Japanese
キタニタツヤ
Interviewer:真貝 聡
-今作の中で最初に発表されたのは、"BLEACH"生誕20周年記念原画展"BLEACH EX."のテーマ・ソング「Rapport」でした。この曲を作るにあたって、どんなイメージを持っていましたか?
"こういう曲にしてほしい"という具体的な注文はなかったんですよね。"「BLEACH」全体を見渡すような曲だったら、あとはなんでもいいよ"みたいな感じだったと思います。当時の僕が"BLEACH"全体を見たときに、やっぱり人と人との繋がりとか"心ってどこにあるのか?"という要素が貫通してるテーマだと思ったので、そこに焦点を当てようと作りました。
-"この手の中の光が、心だと知ったんだ"というフレーズは、ウルキオラ・シファー("BLEACH"の登場人物)のことかなと思いました。
そうなんですけど、それは心というテーマがわかりやすく"BLEACH"の中で表れてるのがあの瞬間なだけで、もっといろんな局面の小さいセリフとかも大事なポイントになっているんですよ。言ってしまえば"久保帯人が言いたいことはこれなんじゃないか"みたいな感じで書きました。まぁ......それも僕の勝手な解釈ですけどね。結局"BLEACH"の中で自分が共感できた部分を曲にしました。
-"作品全体を見渡して曲にした"という話ですけど、その中でもメッセージの骨子になっているのは、どんなところでしょう?
ウルキオラと井上織姫のやりとりもすごく大事なシーンだと思うんですけど、僕は志波海燕の"もし世界に自分一人しか居なかったら、心なんてのは何処にも無えんじゃねえかな"と言うシーンが重要だと思っていて。人間がひとりしかいなかったら、そこに心というものは存在しない。お互いが憎み合っているのか好み合っているのかにかかわらず、ふたりいるから感情というものが生まれて、自分と他者という壁が存在するわけじゃないですか。僕はそれをすごく哲学的なメッセージとして共感したんですね。結局人間はひとりだと"自分というもの"を自覚できないし、他者と比較して初めて"自分"を理解して"私はこういう人間なんだ"とわかる。同じようなことを黒崎一護も言っていて。刀を交わすことで、嫌いなやつとか敵でも、なんとなく何を考えてるかわかるんだ、と。つまり刀で切り交わすのもコミュニケーションのひとつ。それを介して相手のこと、自分のことを理解できる。だから"コミュニケーションが大事だよ"という話なんです。......ここまで言うのも野暮なんですけどね(笑)。
-ラストの"この手の中の光を、護りたいと願った"も見事に作品の世界観を踏襲していますね。あと"~と願った"と少し心の弱さを見せて締めるのも、黒崎一護を表していると思いました。
純粋にメロディにハマったのと、そもそも「Rapport」は弱々しくて繊細な曲なので、そういう言い方がハマったんだと思うんです。"護っていく"と言えたら、それはすごく素晴らしいけど、意外と一護も人間らしくて弱い瞬間がありますからね。「Rapport」も結構ロックで速い曲に聞こえるけど、わりとシリアスだったり音がふにゃふにゃしたりするので、ぼやかしたほうがいいと判断しました。
-サウンド面では何を意識されましたか?
久保先生から"僕はこういう曲が好きだよ"と、リファレンスじゃなくて純粋に好きな音楽を教えてもらったんですよ。その中でギター・リフが特徴的な曲が多かったんです。最近はいきなり歌に入ったり、間奏がないまま歌いっぱなしで終わったりする曲が多いですけど、自分も久保先生同様にギターが好きだし、ギター・リフがやたら長いイントロとかも好きなんですよ。「Rapport」も死ぬほどイントロが長い上に、プリイントロみたいなのもあるんですけど、そうしたのは腹の底から気持ちが上がる音をちゃんとやるべきだなと思ったから。"だって久保先生も俺もロック好きなんだから"っていう(笑)。
-お互いの好きが一致してるし、それはやるだろうと。
どういう曲を作ろうかと考える前から、ギター・リフが印象的に入る曲にしたいと決めていましたね。あとイントロのリフが、サビでも歌の後ろでずっと鳴っているんですよ。そういうところも最初に考えてましたね。
-MVについてもお聞きしたいんですけど、これも"BLEACH"と絡めた仕掛けが随所に入っていますね。
MVを作るに当たって、自分の中で絶対条件があったんです。それは"BLEACH"に理解があって、僕が魅せたいところをわかってくれる人。(YOSHIHITO)KATOさんっていう友達のような方がいまして、その人にお願いしたんですけど、"俺は「BLEACH」という作品を読んで、こういう解釈をしていて"という今話したようなことを、より深く詳しく伝えて、お互いの意見を交わしたうえであのMVが完成しました。
-クジラが出てくるのも"なるほど!"と発見がありました。
そうそう! あれはね、KATOさんが僕に言わないでそうしたんですよ。初校が上がってから"あ、なるほどね"と思ったんですけど、これは発見ですよね? これからMVを観る人のために深くは言わないほうがいいと思いますけど、クジラが出てくると"わかる!"となりますよね。
