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INTERVIEW

Japanese

植田真梨恵

2019年02月号掲載

植田真梨恵

Interviewer:渋江 典子

-私自身もこの曲を聴いて、故郷の風景が思い浮かびました。引っ越しのときに、母校などの懐かしい場所を訪れたのでしょうか?

うーん、最後だからお散歩したくらいだったと思います。懐かしいと言えば、歌詞の中の"窓際 歌っていたムーンライト"というところですね。実家は団地だったんですけど、子供のころ"美少女戦士セーラームーン"が大好きで、よくベランダで「ムーンライト伝説」を口ずさんでいたんですよ。

-その"ムーンライト"だったんですね。月明かりかと思っていました。

もちろん月明かりも間違いではないです。しかも、ストリングスのアレンジをお願いした池田大介さんは、まさに「ムーンライト伝説」の編曲も担当されている方なので、「ムーンライト伝説」を歌っていた幼いころの私から今の私にビュンっと繋がって。池田さんにアレンジしていただけて嬉しかったですね。

-"ムーンライト"の歌詞があったから、池田さんにお願いしたんですか?

もともと池田さんのストリングスはドラマチックな展開が素敵で大好きで。特に「FAR」みたいな5分30秒近くある曲に、いろんな風景を織り交ぜていただきたくてお願いしました。

-「FAR」でお気に入りのアレンジはありますか?

まず「FAR」は自分のために作った曲で、"さて、いい曲書くぞ!"みたいな気持ちで書いた曲ではなかったんですよ。とにかく、"こんなに心が揺れている今を音楽に変えねば!"という気持ちが強かったので、誰かに聴いてもらうことを全然想定していなかったんです。だからひとつの作品として世に送り出すときに、私はここに立っているんだけど季節がどんどん変わっていくみたいに、周りだけが目まぐるしく変化するイメージを池田さんや徳永(暁人)さんのアレンジで表現してもらいたくて。平坦なバンド・アレンジと劇的に変化するストリングスが平行に進んでいくところが気に入っています。

-Track.2のタイトル"ロマンティカ"はスペイン語で"ロマンチック"という意味ですよね。

これは最初から"ロマンティカ"っていうタイトルの曲を書きたくて作った曲で、旅に出るときに持っていきたい、ワクワクというか――"心のかけら"みたいなイメージで。

-その植田さんの感情を言葉にすると"ロマンティカ"だったということですか?

そうですね。"大人の成長"がテーマのミニ・アルバムを作るってなったときに、誰もが持っている好奇心とかキラキラした"ロマンティカ"みたいなものがくすんで、なくしてしまわないように、『F.A.R.』の中にこういう曲を入れたかったんです。まぁくすんじゃってるから『F.A.R.』に入っているんですけど(笑)。みんなが持っていた心のキラキラを"ロマンティカ"と呼んでいます。

-夢や希望を言い換えた"ロマンティカ"というタイトルながら、喪失感を乗り越える歌でもあるのかなと思いました。

本当にそうです。友達が失恋しちゃって。でもそれは必要な失恋だったように感じたので、お尻を叩くように"ほら前に進もうよ!"って思いを込めて、パワーが湧いてくるような曲を作りたくて。

-サポート・ベーシストの麻井さん(麻井寛史)によるアレンジだからか、バンド編成のライヴで映えそうな曲ですよね。

麻井さんにはインディーズのころからアレンジしてもらっているんですよ。ほかの楽曲のアレンジをお願いした方も昔からお世話になっている方ばかりですけど、たしかに常々ライヴでお世話になってるのは麻井さんだけですね。レコーディング・スタジオで、この曲を持ってツアーに行くときのイメージを麻井さんとお話ししながら録りました。

-「プライベートタイム」はかわいいメロディだけど寂しさもある、今まで感じたことがない気持ちが残る曲でした。どういうふうに生まれた楽曲なんですか?

私もこの曲ができたときは不思議な感覚でしたね。今自分がどういう感情なのか、自分自身でフォーカスしていなかったときにアコギを弾きながら作ったら、こういう曲になっちゃって......私は寂しかったんだなって思いました(笑)。昔は、私はいろんなことをはっきり決めていくことが美しいと思っていたんです。でも、はっきり決められないこともたまにあるじゃないですか。いろんな事情とかが見えたときに、決断ができなくなっちゃうというか。家の近所に野良猫がいっぱいいるんですけど、懐いてきた猫がいて。

-この曲に登場する"黒いねこ"ですか?

そうです。その子をどうしてあげることもできないというか。飼ってあげることもできないし。心の中にあったそういう気持ちからこの曲が生まれたのかなと思います。思いがけずして生まれた1曲です。

-「さなぎから蝶へ」は失恋ソングとも、離れた家族を思う曲とも感じました。

対バンしたことをきっかけに、たまにご飯に行ったり話をしたりしていたシンガー・ソングライターの真友ジーン.ちゃんが亡くなってしまって。それを聞いたときにすごく落ち込んだんですけど、エネルギッシュで、DIY精神や楽しい、ワクワクっていう気持ちが溢れている子だから、そんな雰囲気で送り出せたらいいなと思って書いた曲ですね。

-では"アイラブユーモア ラブユー"という歌詞は真友ジーン.さんに向けて歌っていると。

そうですね。あとは真友ジーン.ちゃんが歌ってくれたらいいなっていう思いもあります。昔からずっと考えていたことなんですけど、歌を歌っている人って、亡くなってその人の姿形がなくなったとしても、形を持たない音楽に昇華するんじゃないかなと思うんです。むしろ正しく音楽になったような気がするというか。亡くなったあとは、みなさんの心の中で音楽が鳴り続けるから、形を持った人間というものから形をなくして音楽になって、永遠になるんじゃないかなって。それは音楽を作る者としてすごく素敵なことだし、私も一生歌い続けていたい。だからあんまり悲しすぎないイメージがいいなと思って、でもやっぱり悲しいから、こういう曲になりました。

-「プライベートタイム」や「さなぎから蝶へ」は1曲で聴くと大切な人を想う歌に感じますが、『F.A.R.』という作品の中で聴くと、夢を追うことや成長を描いているように感じられるのが不思議な感覚でした。制作においてこだわったポイントを教えてください。

テーマとして"大人の成長"を掲げて作っていたなかで、"すべてに別れや終わりみたいなものがある"という気づきに直結してしまって。曲が並んだときに全体が寂しいテイストになっちゃったなと思ったんです。かといってそこに浸って悲しんでいるわけでもなかったので、ちゃんと次に向かって進んでいけるように、何回も繰り返し聴きながら誰かの生活に馴染んでいけたら寂しくないなと。だから先ほどお話しした"毎秒気持ちがいい、ただ流してるだけでも聴ける"、そういう音楽を目指して、コンセプトに沿って作りました。