Japanese
キタニタツヤ
Interviewer:秦 理絵
この作品は、救いを求める声で神様が生まれるっていう設定なんですけど、別に人間を助けるわけでもない。それがリアルじゃないですか
-曲作りにあたっては原作を読んだんですか?
マンガは好きなので、普通に楽しんで読みました。それで歌詞がすぐに思い浮かんだんです。自分とリンクするところを見つけるのが苦ではなかったんですよね。ただ、音像のイメージが難しくて。
-どういうところが難しかったんですか?
今回、漫画の原作が2種類あったんですよ。原作者(天原)さんがネームみたいな状態でネットに公開してるものと、それを(クール教信者さんが)がコミカライズしたものがあって。まず、そのふたつの絵柄が全然違うんです。で、曲を作ってる途中のときにアニメのティーザーが公開されて。それもわりと漫画と違ったんです。で、"どうしよう? 難しい!"ってなって。やっぱり視覚のイメージとどれだけ結びつくかが、サウンドにおいては大事かなって考えてたので、そこを探りながら、4つぐらいデモを作ってました。
-そのなかで、最終的にどういう基準で今のサウンドを選んだんですか?
今出てるやつは最後に作ったやつですね。アニメのオープニングは初めてっていうのがあって、最初はちからが入りすぎてたんです。アニメのオープニングっぽいものでないといけないのかなって。でも、"いや、そうじゃないんですよね"みたいなことを聞いて、最終的には、最近自分はこういう曲が好きでっていうサウンドになってますね。
-サウンド・アプローチで言うと、ミニマルな音像に始まって、キャッチーなサビへ繋がっていく展開のメリハリがくっきりしてますよね。そこは意識して作ったんですか?
あ、そうですね。映像を作りやすいほうが絶対にいい作品にはなるなと思ったので、映像的な緩急を意識してるんです。それは今までの自分の経験則でもあって。例えば、「ハイドアンドシーク」(『DEMAGOG』収録曲)を作ったときも、映像を、Osrinさんっていう監督と一緒にやるって、先に決まってたから、映像前提で作ったんです。音的にトリッキーなことをやるというよりは、セクションごとにがっつり緩急をつけて、ジェットコースターみたいにする。そのメソッドが生きたというか。そこは、わりと頭でっかちに考えました。
-歌詞の話を詳しく聞きたいんですけど。さっき言っていた、原作と自分の共通点っていうのはどんなところに見いだしたんですか?
アニメの中にふたつの種族が出てくるんです。魔族と韋駄天という神様。で、その間で右往左往する人間たちがいて、それぞれの話ごとにフォーカスがあたっていくんですけど。韋駄天、魔族は普通に人間っぽく会話をするんですよ。でも、ふとしたときに全然共感できない、いきなり人間離れした考え方が出てきて。だからこそ、その間にいる人間たちがすごく人間らしく見えるんです。弱くて、脆くてっていう。今回はその人間たちにフォーカスをあてて書いたとうか。僕たちの世界には、魔族も韋駄天もいないけど、この世界の人間に起こってることは、現実世界で起こってることと同じというか。物語は、それが多少大袈裟になってるものでしかない。そういうところを書いていったんです。
-脆くて弱い人間がいて、神様や悪魔が登場する世界観というのは、これまでのキタニ作品にも通じますしね。
そうですね。この作品は、救いを求める声で神様が生まれるっていう設定なんですけど、それがまたいいんですよ。わかるわぁって。でも、それで生まれた神様は、ただただ人間の数を調節してるだけで、わりと冷徹な調停者というか。別に人間を助けてくれるわけでもない。それがすごくリアルじゃないですか。そんな都合良くいかないっていう。
-わかります。例えば、「それでも僕らの呼吸は止まない」(2018年リリースの1stフル・アルバム『I DO (NOT) LOVE YOU.』収録曲)で、キタニさんの曲に出てくる"神"も、決して人間を救ってはくれない。
だから"わかる"ってなるし、自分と重ねやすかったんです。
-"聖者"というのは、私たち人間のことを指してるんですか?
いや、それはわからないです。そこまでの説明は、僕はしたくないですね。聖者が何を指すのかとか、行進ってなんだ? は、それぞれで考えてくださいって感じです。
-今回「聖者の行進」を聴いて、これがキタニタツヤの世界観だよね、みたいなものがかなり確立されてきたな、と思ったんですね。
あー、なるほど。
-自分の中ではそういう自覚ってありますか?
いや、自覚はないですね。別に確立しなくてもいいと思ってるんですよ。誰かが聴いて、キタニっぽいと思ってくれるんだったらいいんですけど。それを自分が自覚しちゃったら、なんか、やっつけ仕事みたいになっていっちゃう気がするんですよね。"これをやっとけばいんだろ"みたいな。そのキタニっぽさを、たぶん自分は理論化できちゃうから、そうなったら、ずっとそれをやるマシンになっちゃうので。自分としては、俺がなんか楽しんで作ってればキタニタツヤの作品になる、ぐらいの気持ちでいい。これからも、いきなりびっくりするような変な曲を作ってみたいですからね。くるりの「野球」みたいな。
-あぁ(笑)。
ああいうことができるのがかっこいいですね。
-カップリングのことも聞かせてください。さっきも少し話が出ましたけど、昨年末に4ヶ月連続で配信リリースした楽曲の、ラストを飾った「Ghost!?」のリアレンジです。
はい。
-もともとはALIがアレンジしたビッグバンド・ジャズのような曲ですけど、これをリアレンジしようと思ったのは?
ライヴでやりたかったからっていうのが一番デカいです。ALIがいないと、ライヴでできないんですよ。パーカションとかホーン・セクションを完全に同期で流してもいいんですけど、あまりにも迫力に欠けるので。だったら、僕らは普段決まったチームでライヴをしてるので、その形態でちゃんとライヴでできるアレンジに作り直そうっていうことですね。ALIにアレンジを完全に丸投げした曲とはいえ、デモを渡した時点で、リズム・セクションとドラム、ベース、コードが決まった状態で投げてたので。そのデモを正統進化させたバージョンを作りたいっていうのがあったんです。
-だからALIの雰囲気は残しつつ、よりソリッドなロック・サウンドに生まれ変わった。
小編成だけど、ビッグバンドみたいというか。ホーンがいないSOIL&"PIMP"SESSIONSみたいな感じですね。
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