-あとモノクロの映像というのも、ちゃんとメッセージになっていますね。
そこは最初に決めていましたね。モノクロでカッコいい映像と、カッコいい建築を出したかったんですよ。最初の打ち合わせのとき、久保先生に"余暇は何をしてるんですか?"と僕が図々しくも聞いてみたんですよ。そしたら"僕はカッコいい建築が好きですね。それで、こういうものを持っていて"と言って、建築家の歴史を辿るような内容のDVDをいくつか見せてもらって。俺も同じものをAmazonで全部買って、もう廃盤になって1枚4万円もする高額な作品もあるんですけど、昔のヨーロッパとか南米の建築家が多く出ていて、それがまぁ面白くて。そういう目で改めて"BLEACH"を読み返すと瀞霊廷のデザインとか、めちゃくちゃカッコいいんですよね。"じゃあ建物をカッコ良くしよう"ということで、Pinterestで昔の建築家の無機質で冷たい印象のカッコいい建物を探しまくり、"こういう映像をやりたいんです! 3Dで作ってください"とお願いしました。そしたらKATOさんが、知り合いの建築家さんを呼んで。
-えぇ! 建築家も関わっているんですか。
そうなんです。プロの建築家さんが案を出してくださり、それを3Dに起こした建物があのMVには収められているんです。とにかく僕のわがままを100パーセント出力していただいた感じですね。
-"この漫画にはデザインのすべてが詰まっている"という言葉が、ここで着地するんですね。しかも"BLEACH"だけじゃなくて、久保先生の趣向もMVに反映されていると。
そうできたらいいなと思いますね。いわば"BLEACH"的というよりは、久保帯人的にしたかった。それだけ久保先生はかっこいいので。
-今回の面白い試みのひとつが、インスト曲の「Insel」から「Rapport」に繋がるところですよね。
もともとはライヴで「Rapport」を演奏する前に、演出としてインスト曲を入れようと作った曲なんですよ。BUMP OF CHICKENの『orbital period』というアルバムの中に、シングル曲で出していた「カルマ」が入っているんですけど、アルバムだと「星の鳥 reprise」というインスト曲から「カルマ」に繋がるんですね。その曲があることによって「カルマ」の入り方が全然違うように聴こえて、あのときの経験を覚えていたので僕もやりたいなと思ったんですね。
-「Insel」が加わることで、「Rapport」の解像度がグッと上がりましたね。
繋ぎ方が変わるだけで、曲の響き方が全然違うなとライヴをやっていても感じたのと、せっかく再収録するなら、シングルを集めたEPじゃなくて、あくまで小さいアルバムみたいに聴こえる作品にしたかった。その仕掛けとしてインスト曲を入れましたね。
-「タナトフォビア」は"BLEACH"生誕20周年記念原画展"BLEACH EX."イメージ・ソングですね。
これはタイトルのとおり"死を恐れる"ということなんですけど、死を恐怖に感じることで生の密度が上がると思ったんです。それも僕が"BLEACH"のメッセージとして勝手に受け取ったことで、それに関する藍染惣右介の印象的なセリフがあって"これはわかる!"と納得したんですね。ニーチェの"運命愛"って言葉があるんですけど、自分はこんな人間でこんな定めなんだというのをちゃんとありのまま受け入れて、そこから逃げずに生を愛せるように生きようね、って。自分にないものを嘆くんじゃなくて、何回生まれ変わってもこの生を求めるようにしようよ、ということを言いたかったんですね。だから"BLEACH"と自分の自我のバランスで言ったらちょっと自分が多めなんですけど、でも"BLEACH"にも絶対に通じるだろうという確信があって作った曲ですね。
-ちなみに"今日という日の花を摘んで束ねたブーケを飾って"のフレーズが好きなんですけど、これはどうして生まれたんですか。
カルペ・ディエム、つまり"今日という日の花を摘め"という格言が元ネタになっているんです。要は、今をちゃんと楽しめよっていうことですよね。一日一日を花に例えている言葉だからブーケという言葉を使いました。
-そういうことか。ちなみに、この曲を聴かれた久保先生が"「獄頤鳴鳴篇」の続きを書かなきゃいけないと思った"というエピソードがありましたね。
家族の方かどなたかが、久保先生に"これを聴いたらちゃんと書かないとね"みたいに言ってくださったみたいで。"でもね、そうやって言われると書きたくなくなるんだよ"とおっしゃっていたので、僕は野暮なことは言わないようにしてますけどね(笑)。
-これって生演奏なんですか?
サンプリング・ミュージックが好きなので、ネットから拾ってきたような音から、外国のトラックメーカーの方が作ってる音とか、いろんなところから引っ張ってきてるんです。だから、よく聴くといろんな音が入ってて、ようわからんのがいろいろ鳴ってるという(笑)。ストリングスとかホーンの音とか、いろいろ鳴ってるんですけど全部生演奏じゃないんです。サンプリングしてきた音をコラージュみたいに、いろいろ貼りつけまくりましたね。
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