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INTERVIEW

Japanese

挫・人間

2022年09月号掲載

挫・人間

Member:下川 リヲ(Vo/Gt)

Interviewer:山口 智男

-夢野久作の"ドグラ・マグラ"、お好きなんですか? "あー世界よ...... 世界よ!何故踊る?!/人の心が分かって恐ろしいのか?!"という歌詞は、"ドグラ・マグラ"の巻頭歌のパロディ、いや、オマージュですよね。

"ドグラ・マグラ"は、一度は読んでおかないといけないと思って読みました。青春時代というか、みんなが汗を流しているときに読みふけっていたので、染みついてしまっているんでしょうね。

-3曲目の「B・S・S~ボクが先に好きだったのに~」は、マンガの世界におけるNTRに代わる新しいブーム、BSSを早速取り上げたわけですね?

そうです。僕はオタクなので、ずっとその言葉には馴染みがあったんですけど、そういえば、これについてまだ誰も曲にしていないなと思ったんです。最初はTHE RAMONESの「Do You Remember Rock And Roll Radio?」みたいな曲だったんですよ。ダッダン、ダダダン、ダダダンっていう。それを夏目がアレンジしたらまったく違う形になってしまって(笑)。最初、考えていたメロディが使えなくなってしまったので、ボツにしようという話だったんですけど、レコーディングの前日に、メロディと歌詞だけ乗せたらレコーディングできるなという話になって、夜なべしてメロディと歌詞を作ったんです。そのとき、ダッダンのところに当てはまる12文字の言葉を探さなきゃいけなくなったんですけど、12文字の言葉なんて、そう簡単に出てこないじゃないですか。でも、ぱっと"ぼくが先に好きだったのに......"って浮かんできて、うわ、ぴったりだ。これで進めようとなりました。

-ソウルっぽいところもディスコっぽいところもある曲になったのは、夏目さんのアレンジがきっかけだったんですね。ところで、BSSという気持ちは共感できるんですか?

はい、大いに共感できます。懐かしい気持ちになります。僕自体がそのジャンルが好きかと言われると、まだちょっと自信を持って回答できないところはあるんですけど、そういう経験はあるなというところで、自傷行為的な気分で読んでますね(笑)。避けられなくなってくるんですよ。好きな作家がそういうジャンルを描き始めちゃうんで、好きな作家の作品を漁ってると、必ずぶち当たるんだと思います。エロ漫画が好きな男は(笑)。それをイヤイヤ読んでるうちに慣れてくるというか、その中の情緒がわかってくるみたいなところはありますね。

-歌詞の中に、"まだ/諦めたくない感情"という言葉がありますが、メンバーがふたりになったタイミングであることを考えると、バンドに対する情熱を歌っているんじゃないかと、ふと思ったのですが。

たしかに、そうですね。言われてみれば。でも、完全に性的なことしか考えてないです(笑)。レコーディングの前日に夜なべして作ったので、勢いだけで書いてます。ホントにエロ漫画の主人公の気持ちになって、拳を握り締めながら書きました。結構爆笑しながら書いてます。

-3曲のレコーディングはいかがでしたか?

今まで一番楽しかったです。夏目が脱退することが決まって、バンド内の空気が良くなったんですよ。普通、逆だと思うんですけど、みんな肩の荷が下りたみたいなところがあって、にこやかにレコーディングできたので、それはすごく良かったです。

-脱退が決まるまではもやもやしていたんですか?

ちょっと険悪でした。変な話、バンドマンがよく"家族よりも家族みたいな関係"と言うじゃないですか。ちょっとニュアンスは違いますけど、一緒にいる時間も非常に長いですし、割も一緒に食わなきゃいけないし。もちろん得するときも一緒ですけど、そういう感じなので、関係性がヒリヒリしてくるんですよね。そういうなかで、お互いに責任や問題を擦りつけるみたいなところはあるので、何をやっても気に食わないってことがやっぱりちょっとあるんですよ。ヴォーカルである僕が一番モテるところがみんな気に入らないんだとは思うんですけどね(笑)。

-あぁ。

でも、今回のシングルに関しては、最後だし楽しくいいものを作ろうよって感じでやれたんで良かったですね。ヒリヒリしている頃は、相手のちょっとしたミスも気になっちゃうんですよね。それでレコーディング中に"そこ、もうちょっとちゃんとしなよ"とか、"練習してきなよ"とかって言っちゃうと心を閉じちゃうんで、上手く弾けないとか、歌えないとかなってくる。それで空気が悪くなっちゃうんです。今回はそういうのがなかったので良かったですね。

-楽しい気持ちは当然、音源にも反映される、と?

むちゃくちゃ反映されると思います。歌詞も暗くなったりしますしね。制作中の雰囲気が悪いと、八つ当たりみたいな歌詞を書いたりしちゃうんで、そういうのが今回はない。そういう意味では、明るいと言ったらちょっと違うかもしれないけど、じめじめはしていない。そういう感じが自分的にはありますね。

-そのじめじめしていない雰囲気は、これからの挫・人間の活動に繋がっていくものだ、と?

繋げていきたいですね。できるだけじめじめしたくないです。油断すると、じめじめしちゃうので(笑)。

-以前、本誌のインタビュー(※2021年8月号掲載)で、ベースのアベマコトさんが脱退したとき、下川さんは"また新しいことができると思った。全然ネガティヴには捉えていない"と発言されていましたが、今回も同じ気持ちですか?

完全に同じですね。新しいことができて嬉しいです。プレイヤーが変わると、アレンジも曲の雰囲気も変わってきますけど、バンドって変わっていったほうが面白いと僕は思っちゃうんで。アルバムごとに楽曲も、ジャンルも変わると嬉しい。やっぱりギターが変わるとなると、サウンドの結構でっかいところが変わると思うので、それに関しては嬉しいですね。歌詞とか、ヴォーカルとかは変わりようがない。もちろん良くはしようとは思いますけど、そこがあればこのバンドは成立するのかなってところがあるので、脱退をきっかけに音楽性がどう変わるのか楽しみなところではありますし、ライヴの景色も変わっていいなと思います。何年も同じメンバーで続ける美学もあると思いますけど、僕の場合、それは叶わない。となると、また新しく始めようというのはわくわくするところではありますね。

-シングル・リリース後は、どんなふうに活動していこうと考えていますか?

とりあえずメンバー探しが重要ではあるんですけど、なんとなく次はアルバムなのかなと考えながら、アイディアを出しつつ、ライヴは絶えずやっていきたいです。サポートを迎えてやるんですけど、この機会にいろいろな人と合わせるのもいいかもしれない。だから、これまでとあんまり変わらないかもしれないですね(笑)。