Japanese
SEBASTIAN X
Skream! マガジン 2015年01月号掲載
2014.11.28 @東京キネマ倶楽部
Writer 天野 史彬
光るものを見ていた。ただ呆然と。目の前に何か光るものがあって、その輝きにぼーっと見とれていた。そんな感じだった。SEBASTIAN Xのメジャー・デビュー・ミニ・アルバム『イェーイ』リリース・ツアーのファイナル、東京キネマ倶楽部ワンマン。SEBASTIAN Xに関するライヴ・レポートはワンマンも春告ジャンボリーも含めてもう何回も書いてきているけど、ここまで言葉にするのが難しいものはなかった。そのぐらい、ちょっと特別なライヴだったように思う。この原稿を書き進めている今この時点で、実はもうライヴ当日から2週間ほど経ってしまっている。急がなきゃ。ほら、Skream!編集部の小林さんから催促のメールが来た。書きあぐねていたけど、忘れたわけじゃない。むしろ頭の中では日に日に鮮明になっていく、あの輝く光景。ヒラヒラと舞う黄色いドレス。弾ける音。騒々しく、時に静かに。......ちょっと頑張って書いてみよう。
本来、メジャー・デビュー作のリリース・ツアー・ファイナルとなれば、"これから行ったるぜ!"的な、とてもスケールの大きな、前のめりなものを思い浮かべるのだけど、この日はちょっと違うものだったと思う。むしろ、そういったバンドの上昇気流を指し示すエポック・メイクな瞬間は、去年の恵比寿LIQUIDROOMワンマンのほうにすでにあった。それに、SEBASTIAN Xというバンドの今の社会やシーンに対する批評性を語るならば、春の恒例イベント"春告ジャンボリー"が1番いい。そのどちらとも違う、この日のキネマ倶楽部を満たしていたもの。それは、多種多様なメロディとリズムが折り重なることで生まれる豊潤な音の物語性とか、パンクもロックも歌謡曲も、本質的にはすべてが芸術であり、すべてが聖であり俗であるという音楽に対する根本的な視点とか、"生"を捉えるために"死"を見つめ続ける永原真夏の醒めた眼差しとか......つまるところ、余分なトピックをすべて取り除いた果てに見えてくる、SEBASTIAN Xの表現の奥深くにある1番大事な"核"のようなものだった。それがここ数年間の中で最も生々しく、かつ成熟した形で表出した瞬間――それがこの、キネマ倶楽部ワンマンだった。
まず、ステージがとても不思議だった。ツアーで回った各地で買ったという花束がいくつもステージ上の天井から逆さに吊るされ、ステージ上には永原真夏の祖父の形見だという大きな椅子が置いてあり、その椅子の上には熊のぬいぐるみが、その熊の膝の上にはピアニカが置いてあった。吊るされた花束のうちの多くは、見る限りしおれていた。しおれた花と形見の椅子。この日のキネマ倶楽部のステージ上は、失われたもの、どこか"死"を連想させるものに囲まれていた。元々はキャバレーであり、大正のオペラハウスをイメージして作られたキネマ倶楽部の荘厳な雰囲気と相まって、ものものしい空気を醸し出している。永原は"好きなものに囲まれている"とMCで語っていたが、誰よりも未来を見据える彼女はいつだって、同じくらいの力で過去を抱きしめている。きっと彼女は、明日を生み出すためには昨日があったことを知っているし、死があるから生があるのだと知っているし、人も時代も記憶が集積して生み出されるものだと知っている。この日のステージは、そんな彼女の本質によって形作られていた。
ライヴは「ROSE GARDEN,BABY BLUE」、「サディスティック・カシオペア」、「光のたてがみ」の代表曲3連発で幕開け。何かが覚醒していくような音の広がりが会場を包み込む。SEBASTIAN Xのライヴを観ていると、"この人たちは本当に僕らの目の前にいるのだろうか?"と思うことがある。それは何故かというと、SEBASTIAN Xの鳴らす音が、描く景色が、どこまでも"速い"からだ。もちろん、これはBPMの問題ではない。たとえば夜空を見上げたときに見る星の光は、遥か昔に星が放った光が長い距離を伝って僕らの目に届いていることは周知の事実だが、SEBASTIAN Xも似たようなもので、本当の彼女たちは既に遠く離れた場所まで駆け抜けていて、そんな彼女たちが放つ光の余韻のようなものを僕らは観て、聴いているんじゃないか――そんなふうに思うことがあるのだ。そのぐらい、このバンドの音楽は目の前にあるのに触れられない感じがして、だからこそ、とても光に近いもののように感じてしまう。
