Japanese
挫・人間
2021年08月号掲載
Member:下川 リヲ(Vo/Gt)
Interviewer:秦 理絵
このアルバムを聴いてると、コロナがなかったことのように感じる コロナに限らず人生はつらいので。"だから何?"みたいな謎の防御力の高さがあるんです
-今回のアルバムを聴いてると、"〇〇っぽい"って連想できる世界観がはっきりしてて、そこで遊んでる感じがすごくあったんです。これは狙ってやったんですか?
いや、みんなそうだと思うんですけど、いろいろな曲を聴いてて"あ、こういう曲いいな"って感じるじゃないですか。で、その曲の何が良かったのかっていう最大公約数みたいなものを探して、その公約数を膨らます、みたいな作業で作っていくのが楽しかったんです。「大バカもののうた」とかはそうですね。
-「I LOVE YOU」なんかも、ちょっとPOLYSICSっぽい。
あぁ。あれ、あんなにデジデジになると思ってなくて。夏目に、"デジデジっぽくミックスするよ"って言われたんですけど。こんなふうになるとは思っていなかったんですよ。僕がデモを作ったときは、もっとスカ・パンクっぽいっていうか。ハードコア系の。BAD BRAINSみたいな曲を作ろうと思ってたので。びっくりしましたね。
-この仕上がりに関しては、どう思ってるんですか?
嫌だなと思いました(笑)。
-あはは(笑)、かっこいい曲じゃないですか。ポリ(POLYSICS)と対バンした影響が出ちゃったのかな? って想像しましたけど。
って思われるじゃないですか。だから嫌だと思って。でも夏目に"こういうふうにするって言ったじゃん"って言われて、"じゃあ、いいよ"って言いましたけど。スネちゃうぞ、みたいな感じで。そんなことを言ってると、僕、やめちゃうぞって思いました(笑)。
-(笑)このデジタル・ハードコアみたいな曲に"I LOVE YOU"っていうタイトルを付けるのも、下川さんの捩じれた感性というか。
それが面白いなと思っちゃうんですよ。ラヴ・ソングっぽい曲に乗せて、"I LOVE YOU"を歌うのは恥ずかしいんですよね。あんまり面白くないし。
-"嫌嫌嫌嫌嫌......"って連呼したりもしてますけど この曲は、何に対する"I LOVE YOU"を歌いたいと思ったんですか?
みんなに、ですね。嫌いなものが多いんですよ。嫌いなものが多いゆえに、好きなものはすごく好きなんですよね。そういう偏屈なところがあるので。好きなものには好きって言ったほうがいいなっていう曲です。死に物狂いになった先で見つけたほうがいい。最終的にはポジティヴなものを見つけたいと思うんですよね。
-なるほど。アルバムの制作を振り返ったときに、コロナ禍で曲を作ったことが作品に影響を与えたところはありましたか?
他のバンドに聞くと、"影響はある"って言うと思うんですけど。僕の日常はマジで変わらなかったんですよ。本当にのっぴきならない引きこもりで。ライヴの延期とかはありましたけど、それ以外は何も変わらない。逆にコロナ禍で、周りのバンドマンとかがつらそうなんですよね。それに、"え......?"と思いまして。そんなにみんな遊んでたの? と。バンドマンって、結局みんな引きこもって、ひとりプレイしているものだと思ってたんですけど。
-こういうとき、下川さんみたいな引きこもりは最強かもしれない。
みんなに会えなくて、寂しい! とか一切思ってないですからね。『散漫』って、僕がすごく楽しそうにしてると思うんです。怒られそうな気がしますけど、コロナ禍って楽しかったんですよ。バンドで集まって、歌舞伎町で練習したりすると、誰もいないんですよね。"わ、こんな景色、二度と見られないな"って。"その場で全裸になっちゃおうかな"と思うぐらい。そういうことってもう一生ないし。俺だけが楽しくて、うらやましかろ? みたいな気持ちでした。だから、こういう振り切った作品になっているのかもしれないです。
-こういう状況だからこそ、あえて音楽だけはバカがつくぐらい振り切って、笑わせてやろうっていう気持ちなのかな、とも思ったんですけど。そういう意識はありますか?
