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INTERVIEW

Japanese

a flood of circle

2020年10月号掲載

a flood of circle

Member:佐々木 亮介(Vo/Gt)

Interviewer:秦 理絵

-ちなみに「Beast Mode」のミュージック・ビデオ、かっこ良かったです。監督が番場秀一さんですね。

ありがとうございます。俺は演奏シーンだけでいいって言ってたんですよ。でも、"監督どうしようか?"って話してたときに、テツが"番場さんとやりたい"って言って、実現したんです。で、現場に行ったら、バイクがあって、炎が燃えあがってて。

-特撮っぽいですよね(笑)。

仮面ライダーかよっていう感じの(笑)。やっぱり番場さんはすごいなと思いました。炎、バイクとか言ったら、笑っちゃうところがあるじゃないですか。そこを突き抜けていくんですよ。出てきた映像を観ても、空を綺麗に見せるために調整するんじゃなくて、とにかくヤバい色にするんだっていうエネルギーだけであの色になってて。

-番場さんに、楽曲の説明はしたんですか?

いや、俺からは何も言ってないです。彼が「Beast Mode」から感じとってくれたものが、ノーへルでバイクに乗って絶叫してるみたいなことだったんですよ。

-番場さんから見て、この時代に全力でロックンロールやってますっていうフラッドが突き抜けた存在に見えたからこそ、あれだけ突き抜けたビデオになったんでしょうね。

そうかもしれないですね。番場さんとは今回、初めて一緒にやったんです。だから、俺らのプロフィールとかも詳しくは知らずに、純粋にイメージだけで撮ってくれたんだと思うんですよ。さっきの"インスピレーションのある人と付き合いなさい"っていうところで言うと、番場さんはインスピレーションがありまくる人でしたね。

-12曲の枠の話で言うと、「Beast Mode」のイントロのような立ち位置で作ったのが1曲目の「2020 Blues」だそうですね。まさにライヴの幕開けのような曲で。

そのイメージですね。いつもアルバムの1曲目って、みんなで悩むんですよ。で、多数決とかになっちゃうから、この曲では最初から、サウンドも、ギター・フレーズも、何もかも1曲目を意識して作ったら、こういう感じになりました。

-この曲には、さっき話に出た、佐々木さんの"もともとそんなにいい世の中だっけ?"っていう感覚が出てるんじゃないかと思います。

奇しくも、それにあとから"2020"がついてきちゃった感じですね。コロナを意識するなら、"マスク"って入れてもよかったんですけど、あえて入れませんでした。

-社会全体に蔓延した閉塞感が断片的な言葉で投げ掛けられてますけど、中でも"正しさとはなんなのか?"みたいな疑問に目が向いてるように感じましたが。

何を信じていいかわからないなと思うんですよ。去年も、正しいとされてた文章が余裕で改ざんされたし、コロナで言うと、最近もCDC(米疾病対策センター)が発表したことが、すぐに覆されたじゃないですか。もう何を信じていいかわからない。でも、その中でも生きていくわけだし、何かを妄信しないと、何もかも疑わしく思えてしまう。その微妙なバランスの中で書いていたような気がします。

-アルバムは「2020 Blues」からダークに幕を開けますけど、最後に「火の鳥」があることに希望を感じました。これも最初からイメージしていたんですか?

アルバムの流れはそうしたいなっていうのはありましたね。

-「火の鳥」は、手塚治虫の作品から作ろうと思ったものですか?

いや、引用したっていうほどじゃなくて。もうちょっとふわっとした感覚で付けたタイトルですね。この曲の最初のデモは英詞でもっと暗い曲だったんです。RADIOHEAD風というか。それが日本語になったときに、直感で付けたタイトルがそのまま生き残ったんです。自分の子供のときから今に至るまでを全部書いちゃいましたね。

-なぜ、今自分の人生をそのまま書こうと思ったんですか?

