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INTERVIEW

Japanese

キタニタツヤ

キタニタツヤ

Interviewer:秦 理絵

-ちなみに、タイトルに付いている"Bad Mood Junkie ver."というのは?

何それ? って感じですよね(笑)。もともとは"BMJ"にしたかったんですよ。ALIが、"ALIEN LIBERTY INTERNATIONAL"で"ALI"なんですけど。そのアルファベットを1文字ずつズラして。"HAL 9000"から"IBM"になった、みたいな。Aの次はBだし、Lの次はMだし、Iの次はJじゃないですか。っていう言葉遊びで、"Bad Mood Junkie"は後づけです。

-なるほど、面白い。バッド・ムードなジャンキーって意味不明だけど、単語の羅列的に楽曲の雰囲気に合ってますしね。

不機嫌な薬物中毒者ですからね。なんとかそういう言葉が見つかったんです。そもそもALIの名前も完全に後づけで、モハメド・アリからとったみたいな話だったので。じゃあ、そこはマナーを守ってやろうっていうことですね。それで言うと、ALIとレコーディングしたときに、"テイク3つしか録らない"っていう、ALI理論を聞いてて。毎回その中から決めてるらしいんですね。で、なるべく僕らもそれに則ろうと思って、レコーディングをしたんですよ。

-え、これを3テイクでまとめたんですか?

いや、無理だったんですけど(笑)。難しすぎるってなって、何テイクか録りました。そういうALIから受け継いだロック・ソウルで、というのはありましたね。

-少し話は逸れますけど、ALIとの「Ghost!?」を含めて、他の人と曲を作る4作連続リリースをやってみて得たものはなんだと思いますか?

僕は最初はひとりで始めたけど、そこから2~3年かけて、自分のクリエイティヴの中で人に任せるところを増やそうっていうのを、本当にちょっとずつやってきたんですね。例えば、レコーディングをスタジオでするとか、ドラムを人に任せる、ミックス、マスタリングは任せてもいいとか。っていうのをやってきて、去年からの4作連続リリースのときに、ようやくクリエイティヴの根幹に関わるところを人に任せても、それが自分が信頼できるプレイヤーだったら、キタニタツヤの作品として壊れることはない。誰かに任せることを恐れてはいけないんだなって思えたんです。

-なるほど。

ただ、そこで任せるときに、ちゃんと対話は必要だなと思いました。すげぇプレイヤーにただ丸投げしたら、いいものが返ってくるわけではない。ちゃんと丁寧に対話を重ねたうえで、やっといいものができるっていうのも、ひとつの気づきだったと思います。

-それを短絡的に"成長"って呼ぶのが正しいかはわからないけど、たったひとりで始まったソロ・ワークだったから、その気づきは意義深いですね。

うん。これは成長だなと思いますね。逆に今回、「聖者の行進」はまた完全にミックス、マスタリング以外は全部自分でやってるんですね。1回そこに戻ってはいるんです。だから、今はどっちもありだなと思いますね。武器がひとつ増えたというか。どういう曲の作り方をするかで選択肢は多いほうがいいと思ってるので。どっちもできるようになったから、今の俺は結構いい状態にあるなと感じます。

-3年前にソロを始動させたときに、やがてそういうふうになりたいって見据えていたんですか?

いや、全然。人と作るのって難しいだろうなと思ってたんじゃないかな。今でも難しいとは感じます。でも、難しくてもやりようはあるし、面白いものができるってことは、すごく身に沁みてわかったんです。

-で、3曲目は、『DEMAGOG』に収録されている「人間みたいね」のアコースティック・バージョンですね。これはTikTokを中心に拡散されたことでも話題になってます。

「人間みたいね」をあげた理由は特になくて。この曲だったら、このアレンジがいいか、みたいな感じで、ピアノとギターで歌ってみたら評判が良かったんです。それが、僕が適当にピアノを打ち込んだだけだったし、ギターも歌も、あんまりいいマイクで録ってなかったので。ちゃんとリファインしたいっていうのがあって。ピアノもいつも弾いてもらってるはっちゃん(平畑徹也)さんにお願いしてます。

-曲の印象はかなり変わりましたよね。

原曲は渋いファンクですけど、今回のアレンジは歌詞とメロディがストレートに伝わるかもしれないですね。歌詞の意味合いとか、受け取り方が変わってくるというか。

-アコースティックのレコーディングはどういうふうに進めていくんですか?

