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INTERVIEW

Japanese

UVERworld

2022年08月号掲載

UVERworld

Member:TAKUYA∞(Vo) 克哉(Gt)

Interviewer:増田 勇一

相手の気持ちなんて完全にはわからない。そういうことを歌にしたんです


-そのニュー・シングル、『ピグマリオン』を聴いてまず感じたのは音像の斬新さです。聴こえ方という部分にとても重きが置かれていることがわかります。同時にこのタイトルからは"ピグマリオン効果"を連想させられますが、その意味からも、今のこのご時世だからこそ出すべきものとして作られたんだろうな、と感じられますね。

TAKUYA∞:そうですね。奇しくもいろんな出来事が重なって今出すことになりましたけど、本来は単純に"カッコいい曲ができたから出す"という感じでありたかったんですよね。去年、「EN」(アルバム『30』収録)という自分たちの中でも渾身の曲ができたんで、今回は単純にカッコいい曲にしたかった。でもやっぱ、普段の生活の中で敏感に感じ取ったものが曲になってしまう、という傾向はどうしてもあるので。だから、こういうものを作ろうとしてこうなったというよりは、"今だからこうなった"に近いですね。今回は、完全に歌詞が先にできてたんです。あらかじめほぼこの形で歌詞だけができあがっていて。それを乗せるメロディについては......すごく乱暴な言い方をすれば、なんでもいいと思ってた。実際、どんなメロディで歌ってもなんとなくハマったんですよ。でも、自分の中で一番しっくりときて歌いやすかったのがこのメロディで。

-実際、すごく言葉が聴こえやすい作り方になっていますよね。演奏が邪魔をすることも一切ない。ただ、サビのメロディと言葉だけが印象に残る曲も世間には多々ありますけど、それとは真逆というか、どこがサビかわからないようなところすらある。歌詞自体は、回りくどさがなくて、すんなりと自然に耳に入ってくるものになっていて。

TAKUYA∞:うん。僕としては、できた瞬間に絶対これはシングルだと思いましたね。タイトルはもう、まさにピグマリオン効果そのまんまなんです。周りから期待されたりするといい方向に行く、というのが実際あるから。距離が離れれば離れるほどその人のことを誤解しがちなところってあるじゃないですか。もともとこれを作り始めたとき、最初のきっかけになったのは、世界的に有名なアーティストのドキュメンタリーを2本ほど観たことで。世界で何千万枚も売れているようなアーティストが、カメラを前にして泣きながら苦悩を訴え掛けてるんですよ。その悩みというのが、2アーティストとも"ライヴのときには何万人もの歓声を浴びて愛されているのを実感できるのに、ホテルに帰った瞬間ひとりぼっちになって孤独に苛まれる"みたいなことで。ひとりでホテルの部屋で食事をしながら、"どっちが本当の自分かわからなくなる"みたいなことを言いながら泣いてるんです。それを見て僕は最初"アホか!"と思ったんですよ(笑)。ライヴを観て、良かったなと思ってくれた人たちは、帰ってからまたそのアーティストの曲を聴きながら思いを馳せてるはずなんです。そんなこともわからへんなら、とっととやめちまえと思ったんです、マジで。もちろん僕自身もそういう次元まで行きたいとは思ってますよ。何千万枚も売れてるような人と同じようなところに。ただ、ちょっと前の自分だったらそこで"アホか!"と思って終わってたんだけど、今は、実際にその領域に行かないとわからないことがあるんだろうな、ということがわかる。きっとそういうことなんですよね。ただ、僕はそうならない自信がありますけど。仮に1,000万枚CDが売れて、ライヴのあとにホテルの部屋で、ひとりでコンビニ弁当食ってたとしても、寂しいとか言ってないはずだと思う。

克哉:いや、それはわからんよ。実際そうなってみないと(笑)。

TAKUYA∞:まぁね。ただ、そうなってしまう人は、そこまで大きくなる前からそうなってたんじゃないかと思う。お客さんの数が1万人のときも1,000人のときも、"どっちがホンマの自分や?"と言ってたんじゃないかなって。ただ、そういう悩みも含め、その立場にあるその人にしかわからないことってあるじゃないですか。そう考えると、今はいろんな国が問題を抱えてたり、誰かと誰かが揉めてたりしてますけど、その国とか人たちなりに、そうならざるを得ない理由というのがあるのかもな、と思えてくる。例えば、克ちゃん(克哉)はめちゃめちゃ虫が嫌いなんですよ。スタジオで虫が出たりするとえらいことになる(笑)。

克哉:うん、マジで苦手です(笑)。

TAKUYA∞:でも実際、僕らは虫の何倍も大きくて、簡単に踏み潰せるわけじゃないですか。向こうからしたら"出たぁ! 俺をすぐに殺せるあいつが来たぁ!"っておののいてるはずなんですよ(笑)。それと同じことで、相手の気持ちなんて完全にはわからない。そういうことを歌にしたんです。変な話、最近、自分の人間性について褒められることが何度かあったんですね。"TAKUYA∞は暴露されるような話がまったくない生き方をしてるよな"みたいに(笑)。でも僕はいたって普通に生活してるだけで、そういうことに注意を払ってるわけでもなんでもない。そんな自分の、今の気持ちが全部出てる歌詞だと思います。

