Japanese
カモシタサラ(インナージャーニー)× 小山田壮平(AL/ex-andymori)
2022年09月号掲載
まっすぐに飛び込んでくるメロディと独自で普遍的な歌詞。歌を魂だとすれば、それを邪魔せず、しかし生身の人間の感覚でより推進力を与えるバンドのグルーヴ。移り変わるトレンドの中にあって、名曲と呼べる楽曲をまとめた1stアルバム『インナージャーニー』がついにリリースされる。今回はソングライターのカモシタサラをはじめメンバー全員が影響を受けたという小山田壮平(AL/ex-andymori)とカモシタの対談を実施。なぜ自分は曲を作って歌うのか? という根源的な理由が自然と浮かび上がる対話になったのも、互いの音楽に惹かれていることの証左だろう。両者のファンはもちろん、あらゆるリスナーに届いてほしい。
インナージャーニー:カモシタサラ(Gt/Vo)
AL/ex-andymori:小山田壮平(Vo/Gt)
インタビュアー:石角 友香
-まず基本的なお話から。カモシタさんもインナージャーニーのメンバーのみなさんもandymoriが大好きだということで、どういう意味合いでの影響を受けたのかをおうかがいしたいんですが。
カモシタ:どういう意味合い......歌詞の、ちょっと世の中を斜めに見つつも、持ってる情熱とか、あとやっぱりメロディが好きだったり。全部好きです(笑)。
-バンド名もandymoriの楽曲(2012年リリースの4thアルバム『光』収録「インナージャーニー」)名から付けられて。小山田さんは最初、瞑想のプロかと思われたという。
小山田:最初インナージャーニーって名前がたしかTwitterで流れてきたときに、"こんなバンドがいるんだ"ということを知りまして。僕OSHOっていうインドの瞑想家の人が書いた"インナー・ジャーニー 内なる旅"っていう本に一時期ハマってて、同じ本を買って家族に渡すとかもしてたんです。それで、"へぇ、こんなバンドがいるんだ"と思って。瞑想のプロの方かなと思ってましたね(笑)。でも若い子たちだからどんな音楽やってるんだろう? と思って最初に聴いたのが「グッバイ来世でまた会おう」で、それですごくいいなと思って、そのあとに「クリームソーダ」(2020年リリースの1stデジタル・シングル)っていう曲を聴きまして。その駆け抜けていく感じが全部きれいだったんです。だから映像としてもきれいなものが浮かんでくるような音楽で、すごく感動して大好きになりました。
-andymoriの曲名からバンド名を付けるって言っても、変わったタイトルが多いからそんなにたくさん候補はないですね?
カモシタ:andymoriの曲からバンド名を考えてみようとなったときに、スタジオの帰りにみんなで歩きながらいろいろ見て、"これはどうか? これはどうか?"と考えていってたんですけど、たぶんとものしん(Ba)が、"インナージャーニーじゃないか?"と。「インナージャーニー」、自分の中で結構上のほうの曲なんですよ。
小山田:あ、好きな曲ランキングで?
カモシタ:そうですね。上だったんで。"あぁ、それはいいぞ"と思ってそうなりました(笑)。
小山田:でも"内なる旅"っていう意味だから、バンド名としては最高だなと思いますね。どこまでも旅を続けていけるような名前だし、素敵だなと。
-20代のバンドで、andymoriの影響を受けている人は非常に多いと思うんですが、本当に好きな人はすごく好きじゃないですか?
