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INTERVIEW

Japanese

Ulon × 篠塚将行(それでも世界が続くなら)

2021年05月号掲載

Ulon × 篠塚将行(それでも世界が続くなら)

西東京在住の4ピース・バンド、Ulonが1stアルバム『ReBirth』をリリース。ロックもパンクもオルタナも、またソウルやフォークに、ポスト・ロックから実験的なアプローチまでと、そのサウンドは既存のジャンルや定型にはまることなく紡ぎ出されていく。ノリのいい会話を楽しむような抑揚やボルテージは、4人の関係性そのままで、それぞれ思い思いにああだこうだと掛け合っている自由さがある。そして、そのサウンドに、不器用な生き様を吐露するような歌が乗る。些細なズレだがとても大きなひずみや、つまずきの痛み、孤独の悲しさや無上の喜びが、繊細に赤裸々に描かれて飛び込んでくる。プロデューサーに迎えたのは、それでも世界が続くならの篠塚将行。彼が、バンドの良き理解者として、時に通訳的役割を果たして、バンドのポテンシャルを引き出した作品だ。今回は、Ulonのメンバー4人と篠塚で、Ulonサウンドを作り上げた過程を語ってもらった。

Ulon:イブキナリサワ(Gt/Vo) スズキリョウヘイ(Gt) マエジマハヤト(Ba) うえのまりん(Dr)
それでも世界が続くなら:篠塚 将行(Vo/Discord Gt)
インタビュアー:吉羽 さおり

-Ulonはどんなふうにスタートしているんですか?

イブキ:これまでもバンドはずっとやっていたんですけど、いつも俺からメンバーがどんどん離れていってしまうんです。

マエジマ:前のバンドね。

イブキ:そう。リョウヘイさんとはずっとやっていたんですけど。

-何が合わなくなってしまうんですかね。

イブキ:俺の頭が硬かったんですよね。ずっと、自分がこうしなきゃいけない、ああしなきゃいけないっていう感じでやっていたんですけど。最近はそういうのをやめて。ルールがなくなったら、ずいぶんバンドが楽しくなりました(笑)。

スズキ:たぶん、本来のイブキに戻っていったんですよね。

マエジマ:僕が最後にUlonに加入して、それが2年くらい前だったんですけど。そのときはまだイブキが"俺がリーダー"、"俺が引っ張らなきゃ"っていう感じだったんです。今はもうそんなのがなくなっていて──

イブキ:そもそもが、誰かを引っ張れるような人間じゃなかった。

うえの:そうそう。むしろ、管理されるべき人間だっていう(笑)。

-不器用だけど、自分でいろいろやろうとしてこじらせていたんですね。

イブキ:こじらせて、だいぶ迷惑かけましたね。

篠塚:今は、すごく面白い感じなんですよね。何か話し合いをするにも、まずみんなで意見をわーっと出して──特に、まりんやハヤトが意見を言っている間、イブキは最後まで静かにしていて、最後にポソッと言う感じになっていて。

-そのくらいのスタンスでいるのが、自分が一番楽しめる感じだなと?

イブキ:そうですね。つらいことはやめようと思って(笑)。みんなが楽しいと楽しいから。

マエジマ:頑張らないっていう。

-リョウヘイさんはこういうイブキさんの変遷を知っているわけですね。

スズキ:そうですね。だいぶ長いこと一緒にいますけど、その当時から比べると、変わったのかなって思うんです。でも、人間の本質的には変わっていないんですよ。ただ無理をしなくなっただけで。

-もともとイブキさんはどういうバンドをやろうと思っていたんですか。

イブキ:パンク・ロックをずっとやっていたんです。でも、パンク・ロック好きだけど、森田童子さんとか加藤登紀子さんとかに出会った瞬間、"あ、俺はこっちだな"って思ったんですよ。精神的にはパンクなんですけど、優しい歌のほうが好きだったんです。

-そういう歌の世界に触れてしまって。じゃあ、これをバンドでどう表現したらいいんだ? ってなるわけですね。

イブキ:なりました。みんなに"紅の豚"での加藤登紀子さんの歌を聴かせたりして、"俺はこれをバンドでやりたいんだ"って言ったんです。とはいっても、初めはみんな"?"ですよね。加藤登紀子さんや森田童子さんを聴いて、これは俺だと思ったから、俺が作っているのはそういう曲たちなんだよって言ったんですけど──

マエジマ:何を言ってるのかわからない。

イブキ:最初は、ポカンですよね。

-今はその感覚もわかってきた?