最初に、サビの"歌を聴かせてくれ"っていうフレーズがあったんですよ。で、それを歌うためには、自意識が芽生えた9歳ぐらいのことから、現在まで、自分のことをマックスのサイズで書かないと、自分が思ってることに追いつけないなと思ったんです。

-この曲って、今日話してくれた佐々木さんの思想が全部詰まってるんですよね。この限られた命の中で、なぜ歌うのか、何を欲しているのか、なぜ日本人は平和だと思っているか。それに"火の鳥"というタイトルを付けて、何度でも蘇るっていう部分を強調しているのが、とても佐々木さんらしいです。

まだこんなこと言ってるのかと思われるかもしれないけど、書いちゃうんですよね。子供のときに"世界平和"っていう言葉を知って、それがいつか訪れるんだろうなと思ってたんですよ。でも、大人になると、たぶん訪れないだろうなって思うようになってしまうじゃないですか。そこからまた今、物事が良い方向に変わっていくためには繰り返すしかないよねって思うようになってるんです。別に正しさを押しつけるわけじゃないけど、発表し続けないと、黙りこむだけになるから。何度も言い続けたいと思うんですよね。

-その"繰り返すことで良くなる"みたいな想いって、何が原点にあるんですか?

森 達也さんっていうドキュメンタリー作家がいるんですけど、その人と一緒に死刑制度について語るイベントに出たことがあるんです。そのときに思ったのが、制度としては決まってることでも、本当に正しいかどうかは誰もわからなくて、今後、変わるかもしれないっていうことなんです。1回決めたことも、何回でも考え直せるし、良くなる可能性はあるなって思ったんですね。そういう人と喋ってると、歌詞で小難しいことを書こうと思わなくなるんですよ。自分とは違う考え方の人にも歌を届けたいと思うから。「火の鳥」を書いたときは、わりとそういう意識があったかもしれないですね。

-アルバムに関する最後の質問として、"なぜ、今作が「2020」というタイトルに着地したんですか?"って聞こうとしたけど、聞くまでもないですね。佐々木さんが生み出す歌はいつも現代社会と繋がっているものだから。

そうですね。社会と切り離さずに書いてはいるけど、これはニュースじゃないから、そのときに感じた気持ちのほうを大切にしてて。このアルバムを未来で聴いたときに......その時代は今より良くなってると信じたいけど、もしまだ良くない部分が残ってたとして、"まだいけるかも"って思える作品になったらいいと思うんですよ。

-"2020"っていうタイトルなのに、未来の希望にもなり続けてほしいっていう考え方は面白いですね。

いつでもなるべく"もっといける"と思っていたいですからね。

-ちょっと話は逸れるけど、音楽って、新曲を聴くときの感動に勝るものって、なかなかないと思うんですよ。

うん、わかります。新曲は最高ですよね。"俺らの"だけじゃなくて。他の人の曲を聴いてても。それは、さっきの話で言うと、"火星人"だから。自分がわからないものっていうのは、わかりたいと思うし、いつでも新曲を聴くときが最高なんですよね。

-でも、この『2020』も、やがてはアーカイヴになっていくわけじゃないですか。そうなったときにも変わらない価値が作品にあってほしいと望むのも、佐々木さんのソングライターとしての欲望のひとつなんだろうなと思いました。

たしかに、そこが面白いところだなと思ってます。これから先も暫定死ぬまでこのバンドをやり続けるからには、どんどん過去曲が積みあがっちゃうんですよ。それは、なるべく更新していきたいけど、培ってきたものの強さもあるんですよね。そういう過去の曲たちと、新しく生まれてくる曲の勝負を楽しんでるところもありますよね。

-そこに楽しみを見いだせるのも、バンドを14年間続けてきたからこそ、ですか?

いや、言葉では言ってないけど、感覚としては前から思ってたんじゃないかな。当然、デビューしてなかったし、するアテもないし、金もない。何もなかったけど、"今までの俺より、もうちょっとマシだったらいいのに"って思いながら、何かを作ったり、発表したりしてたはずだから。それにワクワクしてた。例えばですけど、"俺、今日ここでライヴやったら、すごいアメリカのデカいレコード会社の人がいるかもしれない"みたいなことを期待してるわけですよ(笑)。今日、デビューできるかもしれないとか。

