Japanese
キタニタツヤ
Interviewer:秦 理絵
-デマゴーグ的な作品にしたいっていう方向性は、わりと制作の早い段階からあったんですか? それとも、ある程度、曲ができてから膨らんできたものなのか。
作ってるうちに、ですね。最初に作ったのが、1曲目の「ハイドアンドシーク」だったんです。この曲って、視座が一番高くて。"悪いことをすると、お天道様がお見通しだよ"みたいな曲を作ろうと思ってできたんです。見張られてる息苦しさや窮屈さですよね。それができたタイミングで、アルバム名やコンセプトを考え始めて。"神様が見てる"なら、まだいいけど、SNS越しの顔も知らない誰かに見張られてるのは嫌だなとか。じゃあ、これをなんとかしないとな、みたいに考えていったんですよね。
-最終的に自分なりの答えを出すっていう流れにはしたかったんですね。「ハイドアンドシーク」に始まって、前半は悪夢のような世界を歌っているけれど、「デマゴーグ」と「泥中の蓮」っていうラスト2曲では希望が見える終わり方になってて。
うん、この曲順は大事でしたね。1曲目の「ハイドアンドシーク」から5曲目の「悪夢」までは、とにかく人間の嫌なところを書いていったんです。で、その視座をだんだん低くしていって。「ハイドアンドシーク」は、嫌な相手が神様というか、超越的な存在なんですけど、「人間みたいね」は親しい人との1対1の話だし、「悪夢」は自分の中だけの話に完結してる。でも、ふてくされて終わるのは嫌だから、6曲目に「デマゴーグ」っていう曲を置いたんです。ずっと暗いままだと、アルバムとして意味がない気がしたんですよね。じゃあ、どうやって前を向いていけばいいのかっていう解決策を提示しないと、表現者として意味がないっていうのは思ってました。
-コンセプトが見えてからは、それを説得するピースをはめるように曲を作っていったと。
そうです。コンセプトありきで、"こういう曲が足りない"って作っていきました。
-だからこそ一曲一曲に明確な役割があるアルバムだと思うので、ここからは1曲ずつ話を聞かせてください。
頑張って喋ります(笑)。
-「ハイドアンドシーク」に続く、2曲目の「パノプティコン」はテーマが連動してますね。パノプティコンは、監視システムというような意味ですけども。
嫌な相手がちょっと小さくなってますね。超自然的な存在じゃなくて、人間の群れ、社会が相手です。例えば、SNSって本人に悪気がない投稿でも、実はそれが倫理的に正しくなくて、めちゃくちゃ叩かれて炎上することがあるじゃないですか。で、その人のアカウントが消えるとか。でも、今度はそうやって叩いてた側が何気ない日常ツイートで炎上することもある。そういうものを見てるとき、僕は"お前、悪いやつだな"っていう気にはなれないんですよ。なぜなら、自分だって、そういうミスを犯してるはずだから。そうやって、お互いに監視し合ってる社会は生きづらいなって思うんです。
-そうですね。
歌詞の中に"テレスクリーン"っていう言葉が出てくるんですけど、これは、ジョージ・オーウェルの"1984年"っていう有名なディストピア小説に出てくる装置なんです。あれは、ビッグ・ブラザー(※登場人物)が世界中のスクリーンで監視してるっていう話ですけど。そのスクリーンが、現代社会ではSNSになってるんですよ。しかも、監視する人がビッグ・ブラザーひとりじゃなくてお互いになってる。それってマジで最悪じゃないですか。
-かつてフィクションで描かれたディストピア世界よりも、この現代社会のほうが、もっとひどい状況になってるっていう。
そう、私刑で石を投げ合ってるみたいなね。
-キタニさん自身はお互いに監視し合う社会の中で、どう立ち振る舞うのが、自分では正しいと思いますか?
個人的には、それぞれが自分の倫理を見直すしかないから、"人のふり見て我がふり直せ"の姿勢しか方法はないと思ってます。でも、それもきれいごとなんですよね。みんなが清廉潔白な人になるなんて無理な話だし。
-この曲の中でも、この社会に対する解決法は提示できてないですね。
そう、解決方法が見つからないんです。
-3曲目の「デッドウェイト」は少し"嫌な相手"の角度が変わります。
家族や親しい人が相手ですね。毒親っているじゃないですか。そういう親の何気ないディスのひと言ふた言が重なって、今後の人生を縛る呪いになっていく。"お前はブサイクだ"って言われたら、その人はずっと気にして生きていくことになる。それは、ディスの言葉だけじゃなくて、"頑張ってね"のひと言でも、"頑張らなきゃいけないのか"っていう重しになる場合もあると思うんです。それを、"デッドウェイト"っていう言葉で表してて。"デッドウェイト"は、船舶で使われる言葉で、それ以上荷物を載せられないよっていう限界の載貨重量のことらしいんです。
-目から鱗だったのが、他人からの否定的な言葉によって傷つくのはわかるけど、肯定的な言葉でも"真綿で首を絞めるように"って表現しているところなんですよ。
そう。歌詞の最後に"「優しい人であれ」と明日の僕を見張って"ってありますけど、これって、親からの期待の言葉じゃないですか。でも、それを真剣に受け止めすぎて"じゃあ悪人相手にも優しくしなきゃいけないのか"って、その人の行動を縛り続けてしまうことにもなる。純粋な行動指針として、"優しい人であろう"っていう捉え方ができたら、うまくいくかもしれないけど、そうじゃないことのほうが多いだろうと思うんですよね。
-4曲目の「人間みたいね」は、ファンキーでダンサブルな曲ですね。
これは前作の香りが残ってますね。こういうのがやっぱり好きなんですよ。
-その中で、"あなたまるで人間みたいね"という歌詞のインパクトがすごく強い。
あ、やっぱりそうなんですね。それ、ソニーの人にも言われたんです。"これは歌詞が本当に強いね"って。自分らしいフレーズではありますね。これも、必要に迫られて出てきたんですよ。どんどん視座を低くして、「デッドウェイト」で家族や親しい人のことを書いたあと、最終的に個人の問題にしたいと思ってたんです。でも、その前にもうひとつ関係性があるなと思ったのが、恋人なんですよね。愛した人間から裏切られたり、愛した人間を愛せなくなったりっていう人間の心の不思議。そこの人間関係について書いたら、バランスが良くなるなって思ったんです。
-このアルバムを完成させるのには、あらゆる関係性の中にある人間の嫌な面を深く掘り下げる必要があったと。
"嫌なことから目を背けるんじゃねぇぞ"っていう説教臭さを出すためにも、"お前ら、これを見ろ"っていうことですよね。これは、自戒でもあるんですけど。
-さらに、5曲目の「悪夢」では、救いようのない個人の嫌な部分へと掘り下げていきます。
ただ、個人の一番嫌なことってありすぎるんですよ。だから、この曲ではなるべく誤魔化して書こうとしたんです。で、着想を得たのが、僕がめちゃくちゃベロベロに酔っぱらって、家までの道を、ゲロを吐きながら帰ったときのことで(笑)。
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