克哉:実際、ピグマリオン効果のある歌だと思います(笑)。"頑張れ!"みたいなことはひと言も言ってないのに、聴くとそういう感覚になれるというか。自分でもそれを感じてるくらいなんで、ライヴでそれを体感してもらいたいところですね。この歌詞とメロディが出てきたときは、"単純にすごくいいけど、どうやったらこれをUVERworldとして伝えられるかな?"と感じたんです。いい曲の定義っていっぱいあるけど、例えば歌詞とメロディが良くてアンサンブルが気持ちいい曲というのもあれば、アコギだけでやってこそメロディと歌詞の良さが発揮される、というのもあると思うんですよ。これは後者のほうだなと思ったんです。アコギで、弾き語りでやってもいいような曲。実際、他のアーティストのそういう曲をライヴで聴いたときに"あぁ、全然違うな"ってガッカリしたこともあったんですよ。アコギで聴きたかったのにいらんものが足されてたりして。この曲もそうなり兼ねないなと思って、とにかく引き算の考え方をしましたね。今の自分たちにできる引き算に徹したというか。"まずはとりあえずギターを入れとこう"と考えがちなところで、逆に"とりあえずギターは入れないでおこう"って考えながら作っていって。

-最近のUVERworldにはバンド・サウンドじゃない曲の割合が増えてきていますよね。歌詞とメロディをちゃんと聴かせようとするうえでは、メンバー全員の楽器の音が入っていなくてもいい、という考え方が強まってきているんでしょうか?

克哉:もちろんそこは、曲によりけりなんですけどね。どの曲でも引き算にすればいいというわけじゃないし、この曲にしても弾き語りにすればいいってわけではない。今の自分たちが一番新鮮に思えるものにしようとした結果が、この形なんです。ある意味、考え方としては今の僕らなりの弾き語りに近いというか、そういう感覚でやってました。しかも、ほとんどTAKUYA∞自身の中で"ここにこういう音が欲しい"ってのが見えてたんで、ホントに彼の頭の中にあるものを具現化した、というのに近いんです。

-それができるのは、改めて意思確認をするまでもなく全員が同じほうを向いていて、"すべてはいいメロディと歌詞のために"という姿勢であれているからだろうと思います。

TAKUYA∞:個人のエゴ、ホントにないですもん。UVERworldとしてのエゴしかない。自分の担当楽器の音が入らない曲があることに関しても、みんななんとも思ってないよな?

克哉:うん。それ以上にUVERworldとしてのエゴ、こだわりが強いから。

-そういう意味では、インスト・ベストとこのシングルが続けざまに出るというのも面白いです。このバンドならではのエゴの両極端なところが出た感じでもあるわけで。

克哉:たしかに。結局、こういう思い切ったことができるのは、今までやってきたことが受け入れられてきた現実があるからこそだし、自分たちのやることが正解やと思えてるからで。もちろん過去に"もっとこうしておけば良かった"って反省もあったけど、挑戦してきたことすべてが自分たちにとっての正解に変わってきたというか。だから思い切ったこともできるし、もっともっといろんなことにチャレンジしていける気がしますね。それが自分たちの正解やと思ってるから。流行りとか関係なく、自分らにとって新鮮なものを作り続けようとしてるだけだし。

TAKUYA∞:うん。年々、曲を作ること、リリースすることが、自分たちにとってビジネスじゃなくなってきてますね。もともとビジネスっ気はなかったですけど、もはや"無"です。曲を作ることを仕事だとまったく思ってないというか。売れたい気持ちはあるけど、そのための曲を作ろうとはまったく考えてないから。

克哉:自分たちが作りたいものを作って、出したいものを出す。そもそもこのシングルについても、"今出したいものができたから出したい"って僕らの側から言ったものなんで。

-本来は誰もがそうあるべきなんでしょうね。面白いのは、普通に考えれば、カップリングの「BVCK」のほうがシングル向きの曲のようにも思えることで。

TAKUYA∞:これはわりと力を抜いて作れたんですよ。気合の入った曲の場合、ミックスとかの段階でも"ちょっとやりすぎかな?"ということになりがちな傾向があるんですね。だから、そうなる寸前のところで止めないといけない。この音もあの音も大きくしたいけど、ヴォーカルが聴こえにくくなるギリギリのところで止めておこう、みたいな。だけどこの曲は、これまでのそういう基準をはみ出したものになってるというか、あえて力を抜いてアンバランスにしてみました。行きすぎることも、ブレーキをかけることも気にしないようにしておいたというか。その結果、いつもなら行けへんところまで確実に行けましたね。

克哉:そういう意味では「ピグマリオン」とは逆かもしれないし、この両方があるのが今の自分たちらしいな、と思いますね。

-この2曲からも、このバンドがトレンドを追いかけていないことは改めてよくわかりました。逆に、自分たちが追いかけられる側になり、自分たちのやることが新たなトレンドになっていくことについてはどう思いますか?

TAKUYA∞:別にトレンドになることを目指してるわけじゃないけども、そうなったらなったで嬉しいし(笑)。追いかけはしないけど、トレンド全般が嫌いというわけじゃなくて、ハマったものについては自分の中に吸収していきたいと思ってます。

克哉:うん。それを知らずにいるんじゃなくて、知ったうえで"いや、それは違う。今の自分たちはこっちやな"というふうにありたいんです。