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Japanese

愛はズボーン

Skream! マガジン 2024年07月号掲載

2024.06.02 @下北沢SHELTER

Writer : 稲垣 遥 Photographer:えす郎

マジカルでケミカルでミラクル。そのテーマは決して大仰ではなく、まさに全部をおなかいっぱい感じることができる、遊び心に溢れた夜だった。

愛はズボーンが、最新アルバム『MIRACLE MILK』を引っ提げて3月から行ってきた"MAGICAL CHEMICAL MIRACLE TOUR"のセミファイナルは、下北沢SHELTERにて、結成間もない頃からの10年来の関西の盟友、夜の本気ダンスを迎えて開催された。

"踊れる準備はできてますか!?"(米田貴紀/Vo/Gt)
「WHERE?」で幕開けした夜の本気ダンス。モッシュや合唱が起こり、西田一紀(Gt)のソロに歓声も上がる。早くも着火完了といった様子だ。マイケル(Ba/Cho)のベース・リフが気持ちいい「for young」、米田がネクタイを緩めフロアに放り投げた「fuckin'so tired」に続いた「Movin'」は、ファンキーなディスコ・チューン。音源ではR-指定(Creepy Nuts)が歌うラップは鈴鹿秋斗(Dr)が担い、代名詞の四つ打ち以外でも色気のある怪しげなムードを醸成する。

"ここからの2曲はGIMA☆KENTA(愛はズボーン/Vo/Gt)に、その子供に捧げたい"。そう米田が言い披露したのは愛はズボーンのカバー「BABY君は悪魔ちゃん」と、「SMILE SMILE」。息子が生まれたことを発表したGIMAへのプレゼントだ。ハイテンポのトロピカルなアレンジでキャッチーに染まった「BABY君は悪魔ちゃん」はたしかにいたずらな"BABY"へのラヴ・ソングに聴こえたし、「SMILE SMILE」はGIMAが公演の数日前にXで弾き語っていた曲で、90年代ポップスの雰囲気を纏った甘くてキュンとする、心温まる演奏に胸がいっぱいになった。

愛はズ(愛はズボーン)と下北で対バンすることは感慨深く、元気が貰えると話す米田。下北沢SHELTERは西田が加入後初めてライヴをした場所でもあり、当時のフリンジのついた衣装をイジられ倒した西田は、"全員ファズ踏んで耳壊したろか"と暴言を飛ばして笑いを起こした。そんな思い出話も挟み、ラスト「TAKE MY HAND」ではテンポ・チェンジやディレイが掛かったヴォーカルなど、緩急つけたプレイで再び踊らせていった。

すでにできあがった会場に、映画"荒野の七人"のメイン・テーマをSEに金城昌秀(Gt/Vo)、白井達也(Ba/Cho)、富永遼右(Dr)が姿を現し、セッション的にスタートした愛はズボーン。白井のベース・ソロ、富永のドラム・ソロに続き、金城の呼び込みで、ギラギラのビジューがあしらわれたトップスに赤の革パンと、GIMAにしか着こなせない衣装で登場したGIMAは、"ボン ! ボン ! ズボボーン ! 愛はズボーン !"の掛け声と同時に大量のカラフルな風船を観客の頭上に撒き散らし、フロアを一気に笑顔に。"踊れる準備は終わったかい? 俺たち大阪アメリカ村からやってきた、愛はズボーン!"と夜ダン(夜の本気ダンス)の口上ももじりつつ叫んでこの日のライヴを始めた。昨年からライヴの立ち位置が変わり、センターにGIMAが据えられたことで、フロントマンとしての意識がより強くなったようで、さらに自由で存在感のあるモーションで盛り立てていく。

そのあとは『MIRACLE MILK』から4連発。まずは、明滅するストロボに照らされながら、4人が好き放題に轟音を鳴らしたパンク・ナンバー「ひっかきまわす」。"敵を作らなきゃ味方を作れない/そんな戦い方になんの意味もない"など金城のワードも鋭く刺さる。続いて金城とGIMAの2MCによる「IN OUT YOU~Good Introduction~」。ユルく楽しい雰囲気でありながらもどこかインテリジェントなヒップホップは、スチャダラパーを彷彿とさせる。"新しくうまれたピチピチのイノチ/「おめでとう」「おめでとう」"のフロウでは客席からも"おめでとう!"の声が飛んだ。GIMAのヴォーカルのハスキーな部分が映える、ダークでソリッドなロック・チューン「ケミカルカルマ」では、"明日から頑張るぞ"と拳を突き上げて大合唱。日曜の夜のこの声にはひと際魂が乗るのだ。MCでは金城、GIMAに巻き込まれ、クールな白井が古畑任三郎の物真似口調でおふざけに入って来る珍しい場面もあり笑わせつつ、金城が、夜ダンとは「ABRAKADABRA」のMV監督を頼まれたのを皮切りに、年末から毎月のように会っていると交情について話した。