小山田:はい。ありがたいです。
-その小山田さんがインナージャーニーを大好きだというすごく良い循環があって。
カモシタ:すごくありがたいっていうか、いいんでしょうか? っていう感じで(笑)。でもたぶん私は小山田さんから影響を受けてアウトプットしてるんで、それを見てくださってるってことなんですかね。
小山田:近い部分もあるんですけど、やっぱり彼女の持つ純粋って言ったらあれなんですが、すごく透明な美しいものがあって、それをバンドのみんなが理解して、しかも深く理解して形にしていってる姿はバンドとしてもすごく好きで、いいなと思うんですよね。そもそも仲がいいってことがまず素晴らしくて。自分たちはケンカばっかりしてたんで(笑)。もちろんインナージャーニーにもいろんな紛争とかあると思いますけど、ありながらも底のほうですごく信頼し合っている感じがありますね。でも高校時代はそんなに絡みがなくて、サラちゃんがいきなり招集を掛けたんですよね? 意外とすごい行動力というか(笑)、動くときは動くっていうか。
カモシタ:でも3ヶ月ぐらい悩みました。"これ音源にしたいな"ってなってから、"いや、どうしよう?"と思って、もうギリギリここで録らなきゃヤバいぞってときに声を掛けて、結局2週間ぐらいで合わせてやらなきゃいけなくなるみたいな、結構ドタバタだったんです。だから本当にギリギリにならないと行動はしないですね。
-ちなみにカモシタさんは、ひとりでやってらっしゃった頃から、andymoriや小山田さんの音楽の影響を受けてたんですか?
カモシタ:受けてたと思います。"影響受けたものをこうしよう"みたいなのはあんま考えてなかったんですけど、めちゃめちゃ聴いてたんで。
-全体的にもあるんですが、特にメロディに影響を感じます。いかがですか。
カモシタ:あぁ、曲を分析したらすごくヨナ抜きが多いなと思って。
小山田:ヨナ抜き?
カモシタ:ファとシがないみたいな。そこがめちゃめちゃガーって来る部分で。
-それで少し大陸的な感じになるのかなと。
小山田:なるほど、土着的な民謡的なメロディとか? たしかに。
カモシタ:そこがすごくきれいなメロディで好きだなと思って。そういうとこは影響受けてる気がしてます。
小山田:でももっとちっちゃいときとか、andymori以前に聴いてた音楽っていうのはどんなものだったんですか?
カモシタ:ちっちゃいときは嵐をめっちゃ聴いてて(笑)。中学校に入ってからロックとかを聴き始めたんです。
小山田:なるほど。僕はSMAPでしたね。
-結構作曲家陣が近いかもしれないですね。流行をちゃんとポップスに落とし込む感じ。 小山田さん、SMAPの曲は何が好きなんですか?
小山田:いっぱい好きな曲はあるんですけど。「SHAKE」も好きだし「夜空ノムコウ」も好きだし、「たいせつ」っていう曲があって、それも好きだったんですけど、いっぱいあるんですよね(笑)。小学校2~3年ぐらいのときから好きで。
-カモシタさんはちなみに嵐で何が好きなんですか?
カモシタ:わー、いっぱいあるんですけど、有名どころだと「Happiness」とか好きです。
小山田:僕も「Happiness」好きですね(笑)。
-一致しましたね(笑)。さて、今回インナージャーニーの1stフル・アルバムができましたが。
小山田:いや、素晴らしかったです。新しい曲も好きなんですけど、自分はこの「エンドロール」っていう曲がすごく好きで。自分もカバーさせてもらったんですけど。
カモシタ:ありがとうございます。
小山田:ツイキャス配信で歌ったんですけど(笑)。いやいいんですよね、"ほんとはギターも弾きたくないよ"と言ってからのギター・ソロが(笑)。
カモシタ:(笑)
小山田:あぁー! って、めちゃめちゃ高まるんですけど、言葉のひとつひとつがすごく心に寄り添うように、ずっと残るというか、センスが素敵だなと思いました。他の曲ももちろん全部そうなんですけど。
-「エンドロール」はどうできたんですか?