いや、そういう高尚なことは思ってなくて(笑)。日常会話みたいなものなんですよ。この「デスサウナ」とかも、普段から突然こういう会話が始まったりするものなので。僕って、日常を取り戻したい、みたいなこともまったくなくて。非日常が続けば続くほど、そのなかでどう楽しもうかな? みたいなことを考えちゃうので。もちろん、このコロナ禍が早く収まればいいなと思うけど、元通りはないなと思ってて。ライヴハウスから足が遠のいた人は、今後戻ってこない人もいるだろうと思いますし。でもやっぱり、どんな状況でもポジティヴにやるしかないじゃないですか。って思うと、わりと現世にいない感じがしますよね。"お前は深刻に考えてるのか?"って言われると思うんですよ。
-現実の世界を生きているのか。
って思われるかなと思って、「さよならベイベー」は作ったところがあって。このアルバムを聴いてると、コロナなんてなかったことに聴こえるかもしれないですけど。でもまぁ、コロナに限らず人生はつらいので。別に、コロナがあったから何っていうことはないよ、みたいな謎の防御力の高さがあるんです。
-「さよならベイベー」って、そう言われてみるとコロナ禍っぽいなと思いますけど、言われなければ、ただ夜中に物思いにふけってるような曲ですね。
そのくらいがいいんですよ。コロナっていう言葉は出したくないな、と思ってて。普段から聴ける曲がいいんです。コロナが終わったときに"あぁ、この頃、コロナだったよね"以外の感想が出てこない曲って、嫌だなと思って作った感じです。
-さっき、声児さんのベースに関しての話がありましたけど、夏目さんのギターに関しては、下川さん的に痺れたなって思う曲はありますか?
.........ないです。あははは!
-ないですか(笑)? 「マンガよみたい」とか、歪み最高! って思いましたけど。
あぁ......でも、「オタルの光」のアンサンブル・アレンジは良かったですね。
-アコースティックに聴かせる曲ですね。
あれとかは、本人もよくできたとか言ってましたし。でもムカつくから、やっぱりないです(笑)。
-オタルは北海道の小樽ですか?
アベの地元が小樽なんですよ。アベが抜けたことだし、なかったことにはできないし。1曲ぐらいアベの曲を歌っとくかと思って。もう1曲「オタクの光」っていう曲で、アベのことを大批判しようと思ったんですけど、そっちはボツになりました。
-なんだかんだ言って。こういうことをやってくれるのは素敵だなと思います。"やめたおかげで続けた"とは言うけど、やっぱりね。
ちゃっかりしてます(笑)。まぁ、アベがやってくれたこともすごくたくさんありましたし。アベがやり切ったところもありますし。まぁ、これくらいは、みたいな感じです(笑)。
-すでに先行リリースされてる曲ですけど、「誰かを救える歌」は、アルバムで聴いても抜群にいい曲だなと思いました。タイトルのまんまの曲ですけど。
こういう深刻ぶった曲みたいなのは、できれば歌わないようにしなきゃと思うんですけどね。自分が冷めちゃうんですよ。他のバンドを見てても、深刻な曲をやられたときに、ノれないほうなんです。あんまり趣味じゃないというか。
-"深刻ぶった"というのは、人生つらいこともあるけど......。
立ち上がろうぜ、とか。歩いていこうぜ、みたいな。そういうのがあんまり好きじゃなかったんです。寄り添われたくないんですよ。すげぇ悲しいときに、そういう曲を聴くと、"俺は今立ち上がろうとしているんじゃないのか"って、恥ずかしくなってきちゃう。それよりも"風呂場で髪切った"みたいな曲を聴くと、だんだん自分を取り戻せてくるんです。僕は音楽をそういうふうに聴いてきた。コロナ禍でつらいなら、むしろそれがなかったみたいに感じられる曲を聴くと、気が晴れたりする。だから、あんまり深刻なことを歌うもんじゃないな、と思うんですけど。なんか書いちゃいましたね。
-書いてみて、どうですか? やっぱり嫌だな、と思いますか?
