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UNCHAIN 谷川正憲 改め、茉莉乃沢ガニ太【第6回】

UNCHAIN 谷川正憲 改め、茉莉乃沢ガニ太【第6回】

なんとか一命をとりとめたふもとだったが、記憶を失ってしまっていた。夢千代いわく、「傷ついたデータを修復している時にある種のバグが起き、記憶までフォーマット、つまり、まっさらの状態に戻ってしまったなの」ということであった。僕には何もできないのか。「おい!夢千代!!僕には何もできないのかよっ!!お前は未来がわかるんだろ!?全部知ってるんだろ!?ふもっちゃんを助けてくれよぉぉぉ!!」ここは”ヒューマンクラウド”という異空間。声の行き場は虚しく、コンクリートのようには跳ね返ってこない。「、、、」夢千代は何も言わない。さっきからふもとに触れようとするが、何度試してもカウンターパンチしか飛んで来ない。もう顔が腫れてパンパンだ。ここでもし、ふもとの記憶が戻ったとしても僕が茉莉乃沢ガニ太であると気付かないであろう。「ふもっちゃん。。。僕だ。ガニ太だ。。。」ゴォっ!!ふもとは無言のカウンターを絶妙のタイミングで返してくる。「ぐあっ!」パンパンに腫れた右目の上のタンコブが裂け、血が噴き出す。「思い出してくれ。。。僕だよ。。ふもっちゃん!!」メキャァ!!無言のカウンターは今度は鼻の頭を潰す。「っ!!ああああああ!!!」両方の鼻の穴から大量の血液が流れ落ちた。もう鼻で息が出来ない。それでも、僕は止まらなかった。「ふもっちゃん。。。」ズギャぁ!!「く、、、ふもっちゃ、、」ゴガァっ!!「ふ、、ふ、ふも、、」無言のカウンターは空を斬る。どうやら僕はパンチをよけるようにしてその場に倒れてしまったようだ。「ガニ君!!」夢千代が僕を介抱しに来てくれたようだ。「わはははは!無駄なあがきだな。ガニ太よ。」クソ親父、のようだ。「ふもとは最早ワシの道具。シャーペン、カッターナイフ、消臭スプレーポケットサイズとなんら変わらんわ!」僕はぼやけた意識の中でなんとかクソ親父に敵意の視線を向ける。「ふん。もう喋ることもできんか。ええわい。行くぞ!ふもと。」クソ親父がふもとの手を取ろうとしたそのとき。ボゴォォォォっ!!まさかのカウンターパンチがクソ親父の左こめかみにヒットした。「ぐっ、はぁぁああ!!」クソ親父は車に撥ねられたかのようにポーンと飛んでいき、後頭部から地面に激突。そのままピクリとも動かなくなった。「比叡山ふもと!?なぜなの!?」夢千代が取り乱している。未来が見える彼女にさえ予想外のことだったようだ。「ふもっ、、ちゃん?お、思い、出した、のか?」僕は虫の息だ。ふもとは言った。「思い出してはいない。私はただ、そこの地面に這いつくばっているクソみたいな男より、ガニ太、お前と共に在りたい。そう思っただけだ」ふもとの目から一筋の涙が落ちた。「ふもっちゃん!」僕は精一杯の力を込めて叫んだ。「ふもっちゃん!思い出さなくたっていい!僕と君は今日、出会ったんだ!始めからやり直すんだ!好きだ!!ふもっちゃん!!」ありったけの想いだった。僕はそのままふもっちゃんに駆け寄った。最初からやり直すんだ。時間がかかってもいい。一生かかってもいい。ここから二人で歩き出すんだ。ふもっちゃん。。。ふもっちゃーーーん!!ドグヮぁっ!!!!「ふ、、ふ、ふもっちゃ、、ん。。」これまでで一番美しいカウンターだった。僕の記憶はそこまでだ。「あっ、、、すまない。つい。」ふもとは謝ってくれた。らしい。つまりは一応ハッピーエンドである。らしい。。。 【第一部・完】

~生きとし生ける者たちよ、想いは伝えるために存在している~
茉莉乃沢ガニ太