を感じる意欲作だ。早くもソロ3年目。充実の季節を迎えているキタニの今に迫った。

-この間の東名阪ツアー[One Man Tour "BOUNDARIES"]の東京ファイナル、感動しました。キタニさんのライヴは曲順の構成が緻密に練り込まれているのを感じます。

あ、そうですか?

-本編の十数曲を聴いてきて、最後の1曲に辿り着いたときの説得力がすごく増すような流れなんですよ。

あー、たしかに。セットリストを組むときにそういうことは考えてますね。何かしらストーリーがあるものにしたいというか。それを察してもらえなくても、自分ではいいと思ってるんですけど。それが通じてたならうれしいです。

-自分としてはライヴをやり終えてみて、どんなことを思いましたか?

お客さんが声を出せないとか、あんまり自由に動けない、みたいなのが......2回目だったのか。去年の"Hug myself (inside)"もあったので。いい加減慣れてきた感じがありましたね。お客さんも工夫してくれて。いつも僕が(YouTubeの)生放送で言ってるんですけど、スマホに声を録音して、"キタニ、頑張れ!"って流すみたいな。そういうささやかな抵抗もあったり、あと、シンガロングの曲では事前に録音してもらったみんなの声を流したり。そういう工夫に、俺も、お客さんも慣れてきた感じがあるので。この調子のままもう1年ぐらい、いけなくもないかなぁ......。

-あはは、本当ですか?

まぁ、普通にキャパ半分はお金的に大変だから、事務所は"勘弁してほしい"って言うと思いますけど(笑)。

-となると、リアルにお客さんの声が聞けないとか、マスクで顔の半分しか見えないことに関しては、それほどマイナスに感じない?

いや、(歓声は)あったらうれしいですよ。ただ、なんかもうその感覚も忘れてきちゃったんですよね。コロナ禍になって1年半経つし。だから、もしもう一度昔の状況が復活したら、"うわ、めっちゃうれしい!"ってなると思います。

-ライヴの内容に関しては、どう振り返りますか? これまでサポート・メンバーを固定でライヴをやってきたことで、いいグルーヴができあがってきたのかなと思いますが。

今回、ベースのサポート・メンバーがひとり増えたんですよ。

-齋藤祥秀さんですね。

それで、僕がベースとギターを交互に持てるようになって。メンバーが揃ってきたことで、同期に頼る部分が減ったんですよね。それによって曲同士を繋いだりもできるようになって。今までは同期が流れたから、ライヴならではのアレンジもできなかった。クリック......まぁ、メトロノームですよね。それが大正義だったんですけど、その機械制御に委ねる部分が減ったことによって、スタジオで、"ここの流れはもっとこうしたほうがいいよね。じゃあ、変えよう"っていうのが、すぐにできるようになった。それがライヴのクオリティの底上げになってるところはありますね。

-そうなると、音源の再現性を追求するだけじゃなくて、どんどんライヴで楽曲を成長させられるようになりますよね。

そうですね。そういう話はドラマーのMattともしました、ライヴが終わったあとに。曲によっては本当に自由にやってもいいし。今まではそれをやりたくてもできなかったから、うれしいんです。もっとバンドっぽくやっていきたいっていうのが自分の中にもともとあるので。これから、それができるのが楽しみでもありますね。

-あの日はMCもすごく印象に残りました。音楽を作る意味合いが変わってきているというようなことを言っていて。

あぁ、そうですね。

-ちょっとメモを読ませてもらうと、"今はひとりで音楽を作って、いい曲ができた、だけじゃ終わらせられない。聴いているみんなが、ライヴでどんな反応をしてくれるのかを考えてしまう身体になってしまった"と。

言いましたね。

-今までキタニさんは、そういうことをステージで言ってこなかったですよね。

そうですね。こういうご時世だからっていうのもあるんですけど。言いたいことが増えたんですよ。今回の東名阪3公演の中で、"やっぱりこれだよな"って思ったというか。"あぁ、俺はここのために音楽を作ってきたんだな"っていう認識が強くなってきて。

-そういう気持ちを伝えたライヴだったからこそ、自分と他人の境界を表す"BOUNDARIES"という言葉をタイトルにしたことも、後々、強い意味を帯びてきましたよね。

