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INTERVIEW

Japanese

音ノ乃のの

2025年06月号掲載

音ノ乃のの

Interviewer:高橋 美穂
©UNIVERSAL MUSIC LLC / 2024 Million Production inc.

YouTubeチャンネル登録者数48.8万人(※執筆時点)を誇るMillion Production所属のVTuber、音ノ乃ののが4thデジタル・シングル「ロクデナシテンシ」をリリースした。これが、K-POPを研ぎ澄ませたような曲調で"うるさい"を連呼し世間を射抜く、かわいい歌声やヴィジュアルとは裏腹な仕上がりなのだ。作詞作曲は新進気鋭のボカロP、tepe。VTuberとボカロPがタッグを組み、ネット社会の問題を糾弾するような楽曲を生み出したことに、深い意味を感じる。"VTuberシーンの革命児"にもなり得る音ノ乃ののに話を訊いた。

-いきなりなんですけど、すごくかわいらしい声ですよね。

(笑)ありがとうございます。

-歌を歌うことや、声を使うお仕事が必然にも感じます。でも、この声で今回の「ロクデナシテンシ」を歌ったのかと思うと、そのギャップに再度びっくりするというか。非常に刺激的な楽曲じゃないですか。受け取った第一印象はいかがでしたか?

歌詞といいメロディといい、すごくガッツが効いた曲だと思うんですけど。tepeさんに楽曲をお願いするときに"こんなふうにしてほしい"と伝えてはいたので、イメージ通りというか、私が欲しいと思っていた曲が来たな! っていう第一印象でした。だから、安心しましたし、歌うのが楽しみになりました。

-このタイミングで、こういう楽曲を歌おうと思ったのはなぜですか?

私、活動を始めて2周年になるんですけど、わりと活動に慣れてきまして。でも、生きていくなかで、あんまり表に私の黒い、暗い一面を出せる機会ってないんです。だから、裏で考えているようなことを吐き出せる楽曲が欲しくて、このタイミングでリリースさせていただきました。

-メッセージ的にもジャストだと思うんですが、ジャンル的にはヒップホップを取り入れたダンサブルな曲調になっていて。ののさんはこういうジャンルがルーツだったりするんでしょうか。

そうですね。私今19歳なんですけど、小学5、6年生の頃からK-POPや洋楽を聴いていたので、わりとこういう楽曲を自分でも歌いたいと思っていましたね。

-特に好きだったアーティストは?

K-POPならわりと女性アーティストが多いんですけど、一番はBLACKPINKさん。ライヴも行っていますし。人生の中で大きなきっかけを貰いましたね。

-なるほどね。かわいいだけじゃない実力派で、世界で結果も出している。

ほんとにそうです。勇気をくれるかっこいい女の子たちなので、大好きです。

-シンガーを志したのも、そういったアーティストの影響があったからなんでしょうか。

ちゃんと音楽で生きていこうと考えたのは中学生ぐらいのときなんですけど、ずっと音楽は大好きだったので、小さいときから憧れていたのかなと思いますね。

-かわいい声だから、周りから"いい声だね"とか"歌ったら?"とか言われることもあったんじゃないんですか?

えっと......信じてもらえないかもしれないんですけど、めちゃくちゃ音痴だったんですよ。

-信じないですよ(笑)。

いやいや(笑)。ありがたいことに"嘘でしょ!?"って言っていただくことが大半なんですけど、本当にめちゃくちゃ音痴で。でも、憧れのアーティストさんを聴きながら練習して今に至る感じです。だから、家族からは"(シンガーになるなんて)無理でしょ"って言われていましたし、周りから応援されていたとかもないですね。

-じゃあ、努力して今の立ち位置を掴んだというか。

努力したつもりもあまりないんですけど、楽しく練習してきて、それが実って良かったな、って感じです。

-ののさんは、これまで様々なジャンルの楽曲をカバーも含めて歌ってきたと思うんですけど、そんななかで「ロクデナシテンシ」を初めて歌ったときの感触というのはいかがでしたか? 理想の楽曲が届いて、実際に歌ってみたときの気持ちというのは。

それで言うと、私はこんな歌が歌いたかったし、今まで聴いてきたのがこういう歌だったので。昔はこういう歌を歌っていましたし。だから、歌ってて楽しいし、バッチリ自分にハマった感触がありました。

-ただ、「ロクデナシテンシ」のような曲調にチャレンジしているVTuberの方は珍しいですよね。だから、こういったルーツを持つののさんが、シンガーを志したときになぜVTuberという表現を選んだのかってところも気になったんですが、いかがでしょうか?