また"歪でこそあれ!"と突入した「Z scream!」は、踊れるポップさと意味のない言葉を全力で叫べるソウルフルなムードを兼ね備えていたし、金城が"俺の正義は誰かにとっての悪かもしれん。でも俺の正義を貫いていこうっていう曲"と紹介した「Strange Yellow」はかなりブルージー。そんなふうに次々と趣の違う音楽を繰り出し、多様なジャンルを自由に咀嚼した"ヘンテコなバンドであること"をブレずに見せつける様が痛快だし、それはあえて自然体でやりたいことを突き詰めたアルバム『MIRACLE MILK』で得られた自信の表れなのだろうとも感じた。

そんななか、金城が"彼(GIMA)の子供に1曲だけ"と言い、奏で始めたのは「ニャロメ!」。ダダをこねて泣いている子供、そしてかつての自分に"泣け 泣け 大人になれば/ギターが買えるぜ!!"と歌う、初期の名曲が炸裂した。金城が曲中、"俺だって1児の父です。こんなことしてんとちゃんと働いたほうがええんちゃうかって言われるかもしれんけど、俺らも子供なんで!"と放つ場面には誇りが感じられたし、横で噛み締めるような表情をしているGIMAも目に入り、思わず落涙してしまった。

が、感動に浸る間もなく、突如なぜか標準語&絶妙に古いアクションで"みんなに愛をいっぱい貰ってもぉ、俺、返しきれないからぁ、昨日1日かけてみんなにお土産持ってきた"と袋を取り出し、"ここに「頑張れ!」、「負けるな!」って詰め込んできました"と照れ笑いするGIMAに、オーディエンスもメンバーも吹き出してしまう。そのまま突入した「BABY君は悪魔ちゃん」でも、トリックスター GIMAによる"GIMA劇場"は続行。フロアに花道を作らせて降り立ち、観客参加型で盛り上げる様はさながらミュージカル。そこへ金城、白井、富永、夜ダン西田がクラッカーを持ってきてGIMAを祝福......と文字にしてもおそらくわけがわからないのだが、そのときその場にいる人が笑えればいいといった振り切り方も含めて可笑しかった。

そこからはいよいよラスト・スパートだ。骨太な「アナコンダ」に続き、金城が弾き語りから始めた「NEW SNEAKER MEMORIES~album ver.~」。夏を先取りしたようなワードが散りばめられた、爽やかで青く、そして前向きなロック・チューンで味わうエモーショナルな気持ちは、愛はズのライヴでは新感覚だったかもしれない。 "今までで最高に楽しい"(金城)、"今めっちゃしゅんでる(※「染みる」の関西弁)"(GIMA)とそれぞれに想いを溢れさせ、音楽が大好きという気持ちを込めた「MIRACLE MILK」へ。ローファイな始まりから金城、GIMA、白井の3人で歌うサビ、金城の想い先行な言葉にならない言葉がマシンガンのように届けられるヴァースに、狂騒的なエンディングまで怒濤に駆け抜け、本編最後は「MAJIMEチャンネル」を投下。"意味なんてないぜ"のシンガロングで会場をひとつにした。

アンコールでは7月から3ヶ月連続で新曲を配信リリースすることと、10月には再び下北沢SHELTERに帰ってきてワンマンをすることを発表し、結成して間もない頃にGIMAが金城に目を輝かせて語ったMVの構想をこの曲で叶えたいと、完成したばかりの新曲をお披露目。みんなで手を挙げられるような、新たな風を吹かせてくれそうなナンバーだった。そうして、本当のラストは1stアルバムから歌い続けている「ひっぱられる」。"これからも引っ張り合って、その真ん中のライヴハウスでまたこの曲を歌いましょう!"と言ったのちGIMAがシャウトし、"俺たち愛はズボーンのリーダー兼ギタリスト、金城昌秀!"と紹介された金城が、満を持して前に出てギターをかき鳴らす。笑いあり涙ありのエンターテイメントとなった一夜で、どうやら初見のファンもがっしり掴んだ模様の愛はズボーン。終演後のフロアは笑顔で感想を語り合う人たちに溢れ、物販も大行列。自分たちのスタイルをさらに確固たるものにした今の愛はズボーンのライヴの充実ぶりを、何より物語っていた。


[Setlist]
■夜の本気ダンス
1. WHERE?
2. ABRAKADABRA
3. for young
4. By My Side
5. fuckin'so tired
6. Movin'
7. BABY君は悪魔ちゃん(カバー)
8. SMILE SMILE
9. GIVE & TAKE
10. TAKE MY HAND

■愛はズボーン
1. 愛はズボーン
2. ひっかきまわす
3. IN OUT YOU~Good Introduction~
4. SPACE OUT !
5. ケミカルカルマ
6. Z scream!
7. Strange Yellow
8. ニャロメ!
9. BABY君は悪魔ちゃん
10. アナコンダ
11. NEW SNEAKER MEMORIES~album ver.~
12. MIRACLE MILK
13. MAJIMEチャンネル
En1. 新曲
En2. ひっぱられる

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