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INTERVIEW

Japanese

それでも世界が続くなら

2016年09月号掲載

それでも世界が続くなら

Member:篠塚 将行(Vo/Gt) 菅澤 智史(Gt) 琢磨 章悟(Ba) 栗原 則雄(Dr)

Interviewer:吉羽 さおり

-菅澤さんのギターって、サウンドの中では空間的な部分を担っていて、曲の色味を出すパートでもあると思うんです。音そのものは柔らかいですが、同時に緊迫感がありますよね。こういうのもレコーディングでは大変なのでは。

菅澤:そうですね。ああいう音ってどんなに同じように弾いても全然、出方が変わるんです。その場その場での雰囲気というのは、大事ですね。

篠塚:大変なんですよ、あのギターって。クラシックっぽいというか、ヴァイオリンっぽい奥行きのある音の出方をするというか。エフェクターでも、コンプレッサーを使うと全然ダメなんですよね。

菅澤:音が、平べったくなっちゃうんですよ。

篠塚:だから、人力の強弱で変えなきゃいけないっていう。クラシックっぽい演奏方法だと思います。だから現代的なレコーディングとは相性が悪いんですよね。ベースも、フラットワウンドのツルツルの弦を使ってるんですよ。ドラムのバスドラもノー・ミュートなので、鳴ったあとボーンって響いてるし。やっていることはロック・バンドですけど、やり方自体は、クラシックっぽい発想だったりするから。ドライな録り方が合わないんです。変わったバンドだと思いますね。

-そういうことでも、今作のタイトル"52Hzの鯨"ってまさに、他にはない音だったり、自分たちの声や音をいかに発するか、ともとれそうですね。

篠塚:嬉しいですね。この"52Hzの鯨"って実際にいる鯨なんです。他の鯨が聞き取れない52Hzの周波数で歌ってる鯨がいて。いくら声を出しても仲間と交信できないんです。たしか、鯨の寿命って80年とか100年なんですけど、ずっと孤独なんですよね。それで"世界一孤独な鯨"と呼ばれているんですけど。その話を人から聞いたとき、考え方によっては、人間社会でもあり得る話だなと思って。52Hzの鯨が世界で一番孤独だというけど、人間世界で言えば孤独な鯨がいっぱい存在するかもしれない。もっと突っ込んで考えたら、そもそもお互いが本当の意味で交信できてるのか? っていう。交信はできても、本当に伝わっているのかなと思いません?

-たしかに。

篠塚:普段の会話でも100パーセント伝わっていると思う方が危ないというか。伝わってないかもしれないな、でも伝わってほしいなと思って喋ってるじゃないですか。そういう意味合いもあるし、単純に52Hzの鯨ってかわいそうだなって見る人もいると思うんです。同じように、僕らの曲を聴いて悲しいな、かわいそうだなって人もいると思うし。きっと捉える人次第で、この52Hzの鯨の話は、"孤独で悲しいですよね"っていう人もいるかもしれない。今言ってくれたみたいに、バンドの姿勢そのものだと言ってくれるのも嬉しかったですしね。聴く人の気持ちが反映された言葉を、僕の方が聞きたいというか。

-お話を聞いていて思ったのは、相手を否定してないなと。歌にもそれはあったけれど、今回お話を聞いてよりそう思いました。ただ届けばいいと思ってなくて、一生懸命届けてる。

篠塚:今回のアルバムを作って思ったんですけど、簡単に言うと、誠実でいたいんですよね。音楽でもなんでも、ただ誠実でいたいだけなんです。そういうものが好きだし。でも、誠実って、とげとげしてるじゃないですか。

-なかなか難しいことですね。

篠塚:嘘ついた方が、傷つかないこともたくさんあるんですよね。でも誠実でいたいなっていう方が大きいです。言葉を選んでいくのが大人じゃないですか。それが無理なのはわかってるけど、音楽、ステージの上では、建前なしでいきたいです。それに付き合わされる3人はめんどくさいと思いますけど。

-琢磨さんは、このバンドの面白さって何だと思いますか。

琢磨:改めて考えるとなんなんだろうな。4人とも、向上していくことですかね。一緒に音楽をやってると、こんなこと覚えていたとか、新しいことをしてきたり、自分もそれに対して音を返していくんですけど。それによってサウンドがどうなるのかを見てるのが面白いし。引き出される感じもある。それがずっと続いていくというか、時間が経つにつれて、変化していくのが面白さとしてあります。

篠塚:抽象的だなぁ(笑)。

-きっと言葉を介して作ってないぶん、お互いに試されてる感覚は強いんじゃないですか。

篠塚:そうですよね。言葉でこうしようっていうのを、できるだけ減らそうとしてるんですよ。必要だから、ちょっとはあるんですけど。"わかるよね?"っていう。そういう意味では、試されてるっていうのはあるかもしれない。

琢磨:僕はこのバンドで初めて楽器を持ったんです。最初からこの感じだったので。

篠塚:楽器を始めて1週間とかの状態なのに、好きに弾いていいよって。

菅澤:それ初心者に言うことじゃないからね(笑)。

琢磨:だから、試されるんです、4人ともが。それが面白いと思いますね。