カモシタ:「エンドロール」は"映画がもとなの?"みたいに言われることが結構多いんですけど、全然違くて。私これを作ったのがたぶん高3くらいのときだったんですけど、2回目ぐらいの接客のバイト、温泉のフロントのバイトをし始めたんです。本当に接客が苦手なんですよ(苦笑)。それができなさすぎて毎日落ち込んで、これは自分が聴いても安心する曲を作りたいっていう自分のエゴから、とことん甘やかす曲を作れたらと思ってできたんです(笑)。
小山田:あー、なるほどね。
カモシタ:でも暗くなっちゃった(笑)。
小山田:そっか、なるほど。でも僕も本当に同じ曲の作り方をすることがあって。落ち込んでるときってなんでも聴けるわけじゃないというか、聴ける曲が限られてくるなかで、自分がこの状態でもこんな曲ならなんとか歌えるなってものができて、それでなんとなく自分が自分の状態を少し良くするために書くことはあるんです。この曲もそうなんだと思うとちょっと納得しますね。そうだね、ちょっと落ち込んでたのかもしれない、そのとき。
-アレンジも新鮮で。他の楽曲に比べるとわりとグランジ的な色合いもあるというか。ギターがいいですね。
カモシタ:前にEP(『片手に花束を』)に入ってたときとちょっと若干ミックスが変わってるんですけど、そこでたぶんギターのグランジ感がより色濃く出たんじゃないかなと思ってます。
-他に小山田さんが"おっ?"と思われた曲は?
小山田:「夕暮れのシンガー」がいいですよね。好きな曲をなぜ好きか言うのって難しいんですけど、バンドもそうだし、サラちゃん自身の生命力がすごく漲ってくるような瞬間があって。もちろんこの曲だけじゃないんですけど、殻を突き破って飛び出していきたいっていう前のめりな感じとか。「クリームソーダ」は今回のアルバムに入ってないんですけど、その曲もすごく好きなんです。抑えきれない思いというか、前に出てくる感じが。それでいて人を傷つけない優しさも纏ってるような音楽で。一時期ほんと毎日のようにインナージャーニーを聴きながらドライブしてましたね。落ち込んでいるときでも聴けますよ。
カモシタ:ほんとですか?
小山田:うんうん。
カモシタ:逆に聞きたいんですけど、私たぶん歌うときに、自分の中の情熱みたいなのがあんまり出せてない気がしていて。"持ってるのに"みたいなことが結構あるんですよ。小山田さんはそんなときどうやって歌ってるのかなと思って。
小山田:気持ちが乗らないときはもうどうしようもないなぁと思うんです。そういうときはもう寝るしかないかな(笑)。
カモシタ:(笑)
小山田:でも歌い込んでいくと打率上がっていくと思いますよ。やっぱいろいろあると思う。今レコーディングの最高地点を発揮しなきゃいけないけどそれができないとか、そういうすごく苦しい時間もあるだろうけど、ずっと歌い込んでいくうちにムラが少なくなっていくというか。歌のときはどんな落ち込んでてもその歌のモードというか、この歌を歌うって気持ちに切り替えられたらいいと思うんです。自分もそんなできてはないんですけど。
カモシタ:いや、めっちゃ感じます。
小山田:例えばライヴでステージに上がった場合はどんなに歌ってる人が酷い人間だったとしても、もうそれはステージの上に立ってるんだから歌わなきゃいけないなっていうような気持ちで、自分に言い聞かせて歌ったりしてますね。
-曲を作ったときの気持ちになるぐらい歌い込むってことですか?
小山田:それが一番いいけど、作ったときの感じとはまた変わっていくんです。だからもどかしさはすごくあると思うんですよね。作ったときの爆発的な感情をいきなりやるっていうのは難しいことが多いんですけど、続けてたら、ある瞬間自分が書いたときの情熱がライヴをしながらバーって出てくる。バンドで言うと最初のバン! って合わせたときの一番自由なやつっていうか。それは時々何秒間か、ライヴのときにバッて出るときがあって。そのときに自分と音楽が溶け合ってるような感じだったり、一緒に演奏している人とか、聴いてくれる人とかひとつになれるような感覚になったり。そういうときに"音楽やってるっていいなぁ"っていう気持ちになるんですよね。
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