-そこで爪痕を残すぞ、みたいな。

あの気持ちは、たぶんずっとあると思ってて。今日、新しい曲を書いたら、もしかしたら、これまでの曲が全部どうでもいいと思えるぐらい、超名曲になるかもしれない。アルバムを録ってるときは、まさにそれですよね。もしかしたら、俺がスピッツの『フェイクファー』を聴いたときみたいに、これが誰かの人生を変えちゃうかもしれないって。

-そういう気持ちで、今回の『2020』というアルバムも作ったと。

あんまりおせっかいに人に稲妻を落としてやりたいとか、そういう気持ちで作ってるわけではないけど。何かすごいことが起きるかもとか、今日のライヴが始まったら、すごい気持ちいい時間がくるかもしれないっていうのをいつも期待してるんです。

-いいですね。今もロック・バンドは楽しいですか?

うーん......おおむね楽しいかな(笑)。

-"おおむね"ですか?

うん、今はライヴができないっていうのがあるから。あと、さっき3部作の話をしましたけど、要するに、まだ達成感はないんですよ。もっといけるっていうポジティヴな部分と、まだいけてないんだっていうのが共存してるので。楽しんではいるけど、ストイックな部分もないといけないなっていう気持ちですかね。

-アルバムの話はここまでにして、最後に、今後コロナ禍でバンドを活動していくことに関して、考えていることを聞かせてください。

これは自分って言うよりは、仲間同士で"そうだよね"って確かめ合ってることなんですけど。ユニゾン(UNISON SQUARE GARDEN)の田淵(智也/Ba)さんもそうですし、9mmの(菅原)卓郎(Vo/Gt)さんとか、(山中)さわお(the pillows/Vo/Gt)さんとも、"元に戻る"っていうか、普通にライヴができるようになったら、絶対に最高だからって言ってるんです。どうせ泣けるから、みたいな。どんなコメディみたいなバンドでも絶対に泣ける。それはわかってるから、元に戻ったら、みたいなことは考える必要がない。元に戻るまでをどう楽しむかが大事だなって。

-その過程でどんな活動をしていくか、ですね。

だから、フラッドのツアーの初日が飛んじゃって、普通にライヴができないから、"a flood of circle vs SATETSU vs 佐々木亮介「Acoustic Night 2020」"(10月25日千葉LOOKにて開催)っていう、どう考えても、俺が大変なイベントをやるんです(笑)。

-佐々木さんが出ずっぱり。

そう。しかも、2回まわしで。もちろん普通にライヴをやりたいっていうのはあるんだけど、生きてたら、どうせ最高の日はあとから来るから。来るはずだから。できないうちは、簡単に飛ばすだけじゃなくて、その中で楽しいことをするっていうのがいいよねって思ってますね。だから、LIQUIDROOM(2020年11月25日開催の"a flood of circle presents「2020 LIVE」")もやります。ちょっとだけお客さんを入れて、配信もやります。元に戻ったら、絶対にこんなことやらないですから(笑)。

-ロック・バンドに配信は似合わないですからね。

そこではアルバムの曲はなるべく全部やろうと思ってるんです。ツアー初日みたいな感じで。本来はそのライヴハウスに来た人しか観れないものだけど、今は観たい人が全員観られるのがいいところだと思うので。みんなで楽しめるポイントを探していきたいです。

-この状況でもフラッドは止まらずに転がり続けるということですね。

そうです。メンバーが失踪したときだって止まってないですから。代わりに俺がギターを弾かなきゃって、人生で一番ギターを練習したし。それで、ちょっとギターが上手くなったし。とか思うと、ベタすぎるけど、悪い条件のときは、めちゃくちゃチャンスなので。今がそうじゃない? ってことですよね。全員ピンチで全員チャンスみたいな。

-フラッドは、もはやピンチが通常運転みたいなバンドだから。こういう時代には強いぞということでしょうね(笑)。

まさに。こういう状況でも、みんなをもっとハッピーにしたいし。さっきの欲望の話にも繋がるけど、それが俺のハッピーだからっていう感じですね。

RELEASE INFORMATION

a flood of circle
10thフル・アルバム
『2020』
[Imperial Records]
2020.10.21 ON SALE
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