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LIVE REPORT

Japanese

インナージャーニー

Skream! マガジン 2022年11月号掲載

2022.10.01 @duo MUSIC EXCHANGE

Writer 石角 友香 Photo by マチダナオ

3年前に出場した"マイナビ未確認フェスティバル2019"と同じライヴハウスに、時を経て今日はワンマンでバンドとして立っている――あらゆるバンドにとって思い通りにならないコロナ禍という時を経て、インナージャーニーの音楽、曲の魅力がduo MUSIC EXCHANGEのフロアを満たすオーディエンスを呼び込んだ。ステージの背景にはファン手作りのロゴをあしらったバックドロップが張られ、バンドと同世代の男女はもちろん、層の厚いファンが楽しそうにライヴを待つ様子が頼もしい。2020年代の様々なバンドの中でも、ソングライターであるカモシタサラ(Gt/Vo)の内面から立ち上がる、パーソナルで純度の高い歌を軸にした音楽は"雑音"に左右されない強さがある。その純度をメンバーもより理解し、ミュージシャンとして、またバンドマンとしてしっかり向き合ってきたスタンスに対する回答が、この日の盛況ぶりなのだと思った。

この日はオープニング・アクトに応募された音源をダイジェストにして流し、メンバーが選出した"松笛晶と友達"というギター&ヴォーカルとベースのふたり、そしてビートを流すラジカセがオン・ステージ。オリジナルとインナージャーニーの「クリームソーダ」のレゲエ調カバーを披露し、ぎこちなくも何かが届く時間になった。

そしていよいよインナージャーニーのステージが開幕する。マーチング・ドラムのSEに乗り、メンバーがステージに上がるところからして、旅の始まりを思わせた。髪型をボブにし、フリンジのついたトップスを着たカモシタをはじめ、メンバー全員が満員のフロアに笑顔を向け、スターターはアルバム『インナージャーニー』と同じく「わかりあえたなら」。"わかりあえたならいいのにね"とカモシタがギターをストロークしながら歌い出すこの始まりが、この日の流れを象徴するようだ。矢継ぎ早にカントリー調のアップ・チューン「夕暮れのシンガー」でフロアも沸き立った。続けて「Fang」と、ロックンロールを届ける。4人のフレージングが明快に聴こえることも、今のインナージャーニーの世界に安心して没入させてくれた。

バンド結成3周年とアルバム・リリース記念のライヴに多くの人が集まってくれたことに、カモシタが感謝を述べ、"次の曲はこの4人で初めて演奏した曲を"と、「平行線」のハチロクのリズムがしっかりした足取りで刻まれる。"平行線"という単語が時間経過を追って前向きに変化していく感覚を、しっかり受け止めることができた。カモシタはのちのMCで、リハで集中しすぎて喉がガラガラだと言っていたが、むしろそれは迫力に繋がっていた。地声の淡々とした強さ、本多 秀(Gt)ととものしん(Ba)のフレージングで作り出す景色が浮かぶような「深海列車」、堂々としたスローなロック・バラード「映写幕の向こうへ」、ディテールに映画的な繋がりがある「エンドロール」の流れも良く、本多がレスポールで奏でる普遍的な、例えばNoel Gallagherのギターにも似た極上のフレーズが胸を射抜く。シンプルなアレンジだからこそ音色が際立っていた。二十歳そこそこのバンドが生み出すグルーヴとしては破格だ。いや、そうした年齢による先入観自体がナンセンスに思えるほど、彼らは彼らの道を行く。ひと連なりの若き日の旅を紡いできた前半のハイライトは「ペトリコール」。グッとオルタナティヴな強さを増した演奏は、どこかWEEZERを思わせるイノセンスと無謀さを炸裂させる。雨上がりに匂い立つ生き物の気配。堂々とした演奏の背景は曲そのものへの自信を窺わせた。

メンバー全員が目標にしていた会場が、自分たちだけを観に来たオーディエンスで満員であることに喜びを溢れさせるMCを挟んで、アコースティック編成(ドラムのKaitoはタンバリン!)で「手の鳴る方へ」。音源としては未発表のこの曲は自分を生かすための歌なのでは、と理解した。さらにmyeahnsの逸見亮太(Vo)が提供した「とがるぺん」も、カントリーテイストのアレンジが似合う。終盤、パンカビリーなムードに加速したのはシンプルに楽しめた。さらに未発表曲の「予感がしている」は、どんな日々にも別れが訪れることをまっすぐに表現して、清々しいほど。ここでも本多のスケール感の大きなギターが、生きていくことのダイナミズムを牽引するかのようで、バンドのグルーヴはどんどん強く大きくなり、オーディエンスを巻き込んでいく。

一転、軽快なKaitoのドラミングにクラップが起きた「すぐに」では、乾いたクラップの音も楽器のひとつとなり、オーディエンスの自由度も上がっていく。カモシタが"すぐにすぐにすぐに/飛べるはずだよ"と自身に言い聞かせる言葉が、自分のものになっていく感覚を味わえた。そして、再び空気感の変わる「少女」へ。とものしんのリバーブが掛かったベースが荒涼とした空気を醸し、キリッとしたカモシタの声がバンド・アンサンブルを束ねていく。高い集中力で一曲一曲の温度や空気感を体現してみせた。しばらくライヴをやっていなかったことは、むしろバンドの飢餓感をいい方向に転じさせたんじゃないだろうか。そのあとのMCでみんなが"この3年で老けた"と言うと、とものしんが"一緒に歳を取ってください"と、キャラクター全開。Kaitoに"プロポーズみたいになってる"と突っ込まれる場面もあり、小さな笑いが起こっていた。

"ドラムス、カモン!"とカモシタが声を掛けると、リズムから「Walking Song」がスタート。珍しくハンド・マイクで動くカモシタにフロアも腕を振って応える。ファストなこのナンバーで加速がついたところに、代表曲「グッバイ来世でまた会おう」が鳴らされた。外に向かうエネルギーをオーディエンスも放ち、シンガロングこそできないものの、歌声が聴こえるような一体感が醸成。心配しなくても大事な人には会える。来世があるかどうかはわからないけれど、いつでも僕は僕だ――そんな自分で自分に勇気を与える歌だ。さらに、インナージャーニー版オルタナティヴ・ロックと言うべきハードさを兼ね備えた「旅の途中」が、ロック・バンドとしての骨太さを証明。本編ラストには、来春公開予定の映画"雑魚どもよ、大志を抱け!"の主題歌でもある「少年」を披露した。ラストに初披露の楽曲をセットする肝の太さに笑いながら感銘を受けたが、カウ・パンク~8ビートに突き抜けていく痛快なこの曲は今後、ライヴで大事な存在になりそうだ。"ありがとう! また会いましょう"と笑顔でオーディエンスに挨拶したカモシタのやりきった表情が、すでに次の扉をこじ開ける予感に満ち満ちていた。

アンコールでは初期からの人気曲「クリームソーダ」と「会いにいけ!」を、余力を残さず演奏。大阪と名古屋へツアーに出ることも発表した4人は、バンドとしてますます代替不可能な存在になっていくことだろう。

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