恥ずかしげもなく、よくそんなこと言うな、みたいな。ひとりで盛り上がってるな、こいつ、みたいなところはありますね。人に自分の悩みを相談してる、みたいで恥ずかしいところもありますけど。でも、求心力のある歌詞だなと思いました。これを特別な曲って受け取ってくれる人もすごくいるので。
-この曲、"悲しくたって笑えるよ/泣きながらでも走るよ"っていうフレーズが、とてもいいなと思ったんですよ。
俺たちは悲しくても笑ってることばっかりですからね。全然余裕です。
-ポップ・ソングって悲しみは乗り越えようとするし、涙は拭いてあげようとするんですよね。でも、下川さんは垂れ流したままでいいんだって言う。そういう伝え方をできたことで、深刻ぶった歌も、自分の中で腑に落ちたんじゃないかなと思うんです。
たしかに。最近、本当にみんな涙を拭いてもらいたがっているんだなって気づいたんですよね。僕はあんまりわからないんですよ、自分の悲しみを人にあげたくないほうなので。他の人は俺の事情とか知らないじゃないですか。なのに、わかったような口をきくな、みたいなことを思うような子供だった。でも、歌を聴いて涙を拭かれたことはあるんです。だから、自分の中で合う言葉、合わない言葉はありますよね。
-「誰かを救える歌」は、自分ならどう救うか、ということに初めて挑んだわけですよね。
そうです。誰かを救える歌自体を歌おうって決めて、それに対して向き合うバンド人生というものも書きたかった。まぁ、単純に"悲しみを乗り越えよう"みたいなことを歌えるバンドだったら、もう少し売れてたと思うんです。それを自分の言葉でやろう、みたいな。風呂場で髪切るでも鼻毛がどうこうでも、なんでもいいんですけど。結局、歌って、誰かを歌う機能みたいなのが確実にあるので。そういう機能があることを無視して歌うことはできないと思って、この曲は作ったんです。"僕なんか誰も救えませんよ"みたいなことは言えませんよね。どんなにさりげない曲でも、人の何かにはなってると思うんですよ。バンドやるって、そういうことですよね。
-だから今回のアルバムって、バンドがどうあるべきかを歌う曲が多いんですね。「美しい沼」も、挫・人間がみんなの沼になるっていう曲だなと思ってて。合ってます?
合ってます。新体制になったっていうのが、まずデカいんですけど。ここから殻を脱いでいきたいなっていう、そういうテーマの1枚目なんですよね。「美しい沼」は、美しさが一番大事だと思って書いたんですよ。バンドのいいところって、価値の転倒があるところだと思うんです。
-"価値の転倒"。
例えば、ラッセンのイルカじゃないですけど、"これ、きれいですよね"みたいなものってありますよね。でも逆に、公衆便所とかが写真としてバシッと切り撮られたときに、そこにも何か美を見いだしてしまう心が人にはあると思うんですよ。それは音楽に限った話じゃなくて、あらゆる芸術がそうだと思うんです。汚いものがきれいになったり、きれいなものが粗末になったり。そういうことに良さがあると思うので。"美しい"っていうのは、きれい汚いに限定されない言葉だなと思ったときに、僕は"美しい沼"になっていきたいなと思ったんです。
-そういうのって、もしかしたらバンドの初期衝動に近くないですか?
あれと同じですよ、「リンダリンダ」(THE BLUE HEARTS)的な。"ドブネズミみたいに美しくなりたい"。あれ、びっくりしましたもんね。ドブネズミを見たことがなかったんですけど。ドブに? ネズミ? って、ダブル・パンチの言葉をポンッて出すことで、僕が今ややこしい言い方をしたことを、甲本ヒロト(Vo)氏はスッと言ってるわけですよ。あれに魅力を感じてるから、バンドみたいなうるさいものがかっこいいと思うんじゃないですかね。普通だったら、こんなに音がデカくて、キラキラした音も全然入ってないものなんて嫌だよって思うはずなのに。
-今作の「デスサウナ」も、"美しい"って言ってくれる人がいたらいいですね。
そいつは間違ってると思いますけどね(笑)。でも、『もょもと』(2017年リリースの3rdアルバム)に入ってる「Tee-Poφwy」っていう曲はふざけた曲なんですけど。あれ、ライヴでやるたびに泣きますっていう人が何人かいるんです。ちょっとそれはわかるなと思うことがあって。本当にバカで意味がないものをでっかいステージでドーンとやられると、その高潔さに号泣することが僕もあるので。そういう気持ちでいてくれるなら、ありがたいなと思いますよね。
-タイトルの"散漫"というのは、あっちこっちに散らばった曲が集まったから?
アルバムを通して見たときに、今までの挫・人間の総括になったなと思ったんです。いろいろな挫・人間の要素が入ってるから。それが注意散漫だなって。"散漫"っていう言葉が似合うバンドだなって思ったんですよね。あんまりポジティヴな言葉じゃないかもしれないけど、これを聴くと、"散漫"って、ちょっといいことかもしれないって思う。そういうネガティヴにも、ポジティヴにも捉えられる言葉を付けたかったんです。
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