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LIVE REPORT

Japanese

BiSH

Skream! マガジン 2021年02月号掲載

2020.12.24 @国立代々木競技場 第一体育館

Writer 宮﨑 大樹 Photo by sotobayashi kenta

28,684,800秒。478,080分。7,968時間。332日。これは、BiSHが最後に有観客ライヴを開催してから"再起動"するまでにかかった期間だ。

あまりに突然に変わり果ててしまった世界で、あまりにも長く引き離されたBiSHと清掃員(※BiSHファン)。両者が、およそ1年ぶりに、念願叶っての再会を果たした。

ライヴ前に気合を入れる"せーのっ! ちんぽ!"の掛け声がステージ裏から漏れ聞こえ、これに反応して歓声代わりの拍手が湧き起こる。

そんななか、紗幕の垂れ下がったステージに6人のシルエットが映った。

有観客ライヴの実現を噛みしめるように、BiSHひとりひとりが紗幕の向こうにいる清掃員へ向けて"ただいま"と声を掛けていく。続いて、全員で声と気持ちを合わせて伝えた"おかえり"のひと言。その言葉を合図に、コロナ禍で制作された、BiSHから清掃員への素直な手紙「LETTERS」が届けられていく。その瞬間、332日という空白期間がギュッと縮まっていくように感じた。BiSHではなかなかやってこなかったユニゾンで、"個の言葉"ではなく"BiSHからの言葉"として伝わっていくことも意味深い。2サビの直前で演奏が止まり、静寂のなかアイナ・ジ・エンドのソロ・パートへ。彼女の内側から様々な感情が溢れ出していることが伝わるエモーショナルな歌唱を契機に、紗幕が外され、BiSHとバンド・メンバーの姿が露わになった。感動の再開を果たした瞬間。清掃員も、精一杯の拍手でBiSHへの想いを伝える。BiSHが送った"手紙"の返事が、ようやく彼女たちのもとに直接届いたのだ。

するとここから"感傷的になるのはここまで!"とばかりにトップ・スピードへ急加速。山田健人による赤を基調としたノイジーな映像と、激しいライティングの中でリンリンが凶悪な咆哮をした「SHARR」から、火柱の上がった「MONSTERS」へとバッチバチの曲を畳み掛ける。攻め手を緩めずに繋げた「GiANT KiLLERS」は、仇敵とも言えるウイルスと闘う意志の表れにも感じたし、続く「TOMORROW」で歌い上げた"大切なものを守り抜く覚悟/諦めないことだけ取柄さ"という言葉は、これからも清掃員と道を歩んでいくための決意表明に受け取れた。

続けてショート・チューン「DEADMAN」を投下したあとに、クールダウンも兼ねた自己紹介へ。当たり前だったはずの、そうではなくなったもの。目の前で繰り広げられる、お決まりの自己紹介(と、中盤のハシヤスメ・アツコの小劇場)が、とても愛おしく感じられたし、とりわけ"アユニ・DのDは、久しぶりぃのDです"と嬉しそうに言うアユニ・Dは、見ていてこっちが嬉しくなった。

バンド・セットで築く壮大な音像で魅せた「DiSTANCE」から、徐々に中盤へと移行。モモコグミカンパニーの"今までのモヤモヤは全部ここでリセットしようぜ!"の煽りから始まった「DA DANCE!!」で踊らせたかと思えば、ピアノ・ソロから始まった「リズム」では胸が締めつけられるような切ない歌声を響かせる。

ライヴ後半では、「OTNK」で爆上げして、バンド・セットでライヴ・アレンジを施した「My landscape」から、怪しげな世界観の「FREEZE DRY THE PASTS」という流れがBiSHの多面的な魅力を見事に引き出していた。名曲「プロミスザスター」を経て、"それぞれの痛みを超えて、ここからまた始めていきます"とセントチヒロ・チッチが語る。そうして披露したのは1stアルバム『Brand-new idol SHiT』の1曲目に収録された、BiSHにとって始まりの曲とも言える「スパーク」だ。パンデミックで変わってしまった新しい世界を踏みしめて、一歩一歩また進んでいこうとする6人の表情は明るい。

なお、この日の「オーケストラ」では、アイナが歌う落ちサビで、清掃員が赤いサイリウムを一斉に点灯して彼女の誕生日を祝うサプライズが用意されていた。この光景を、アイナはまったく予想していなかったのだろう。視界一面に広がる赤い光を目にして、驚きと感動で一瞬固まり、直後に涙を流しながらも歌う姿が印象的だった。

そうして、いよいよライヴもフィナーレへ。本編を締めくくるのに相応しい「ALL YOU NEED IS LOVE」、「サラバかな」、「beautifulさ」の流れは実にハートフルで、世界で一番幸せな場所はここ代々木なんじゃないかと素直に思えるほどだ。それくらいに、温かくて、キラキラした空間がそこにはあった。

アンコールに応えたBiSHは2曲を披露。「I'm waiting for my dawn」で祈りにも似た歌を届け、最後に投下したのは「BiSH-星が瞬く夜に-」だ。チッチが"代々木はまるでパラダイス!"と、替え歌でもって今夜の感謝と喜びを爆発させる。キラーチューン中のキラーチューンですべてを出し尽くしたBiSHと清掃員。最後は、一緒に高くジャンプをして全28曲を完走した。

最高の形で再起動をしたBiSH。とはいえ、この日エンドロールで流れた全国各地のライヴハウスに、彼女たちがいつ足を運べるようになるのかは、正直わからない。それでも、いつかきっと清掃員でパンパンになったライヴハウスを揺らしてくれることだろう。この日の締めくくりとして"We are BiSH!"と肉声を届けた、達成感に溢れる6人の表情を見て、そんな予感がした。


[Setlist]
1. LETTERS
2. SHARR
3. MONSTERS
4. GiANT KiLLERS
5. TOMORROW
6. DEADMAN
7. DiSTANCE
8. BUDOKANかもしくはTAMANEGI
9. My distinction
10. PAiNT it BLACK
11. SMACK baby SMACK
12. STORY OF DUTY
13. DA DANCE!!
14. リズム
15. stereo future
16. Nothing.
17. FOR HiM
18. OTNK
19. My landscape
20. FREEZE DRY THE PASTS
21. プロミスザスター
22. スパーク
23. オーケストラ
24. ALL YOU NEED IS LOVE
25. サラバかな
26. beautifulさ
En1. I'm waiting for my dawn
En2. BiSH-星が瞬く夜に-

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