活動を始めたきっかけの話になるんですが。高校1年生ぐらいのときに路上ライヴを始めたんです。あとはいわゆる"歌ってみた"を投稿したりしていたら、今の事務所の代表の方に声を掛けていただいて。そこからVTuberやVSingerっていう世界を知ったんですね。だから、このジャンルは自分が活動を始めるにあたって知ったんですよ。もともと私コンプレックスがあったので、VTuberやVSingerっていう新しい世界に飛び込んでみたかったのもあって。

-まず"歌いたい"っていうのが入口で、そこからVTuberってスタイルもあるんだと知っていった。

ですです。

-じゃあ「ロクデナシテンシ」のような曲調に挑戦するのも、ののさんの中では自然だったっていうか。

そうですね。

-だけど、VTuberとしてのののさんから知った人が「ロクデナシテンシ」を聴いたら、"VTuberの革命児だ!"って思うような、それぐらい刺激的な楽曲のような気がします。

(笑)もともと私がVTuberのジャンルを知っていて、「ロクデナシテンシ」に挑戦するっていう立場なら、たしかにすごい大きな挑戦に思えますよね。でも、私はこういう楽曲がやりたかったので、自然な流れのように感じています。

-VTuberに抱かれている固定概念を壊したいとか、このシーンに対する想いもありますか?

たしかにVTuberがこういう楽曲を歌うって新しいと思っていて。世の中にVTuberっていうものが浸透してきてはいますけど、まだ確立はされていないので、他のVTuberの方もいろんなことに挑戦しやすい環境になったらいいなと考えています。

-今回tepeさんが作詞作曲や、編曲等を務めています。何かアドバイスやリクエスト等、コミュニケーションはありましたか?

もちろんレコーディングの際とかにあったんですけど、普段の私はへなちょこなので(笑)。へなへな、ふにゃふにゃしているので、そことのギャップを作るじゃないけど、"治安の悪いののさんが見られたらいいな"ってリクエストはありました。歌い方も巻き舌とかわりと低めのキーで進んでいくとか。

-一曲ずーっと同じ歌い方ではなく、歌詞やフレーズごとに変わっていくじゃないですか。そのあたりも"ここは巻き舌で"とか指示があったからということですか?

そうですね。私の中にあったイメージも持っていったんですけど、そこからリクエストもいただいて完成しました。

-頭のほうから"そのお口から凶器が乱射/ダサすぎ グッバイ"って、この歌詞そのものが凶器の乱射みたいな状態になるじゃないですか。ののさんが考えていたことや思い出とかと重ね合わせられるところがありましたか?

ありますね。いっぱいあります。この楽曲自体に私の気持ちが乗ってるので。あまり表では言えない、私の愚痴的なところになってしまうんですけど、世間に対して思っていることとかが出ているので、心境とも合致していると思います。

-さっき普段はへなへなしているっておっしゃっていましたが、この楽曲ではそういう表の顔と内心抱える想いのギャップに苦悩していて、世間からの視線に反発していて。それは、ののさんの状況そのものなわけですね。

そうですね。みんなが思っているよりも、私はもっと人間らしいというか、汚い一面もあるんだよっていうのを見せる曲なので。近しいのではないでしょうか(笑)?

-匂わせる感じで(笑)。ののさんは声がかわいいから、そのままのイメージで見られることがどうしても多いと思うんです。でも"私、本当はそれだけじゃないのに"って沸々と思うところがあったというか。

そうですね。ちょっとプレッシャーに感じている部分があったんですよ。清楚とかかわいいとか、きれいなイメージにとらわれすぎているリスナーさんがたくさんいらっしゃって。理想を押し付けられるように感じてしまうというか、重たく受け取ってしまうこともあるんです。私はそんなにきれいな人間じゃないんだぞって。みんなが理想として描いている人でもないし。それを伝えたかったんですよね。

-真面目なんでしょうね。リスナーさんからの印象を真っ正面から受け止めて、本当の自分を届けたいという正直な気持ちがあって、「ロクデナシテンシ」に結実した気がします。

そうですね。

-そういった想いの中にスキルも発揮された楽曲だと思っていて。例えば"つみ"というワードも"罪"と"積み"、"はい"も"はい"と"灰"と聴くだけでは分からない、読むと深く味わえる歌詞になっていますよね。そのあたりのワードも考慮して、ニュアンスを変えて歌ったんですか?

ここに関してはtepeさんの遊び心じゃないけど、いろんなスキルが発揮されていると思っていて。それをできるだけ、どっちの意味としても捉えられるような歌い方は意識しました。

-この辺の言葉遣いは、深いなぁとか上手いなぁとか思いました?

本当にすごいなって思いましたね。これって日本語のすごくいいところだと考えていて。同じ響きでもいろんな意味があって、そういうのが上手く使われているから。

-シリアスな歌詞の中でノリやユーモアを兼ね備えているフレーズもあって。"落 堕 堕 堕 落"、"音っとっと乗ってって"とか、ののさんのお名前が取り入れられているとかギミックもちりばめられていますけど、このあたりはどんなことを考えて歌いましたか?

"音っとっと乗ってって"はアップテンポでラップ調なんですよね。そこも意識して軽い感じで歌いました。"落 堕 堕 堕 落"のサビに関しては(音階が)下がっていくんですけど、堕ちるっていう歌詞に合わせた歌い方をしましたね。

-じゃあ、しっかり歌詞も読み込んで感情や歌い方を合わせていったっていう。

そうですね。結構細かく、ここはこういう歌い方をしたいなって自分なりに考えたつもりです。