イブキ:今は楽曲、サウンド面はメンバーに任せていて、自分は自由に歌えているので。加藤登紀子さんや森田童子さんがバンドになっている感じはしているんですよ。

-曲作りはどんなふうに行っているんですか。

マエジマ:イブキが曲を弾き語りで持ってきて、それを投げてくれるという感じですね。"好きにやっていいよ"って。

篠塚:その持ってきた弾き語りを、メンバーで破壊している感じだよね。

-弾き語りでぽろんと弾いたような曲からは、一番遠いセッション的なサウンドになっているように思います。イブキさんは自由に歌えているということですが、メンバーそれぞれも自分の色を自由に持ち寄っているんだなっていうのが伝わりますね。

篠塚:ひとりひとりの個性が出ているなと感じますね。イブキがそれを許容しているというか。

マエジマ:でも、しのさん(篠塚)がプロデュースに携わってくれる以前は、みんな歌に合わせようという感じでやっていたんです。歌を聴かせたいから、例えば、ベースは変なことをしないとか、ドラムもできるだけ派手なことはしない雰囲気があったんですけど。しのさんは、"みんな自由にやったほうがいいよ"って言ってくれたんですよね。そこからみんなそれぞれ、お互いのことを言わなくなったんです。

-今回のアルバムの前に、自主制作でリリースしたミニ・アルバム『生きてる』(2019年)を、篠塚さんプロデュースでリアレンジをした『Re-生きてる』(2020年)としてリリースしていますね。篠塚さんとUlonとの関わりは、どんなふうにスタートしているんですか。

篠塚:プロデューサーとして誘われて、いきなり新しい曲を作るのもなんなので、今ある曲をまずやってみようということだったんです。まずはひとりひとりの性格や、好きなことを聞いていって、このバンドはみんなのバンドなんだから、自分で好きにしていいんだよっていうのから、説き伏せていったというか。

-個々のインタビューから始まったと(笑)。

篠塚:そうでしたね。音楽っていろんな形があると思うんですけど。僕は、音楽はアート、芸術だと思っているんです。芸術は、そもそも芸術的な思考のほうが重要というか。絵や、文章でもそうだと思うんですけど、どうしてそのフレーズになったのかとか、どうしてその歌詞になったのかとか、その経緯や経過が大事で、どう生きたかというほうが大事だと思うんですね。なぜそのフレーズが出てくるのかとか、自分が信じたものをやっていい環境を大事にするとか。そういう環境から作っていくほうが、遠回りですけど、意味があるものが生まれるだろうなとは思っていたんです。特に、Ulonはひとりひとりが個性ある人たちなので。そういう意味では、今回のUlonのアルバムも芸術的なアルバムになったなと思っていますしね。

-そういうステップを踏んでいったことで、バンドの考え方もそれぞれがやりたいことをやっていいんだなとなれた。

イブキ:そうですね。バンドをやってるとどうしても、ここのドラムは、ベースはこうしてよとか、ちょっとこの歌が邪魔だなとかがあると思うんですけど。1回遊びで、ハヤト君がドラムで、俺がベースで自分たちの曲をやってみたことがあって。そしたら、自分たちの曲なのに、全然弾けないんですよね。これ、できないわって(笑)。

スズキ:できないよね。

イブキ:みんな、それぞれがすごいことやってるんだな、みんなすごいなって思って。そういうのを経験したら、できないことをやれなんて言えないですよね。

篠塚:イブキはただ人に優しいだけだと思いますけどね(笑)。

イブキ:でも、自分が家で作ってきた曲を、みんなが好きだって言ってくれて家で練習をして曲にしてくれるなんて、嬉しすぎて。バンドってそういうものなのかもしれないですけど......でも。

マエジマ:本当にそう思いすぎて、ライヴのMCでも言っちゃうんですよ(笑)。"メンバー、ありがとう"って。

-(笑)それくらい自由に曲を解釈をしてどんどん面白くしてくれているのが、この3人なんですね。

イブキ:だから、みんなに曲を投げたあとが楽しみなんです。

-とはいえ、投げられた曲から自由にやっていいよっていうのは、言わば白紙のようなものですよね。

マエジマ:この機会だから、逆にみんなに聞きたいんだけど、どうしてるの?

うえの:私はあまり曲を聴かないようにしてる。

マエジマ:あぁ、そんな感じだよね(笑)。

うえの:聴き込んでしまうとありきたりな感じになってしまうので、聴かないようにしていて。曲を無視したパターンや、フレーズを入れています(笑)。

マエジマ:リズム隊はあえて、歌に寄り添わないようにしているようなところはありますね。

篠塚:完全に合わせにいってるのはリョウヘイくらいじゃないですかね。

スズキ:最近はリズム隊ができあがってから、そこからギターをイメージして作っているので。そのほうが作りやすいんですよね。あとは歌を聴きつつ、間を埋めるというか。

マエジマ:気づいたら、ギターがいい感じになってるもんね。

スズキ:ギターについては何も言われないから(笑)。

イブキ:曲を作ってるときも、この3人でまずやっていって、リョウヘイさんちょっと適当にやっててって感じなんですよ(笑)。