あれは、もともと今回がリリース・ツアーではなかったっていうので、考えたタイトルだったんです。去年12月の末から、4作連続でコラボレーションをした楽曲をリリースしたんですけど、今回はそのリリース・ツアーっていう意味づけに、僕の中ではしようと思ってたんですね。で、そこに通底するものは何かな? って考えたときに、"誰かとの共作"だったんです。今までひとりで作ってきたのとはうって変わって、誰かのちからを借りることを恐れずにやっていった。それによって、自他の境界線がわかるようになったんです。自分だけの世界だったら、そこに境界線もクソもないんですけど。他者がいることによって"あ、境界線はここで、だからこそ自分はこういう人間なんだな"って、他者を比較対象とすることで初めて自覚できるというか。それが今回のツアーなのかなっていうので、"BOUNDARIES"。自他の境界っていう意味で使ったんですよね。

-なるほど。

でも、ライヴをしていくうちに、それはクリエイター対クリエイターだけのものではない。自分が人前で演奏をしたら、その演奏を届けた相手と自分との間にも境界線がくっきり見えてきて。まったく違う存在の人に対して境界線をまたいだり、またがなかったり、その境界線の上で相対しているなって思うようになっていったんです。

-BOUNDARIESの意味を調べると、馴れ馴れしいとか、適切な距離感を越えて、接近しすぎてくる人に対して使う言葉でもあるらしいんですよ。

あぁ、パーソナル・スペースを越えてくるような?

-そうそう。だから、キタニさんが音楽を届けるときに、それぐらい聴き手の人生に踏み込んでいきたい、介入していきたい、という想いもあるのかなと思ったんですけど。

ははは! どうなんでしょうね。わりと僕は投げ掛ける側なので。突き詰めると、やっぱり音楽は自分のために作ってるものでしかないんですよね。最近になって人が聴いてくれてるっていう実感を抱くようになってきたから、ちょっと出すぎた考え方をするようになってきて、相手もどうにかなってほしいって、ちょっと考えるようになってきてるけど。とはいえ、それを相手に投げたときにどう反応するかは、わりと僕はどうでもいい。ただ、それがいい反応でも、自分が意図してない悪い反応でも、何か反応が返ってくること自体がうれしいんです。完全な無関心が一番悲しいじゃないですか。だから反応さえ帰ってきたら、それに対して押しつけるような真似はしない。所詮他者なんでね。

-所詮他人だからこそ、何かが伝わって、反応があることがうれしいわけですよね。

うん。所詮他者なのに、僕の音楽を好き好んで聴きにきてくれるっていうことに対する感謝の念は、どんどん深まってきてるなぁと思います。本当にありがたいなって。

-で、そのライヴで初披露された新曲「聖者の行進」がリリースされるわけですけども。キタニさんとしては初のアニメ・タイアップになります。"平穏世代の韋駄天達"の初回放送はリアタイしてたみたいですね。

してました。2回目はリアタイできなかったんですけど、昨日3回目も観ました(※取材は8月上旬)。

-どうですか? 自分の曲がアニメで流れるというのは。

やっぱりテンション上がりますよね。オープニングって、いつも観てるアニメだと、飛ばしちゃったりもするんですけど。今回は飛ばせねぇなーって(笑)。

-あはは、正直ですね(笑)。

みんな飛ばさないでくれーって思ってます(笑)。

-もともとアニメ主題歌に起用されることに対する憧れは強いほうだったんですか?

そこに対して、うぉーってなってるかって言われると、そうでもないかもしれない。アニメをめちゃくちゃ観る人間でもないので。ただ、テレビっていうのは大衆性の権化みたいなところがあるじゃないですか。すべての文化はテレビを通して全員に届く。

-若い世代はテレビを観ないとも言いますけど、まだまだ影響力は強いですよね。

っていうところがあるから、テレビで流れることに対する感慨はありますね。

-Twitterでは、"めちゃくちゃ流血するし中指にモザイクかかってるアニメが初めてのタイアップ作品で本当に良かった"って書いてて面白かったです。

俺っぽいですよね。無駄に流血するし、中指立てるし。毎回意味のないパンチラが絶対どこかに入るっていう(笑)。鉄板みたいな古臭いネタがいいんですよ。なのに、あのオープニング映像のキメキメ感っていうのが痺れるんです。