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INTERVIEW

Japanese

挫・人間

2018年11月号掲載

挫・人間

Member:下川 リヲ(Vo/Gt)

Interviewer:沖 さやこ

-どの曲でもそうやって突っ走っているぶん、楽曲それぞれの感情ははっきり明示されているかもしれませんね。「webザコ」は怒りと楽しみの融合というか(笑)。

これは友達同士で話している面白悪口みたいな感じなんで、笑ってもらえれば(笑)。秋葉原サイファーとかオタラップをやっている、10年くらいの付き合いになる友達のオタクをわざわざ呼んできて、全面的に参加してもらいました。まさかのパソコンのキーボードのタイピング音から始まり、オタクのボヤきで終わるという(笑)。

-あのタイピング音の感じだと、だいぶ古いタイプのキーボードですよね。

あ、そうなんですよ。めちゃくちゃ音がデカいんですよね。Appleはあの音をなくすために企業努力してるのに、僕らはわざわざAppleのヴィンテージのキーボードを持ってきて、そのオタクにわざわざ文字を入力させて(笑)。タイピング音が鳴っていればそれで良かったんですけど、そのオタクが"文字を出力しないと意味がない"と言い出しまして......。

-たしかに文字を画面で見ながら打つのと、見えていない状態では指さばきに差異が出るでしょうし。

"キーボードは音を出すために作られたものではないので、文字を画面に打ち込んでいる音を録ろう!"という謎のこだわりを出しまして......。スタジオにいた全員でiPadとそのキーボードを繋いで、文字が出力できるようにセッティングしました。最後ボヤきのあとにカタタタタッという音が入っていると思うんですけど、最後に画面に書かれていた文字は"インターネット"だった......というどうでもいい小ネタがあります(笑)。

-(笑)その臨場感は間違いなくアクセントになっています。

オタクは見えないところまでこだわるんですよね(笑)! でもそういうところにまでこだわるのはとても大事だと思います。

-「webザコ」と「卑屈人間 踊ってみた」は挫・人間の性質や人生をキャッチーに表現した曲だと思うので、そういうところも開けてますよね。

その2曲は本当に挫・人間って感じの曲ですね(笑)。コミック・バンドでもなく、ギター・ロックでもない変なバンドなのに、(ライヴに)たくさんお客さんが来てくれるのは本当にありがたいなと思います。この曲は夏目とアベ(アベマコト/Ba/Cho)が作ったトラックに、僕がメロディと歌詞を乗せていきました。できあがっているオケにメロディを乗せるのは結構好きで、この曲もスイスイ作っちゃいました。得意なのかもしれない。

-そういうのは3人の阿吽の呼吸というか、仲の良さあってこそ、というところもあるんだろうなと。

あははは(笑)、そうなんですかね。たしかに今回のアルバムはみんなで作ってる感じがすごくしてます。「笑いあうために」は僕が弾き語りで作っているときはこんなアレンジになるとは全然思っていなくて。スタジオでバンド・メンバーにコード進行と曲のテーマを伝えたら、"ここはこういうリフを入れてみたらどう?"といろいろ意見を貰って――そういうふうにメンバーと相談しながら曲を完成させていったのは初めてのことだったので、すごく思い出深い曲なんです。

-ホーンが入って洒落た仕上がりになって。とても温かくて感動的な曲ですよね。この曲も先ほど歌詞に悩まれたとおっしゃっていましたが。

そうですね。やっぱり適当な嘘はバレてしまうので、いくら前よりも届くものを書くとしても、嘘を書くわけにはいかない。本当に思っていることでないと書けないし、悲しい歌にはしたくなくて。そんなことを考えていたときに、ちょうど友達が結婚する機会が増えてきたんです。そこで"俺は結婚式で歌える曲を1曲も作ってきてないな"と気づきまして(笑)。そういうところで歌っても恥ずかしくない、前向きな曲を書いてみようと思って。自分の中にある前向きさを発揮してみました。でも自分であることは見失わないようにしましたね(笑)。

-(笑)"自分に自信が持てない"とか"「愛してる」が似合わない"とか、下川節は効いてますよね。

爽やかなバンドなら爽やかな言葉遣いをするんでしょうけど、そういうのは僕にとっては信用できない言葉だから。でもそういう爽やかさと同じ意味を持つ言葉遣いがあるはずだ! と思いながら作っていきました。普段は恥ずかしくて友達とかとそういう話はしないんですけど。

-友達との普段の会話を曲にしたような「webザコ」とは真逆の切り口というか。

そうですね。自分の中にあるものなんだけど、普段外に出していないものを歌にしてみたら、すごく時間がかかってしまいました。

-ラストの"アイラブユー ウォーアイニー 一緒に憎んだすべてと/笑いあうために"は、バンドの歩みも見えるぶん、とてもロマンチックなラインだと思います。

ありがとうございます、照れますね(笑)! やっぱり挫・人間というバンドはそもそもがコンプレックスを抱えていて、"憎しみ"というものがスタートだと思うし、挫・人間を聴いてきた人もそういう節があると思うんですよね。でも、そういう人はコンプレックスに縛られがちなところがある気がしていて。

-そうですね。本当はそういうことに憧れも持っているのに"自分なんかがそんな場所に行くなんて"と思って躊躇してしまったりして。

そうなんですよね。本当は"笑いあう"のが一番いいことだと思っているのに、なんとなく"やっちゃいけないこと"や"裏切り"のように思い込んでしまって、コンプレックスから脱することができないままというか。だからそれを陰キャの代表格である僕が"そんなことないぜ!"と言わなきゃ――と謎の義務感が働きまして。

-下川さんがこう歌うのは、「恋の奴隷」でバッド・エンドに逃げなかったのと同じく、勇気ですよね。

日本で一番捻くれているのは俺だな! と思うくらい(笑)、陰湿で陰気で鬱々としている人間であるという自信があるんですよ。だからこそ目の前の現実をちゃんと受け止めなければいけないなと。挫・人間の周りには僕らと同じように捻くれた奴らが集まってきて、一筋縄じゃいかない人たちばかりで――そういう人間だからこそ歌う説得力があるなと思ったんです。