Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

SEBASTIAN X

2012年07月号掲載

SEBASTIAN X

Member:永原 真夏 (Vo)

Interviewer:天野 史彬


-そうやって、今回の『ひなぎくと怪獣』が今までの作品と明らかに違った性質を持った、未来へ向かう作品になっている、その一番大きな象徴が、僕は「未成年」っていう曲だと思うんです。さっき永原さんは、“この作品の中で「未成年」にはノスタルジーがある”っておっしゃってましたけど、僕は、むしろこの曲が一番、今と未来を照らしてる曲だと思うんですね。何故なら、この曲の歌詞は“制服”や“青春”っていうわかりやすい単語を使った、多くの人が感情移入できるであろう物語性を持っているし、何よりも、“未成年”っていうテーマ自体が普遍的なものだから。未成年の胸の内に抱える感情、もしくは未成年っていう季節に馳せる思いっていうのは、ロックンロールっていう音楽がずっとテーマにしてきたもので、それと同時に、いつまでも解決されない問題でもあって。それはきっと永遠に解決されない、永原さんの子供や孫の代になっても、通用するテーマだと思うんですよ。

確かに。そういう衝動を抱えてる人はずっといると思うし、そういうロマンもあると思うんだけど……でも、私がそれを凄く大切に思っているかというと、実はそうでもなくて。今言ったロック・ロマン的なものというか……“音楽には10代の魂が必要だ!”みたいなのって、なくてもいいじゃんって思うし。だけど今回は、歌っちゃ駄目なことでもないから、歌ってみようと思ったんですよね。逆に、(これまでそういうテーマの曲を作っていなかった)私がそれを歌うから説得力があるとも思うんですよ。これは個人的な気持ちなんですけど、普段から10代とか初期衝動っていうものに固執して、それを制作のコアにしてる人が、今回のアルバムみたいなメッセージを歌っても、そんなに説得力はないかなって思うんですね。“ずっとそれをコアにしてるじゃん。そういうタイプだもんね”みたいなところで割り切れちゃう。でも、私みたいな、あんまり10代の精神論を大事じゃないと思ってる人が歌うと、逆にリアルになるのかなって思うんです。“私が歌うなんて、よっぽどだぞ!”っていうか(笑)。だから、この曲の歌詞を見た時、メンバーが一番驚いたと思う。“こういうの一番嫌いだったじゃん!”って。でも、嫌いだし、嫌なものだなって思うからこそ、歌ってみたかったし。

-確かに、永原さんは今までこういうテーマの曲は歌ってこなかったと思うし、さっき“10代には10代の、20代には20代の衝動がある”っておっしゃっていたように、純粋性を信じるロック・ロマン的なものに対しては懐疑的だったんですね。

はい。私は10代の頃、10代より20代のほうがいいし、20代より30代のほうが楽しそうだから、早く大人になりたいって思ってて。10代の頃はクソガキだし、お金も思うように稼げなければ、何かあったら親のせいになっちゃう……そういう煩わしさをずっと感じてて。思えば、自分で自分の10代を謳歌することをあんまりできてなかったなとすら思いますね。コンプレックスだったんですよね、自分にとって若いっていうことが。

-でも、「未成年」には、そういった若さゆえの初期衝動に対するロマンが滲んでる。

……だからほんと、今回は今までやりたくなかったことを全部やってます(笑)。ロック・ロマンみたいなのも超嫌いだったし、見てるだけで恥ずかしくなってたし、昔だったら“アイ ワナ デストロイ”なんて言わないし、“戦闘機”も“ミサイル”も使わないし、「未成年」なんてタイトルもまさかつけないし、“衝動”なんて恥ずかしいっすって思ってたのが……全部素直にできた。好きじゃないっていうのは根本的にあるんですけど、手法として、しっくりきちゃった。

-そうやって自分が嫌いだった価値観すら音楽に昇華しようとした。そしてそれが素直にできた。その上で「未成年」という、今まで毛嫌いしていた価値観の塊のような曲も作れた――それは、凄く大きな理由がなきゃできないことだと思うんです。

そうですよね……でもやっぱり、お客さんの顔を見てると“もっと私が自信を持って自分を受け入れてあげなかったら、この人たちのキラキラした目はどうするの?”って思うんですよ。だったら、今まで自分が毛嫌いしていたものでも、自分の気持ちの中にあるのなら素直に受け入れて、ちゃんとCDにして向かい合わないと、このキラキラした眼差しには勝てないと思いました。

-なるほど。「未成年」みたいな曲に向かい合ったのも、リスナーに突き動かされる部分があったっていうことですよね。だとすると、そこに向かうきっかけになったのが「GO BACK TO MONSTER」っていうのは、凄く必然的な流れですよね。あの曲は、『FUTURES』をリリースしたことで、着実にSEBASTIAN Xのリスナーへの浸透度が高まっていく中で、“あなたの夢に応援歌”っていうメッセージ性の強いキャンペーンに提供された曲なわけで。つまりあの曲は、『FUTURES』で深くパーソナルな部分に潜り込んだ永原さんの視点を、外に――つまりリスナーっていう他者に向けさせる役割も果たしていたんだと思うんです。

確かにあの曲は、誰かから“書いてみなよ”って言われないと、書こうと思わなかったと思います。……最初にも言いましたけど、「GO BACK TO MONSTER」は、歌っているとホントに突き動かされるんですよ。サビで“私を こうして動かすんだよ”って歌ってるんですけど、動くんですよね、本当に。自分で書いたのに、誰かに何か言われてる気がするんです。

-だから、「GO BACK TO MONSTER」では、自分を突き動かす衝動を象徴的に“怪獣”って呼んでますけど、SEBASTIAN Xにとっての怪獣は、リスナーでもあると思うんですよ。

そうですね……ほんとに、輝く目で見てくれる人たちがいて、それに相応しい人間になりたいなとも思うし。……私、成長したと思いません?(笑)。

-成長してると思いますよ(笑)。「未成年」みたいな大きくて普遍的なテーマの曲ができたのも、もはやSEBASTIAN Xの音楽が、永原さんの個人的な思いを掬い取るだけじゃない、もっと多くの思いとコミュニケーションを取っていこうとしているからで。この作品は、その変化のスタート・ダッシュを切る作品ですよね。

確かに、そうかもしれないです。前までは自分が音楽を通してコミュニケーションを取ることに関して、あんまり自覚的じゃなかったですよね。『FUTURES』でちょっと自覚的になったかな?っていうところがあったけど、今ほどじゃなかったと思う。だから、ようやくですね(笑)。これは、お客さんの眼差しだったり、コミュニケーションを受け入れる準備ができましたっていうアルバムだと思います。昔は自分の確固たるところをどう表現しようかと思ってたんですけど、今はなるべく自分を歌に溶かしたいと思ってて。自分をなるべく音楽の鳴っている空間に溶かしていきたいなって思ってます。