Japanese
インナージャーニー
Skream! マガジン 2021年12月号掲載
2021.10.01 @渋谷WWW X
Writer 蜂須賀 ちなみ Photo by 笑子
10月1日、渋谷WWW Xでのワンマン。1曲目は「夕暮れのシンガー」。カモシタサラ(Gt/Vo)の弾き語りから始まると、Kaito(Dr)のビートがバンドを熱くさせ、とものしん(Ba)の歌うようなベース・ライン、本多 秀(Gt)の軽やかなフレーズが絡んでいく。素朴で温かくも、ブレイクや転調もあり、ドラマチックに展開するこの曲。音源よりも力強いバンドのグルーヴにまず驚かされた。最新EP『風の匂い』のインタビュー(※2021年9月号掲載)で、"今作からバンドになった"と語っていた4人。その実感は演奏にも表れている。
カモシタのバック・バンドという形で集まった4人が、4人組バンドとして改めてスタートを切ったのが2019年10月。2度目のワンマンにあたるこの日は、結成2周年を記念したライヴでもあった。今年5月にWWWを即完させた彼らだが、大勢の観客が観に来ているのがやはり嬉しいのか、カモシタはオープニングからにこにこしながら(自分の弾き語りから始まるのだから緊張するだろうに、それを一切感じさせない胆力もすごい)、"こんなにたくさんの人がいるとは"、"今までどこに隠れてたんだ!"と素直な感想を漏らす。歌詞だけではなくギター・ソロまで口ずさむとものしんの楽曲愛も微笑ましく、後方から飛んでくるハイテンションな叫び声の正体はKaitoだろう。本多は時には前方に歩み出て積極的にプレイしている。4人で呼吸を合わせつつ、誰かが気持ちの高ぶりを露わにする瞬間を面白がり、転がりながら、色を変えるバンド・サウンド。6曲目「エンドロール」のダイナミズムで一度目のハイライトを迎えた。
1st EP『片手に花束を』、2nd EP『風の匂い』の収録曲だけではなく、未発表曲も惜しみなく披露。"少女よ"と語り掛ける口調の歌詞と、どっしりとしたアンサンブルによる「少女」、バンドがパンキッシュに疾走し、カモシタがギターを持たずに歌う「Walking Song」、"人それぞれ考えや意見は違う"、"交われなくても知ろうとすることが大事"と語ってから演奏したバラード「わかりあえたなら」など、様々なタイプの曲を堪能することができた。それこそ今"バンドになった"感じを謳歌できているのだから、今後世に放たれる曲には各々のエッセンスがより濃い状態で落とし込まれそうな予感。クライマックスは「旅の途中」、「ペトリコール」と未来に想いを馳せる2曲。バンドが熱量を上げるなか、カモシタの歌声がまっすぐに響いた。この終盤で感じたのが、カモシタの優しい声は、優しいだけではなく、バンドがどれだけ鳴らしてもかき消されない芯の強さ――むしろバンドを束ねてみせる牽引力も兼ね備えているということ。結束感の増したアンサンブルに乗って、彼女の歌声がどこまでも羽ばたいていく未来が想像できた。
アンコールでは、Kaitoが"みんなで同じことやったら気持ち良くない?"と提案するも、カモシタが"いや、気持ち悪いよ"と返し(性格の違いがよくわかる(笑))、結局2曲目の頭で手拍子しようという話に落ち着き、みんなで2曲目の練習をしてから1曲目に入る......という不思議な展開に。そんな初々しさとこの日一番の盛り上がりでもってライヴを終えた。途中のMCでカモシタが"大きな場所につれていく"と言ったものの、しっくりこなかったのか、"楽しい場所に一緒に行けたら"と言い直していたのが印象に残っている。インナージャーニーの音楽は今まさに広がり始めているところだが、それ自体がこのバンドの目的ではない。聴く人に寄り添う温かさを持ったまま、大海に乗り出していくインナージャーニーの旅はまだ始まったばかりだ。
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