他に鮮明に残っている景色と言えば、そうだ、「ライダースは22世紀を目指す」でゆらゆらと揺れるオーディエンスが掲げた数多の手が美しかった。中盤以降は各曲のアレンジが色鮮やかかつ秀逸で、ズンドコズンドコとトライバルな野性味溢れるリズムの中で猛々しく始まった「スピカ」、おどろおどろしいサイケデリックな音世界へとオーディエンスを引きずり込む「ぼくはおばけさ」、色気のあるジャジーでリリカルな鍵盤の調べからストレートなサビの開放感へとソリッドに転調していく様が痛快な「ラブレターフロム地球」、勇猛果敢で壮大なスケールを感じさせるロック・ソング「F.U.T.U.R.E」。そして静かに、ゆっくりと暗くて深い海の底へとオーディエンスを導くような「日向の国のユカ」――"あぁ、このバンドってこんなにいろんな音楽性をやってたんだなぁ"と改めて再確認させられるような、そんな成熟し構築された音世界の中で、それぞれの楽曲が多種多様な色彩を描くように鳴っていた。そしてその後にはじまった「若き日々よ」と「つきぬけて」は、バンドの本質だけをオーディエンスの耳と心に突き立てるような衝動的な荒々しさで、会場を真っ直ぐにつらぬいていた。
後半にはトロンボーン、サックス、トランペットの3人のホーン隊"オーライブラス"を交えての、とてもスペシャルな演奏もあった。演奏されたのは「世界の果てまで連れてって!」、「GOODMORNING ORCHESTRA」、「ハムレット」、「ワンダフルワールド」、「ヒバリオペラ」、「スーダラ節」の6曲とヴォリューム満点。個人的にはホーン隊を加えることで曲の持つスカ・フィーリングがよりパワフルに表出していた「GOOD MORNING ORCHESTRA」~永原がステージ2階の椅子に腰掛けて歌った雄大な名バラード「ハムレット」の流れが、この日のライヴ通してみてもハイライトになるような素晴らしさ、かつ美しさだった。永原の声の太さ、力強さはもう充分知っているけど、「ハムレット」で見せた、語りかけるように歌う感情豊かで饒舌な歌声は、彼女のヴォーカリストとしての素晴らしさを改めて実感させた。そしてやっぱり「ヒバリオペラ」と「スーダラ節」における、人の生活に寄り添い、心を開放させる大衆音楽の豊かさを証明するかのようなコール&レスポンスは、いつ見ても幸福な景色だった。「スーダラ節」でベースの飯田が一升瓶を取り出して飲み始めたのを見て、げらげら笑ってしまった。なんかとってもよかった。
本編のラストを飾ったのは「イェーイ」で、アンコールでは2月にリリースされるミニ・アルバムからの新曲「こころ」も披露された。「イェーイ」で見せた端正な旋律をより洗練させたような、そんないい曲だった。「DNA」ときて「イェーイ」ときて「こころ」......人、叫び、感情。SEBASTIAN Xはどんどんと感覚的になっていく。どんどん速くなっていくし、どんどん音そのものになっていくし、どんどん光に近づいていく。今の永原真夏はもう、余計なことを何も歌いたくないのだと思う。音楽があって、命が集い、歌い踊る。そこにある光と祈りだけに触れていたいのだ、きっと。ダブル・アンコール、最後の最後は「DNA」で締めくくられた。その音も、"聞こえるかい?"と問いかける声も、すべて確かにステージ上の4人の人間から発せられているはずだけど、目の前にあるのは巨大な発光体で、そこからどこからともなく音と声が聞こえてくるような、不思議な感じだった。光るものを見ている、本当にそんな感じだったのだ。
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