今回はピアノとギターの本当にざっくりしたアレンジを作りました。例えば、Aメロ、Bメロはピアノだけで、サビからギターが入る、みたいなノリのものをはっちゃんさんに渡して。僕がギター、はっちゃんさんがピアノでせーので録ったものに、あとから歌をのせた感じです。

-こういうアレンジになると、ヴォーカルにはかなり繊細な表現が求められますよね。

そうなんですよね。そこは難しかったです。最近、周りに歌が上手なお友達がどんどん増えてきて。神サイ(神はサイコロを振らない)の柳田(周作/Vo)君とか、ユアネスの黒川(侑司/Vo/Gt)君とか、俺が(サポート・ベースで)参加してるヨルシカのsuis(Vo)さんとか。みんな歌が上手なんですけど。何が上手いかって、細かいニュアンスのつけ方なんですよ。そこは、俺も頑張らなきゃと思いましたね。

-歌は何テイクぐらい録るものなんですか?

僕は基本的に6テイク絶対通しで録ってから選んでいくんですけど。今回に関してはニュアンスをつける場所にはそこからさらに重ねていってるので、全部合わせたら、20テイクはいってるんじゃないですかね。家で録ってるからやり放題だし。たぶん1日で終わってないんですよ、これ。"今日はもう無理。次の日にやりましょう"みたいな。

-へぇ。

「Ghost!?」もそうですね。僕、いつも歌はコーラスを重ねまくるんです。コーラスもアレンジだと思ってるので。でも、「Ghost!?」と「人間みたいね」に関しては、どっちも人間臭い歌というか、「聖者の行進」と真逆みたいなものだから、一発録り感が絶対に必要だった。コーラスを重ねまくって誤魔化すことも許されないし、1本のメイン・ヴォーカルのクオリティがめちゃくちゃ大事だってわかってたので。

-じゃあ、この2曲はキタニさんにとってシンガーとしての挑戦作だったわけですね。

そう。シンガーとして成長しなきゃっていうのが今の課題なんです。俺はやっぱりVOCALOID出身っていうのが、まだちょっと残ってるから。どこか歌を楽器だと思ってる節があるんですけど。歌は歌なんですよね。全員が真っ先に耳に入れるものが歌だから。そこはうまくなりたいっすね。

-目指すシンガー像とかはあるんですか?

平井 堅さんみたいになりたいになって思ってます。

-ちょっと意外な名前があがりました。

実際、平井 堅さんの歌をめっちゃ聴いて、あ、こういう感じかってものまねをしたりしてるんです。それをヨルシカチームで披露したら、めちゃめちゃ褒められました(笑)。

-平井 堅さんを目指したい理由はどういうところですか?

やっぱり、さっき言ったニュアンスのつけ方かなぁ。例えば、すごく弱い、張らない声でピッチを正確に合わせることってすごく難しいんですよ、どの楽器でも。でも、平井 堅さんはそれをちゃんとできるんです。ニュアンスのつけ方がすごく正確。今までの僕は、歌の良さはピッチとリズム、みたいな考え方だったから。カラオケの採点だったんですよね、僕の歌の価値観って。今はそんな自分を殴り飛ばしたいです。

-ははは(笑)。でも、それも前提として大事なことですから。

そう。そこがある程度できるようになったから、その先を頑張ろうっていうのが今ですね。

-今日の話をまとめると、新たなチャレンジをしたことで成長もできてるし、次の課題も見えてる。今のキタニタツヤはとても充実してるなぁ、と思いました。

そうなんですかね。

-「聖者の行進」以外にも、今はどんどん曲を作っているんですか?

作ってます。ありがたいことにソニーの人もせっついてくれるので。

-今はどんなモードで曲を作ってるんですか? さっき、テレビで流れるのがうれしいという話もありましたけど。より広い層に聴いてもらえることを目指したい?

そうですね。聴いてくれる人は増えてほしいです。今は、どれだけ自分らしさを守りながら、たくさんの人との接点を見つけていけるか、みたいなことを考えてますね。なるべくたくさんの人に対して自分が影響を与えることができたら、それはすごく素敵なことじゃないですか。だから、そういうことは考えているかなぁ。

-わかりました。10月からツアーが始まります。去年中止になってしまった『DEMAGOG』のツアーで行く予定だった場所をまわるスケジュールですね。

早よ、行きたい!

-ソロでは初めて行く場所も多いですよね。

宮城は1回だけイベントで行ってるだけですからね。北海道と広島と福岡が初めてです。とはいえ、やることは変わらないので。俺は、お前たちに歌いにいくぜ、という想いですね。

-どんなツアーにしたいと思いますか?

みなさん、今はいろいろ鬱憤が溜まってると思うので。少しでも吐き出せるというか、日常の中で気がラクになる瞬間みたいなのを作れたらなと考えています。生きてて良かったと思わせたいですね、最終的には。自分もそうやって音楽によって"うわ、最高、生きてて良かった"って思ってきた人間なので。それは常々思ってることですけど。

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