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LIVE REPORT

Japanese

インナージャーニー

Skream! マガジン 2023年11月号掲載

2023.10.06 @1000 CLUB

Writer : 石角 友香 Photographer:マチダナオ

1年前のduo MUSIC EXCHANGEでのワンマンはカモシタサラ(Vo/Gt)の作る音楽へのメンバーの理解度に感動する部分もあったけれど、今回は完全に大文字で表記したいザ・ロック・バンド、インナージャーニーがそこにいた。ライヴ・タイトル通り、結成4周年記念だが、この日をもってドラムのKaitoが俳優業に専念するために脱退。この4人でのラスト・ライヴを見届けようと多くのファンが集まった。

1000 CLUBの真紅の緞帳が降りた状態でライヴが始まり、おもむろに緞帳が開いたところで「グッバイ来世でまた会おう」のイントロなどインスト部分を演奏し、実質的な1曲目は4人が初めて音を合わせた曲「平行線」でスタート。"なにもないよ/私たちにはさ"という歌い出しが曲の意味とは違うけれど、ゼロからここまで歩いてきたバンドを思わせる。続く「クリームソーダ」ですでにテンションはマックス。演奏することの楽しさが表情に溢れているKaito、これまで以上にギター・ソロで存在感を示す本多 秀(Gt)、何より4人の演奏が手に取るように伝わる明確になったプレイが素晴らしい。「Fang」まで一気に披露し、カモシタがMCで今日のセットリストはすべてKaitoの考案であることを告げた。

最近、MVが公開されたばかりの「PIP」はソウル/ファンクのビート感をインナージャーニーに落とし込むことで、カモシタのトーキング調のヴォーカルがより躍動することが伝わってきた。跳ねるビートは「すぐに」に繋がり、真面目に見つめるファンが多いフロアも緩やかに揺れ始める。ファンはバンドの写し鏡だと思うが、純粋に音楽とキャラクターに共感して集まったオーディエンスの輪が高い純度を保ったまま広がっていることに感銘を受ける。そしてそのムードがステージに送られているのもわかる。本多が作曲した「ステップ」の間奏でとものしん(Ba)とカモシタが投げキッスを交換し、その後、カモシタはKaitoと本多にも投げキッスを送っていたのが単に微笑ましいというより、カモシタのフロント・ウーマンとしての度量の大きさとして見てしまった。

そして本多のリフやソロのオーセンティックなパワー。素朴なニュアンスもいいけれど、大文字のロック・バンドという痛快さは本多のプレイアビリティが大いに担っているし、ライヴではより前に出ることで、バンドのダイナミズムを明らかに増幅していたのだ。さらにジャカジャカ鳴らされるストロークが気持ちを加速させる「夕暮れのシンガー」もまた痛快。字余りフォーク的でもあるカモシタの畳み掛けるヴォーカルがはっきり聴こえることも、こちらの気持ちを爆走させる。

前半を駆け抜けた4人はこの4年を振り返り、お互い歳を取ったと言い合ったり、顔が伸びたなどと笑いながら、今回は声出しができるようになってほぼ初めてなので、フロアに向かって"男子? 女子?"的なコール&レスポンスを行ったり、どこから来たのか質問したり。ファンの中には北海道や沖縄、果ては海外から来た人もいて、4年も経つとこういうことになるんだ、と4人とも感動していた。

緩やかなムードから一転して中盤はインナージャーニーの進化/深化をいっそう体感できるスロー~ミディアムの楽曲で組まれたブロックに移行していく。個人的にはここで大いに引き込まれ、青春期の煌めき以外のロック・バンドが本質的に持つ大きくて深いグルーヴ、時代を跨いでいくような迫力に圧倒された。フィクションが題材になってはいるものの、夜明けと共に異なる道を歩き出す、その気配すら演奏で表現した「夜が明けたら私たち」でオーディエンスは息を呑むように集中し、演奏が終わり、次の曲までの静寂はアンプのジーという音が聴こえるほどだ。「深海列車」も旅立ちの歌と捉えられるし、人生という旅の中の一場面でもある。そして気づいたのだ。インナージャーニーが描く少年の心は女性ファンの中にも共振しているのだろうなということ。それはカモシタが性別を超えたところで若者に共通する成長の過程を描く作家だからなのだろう。海を渡っていくような大きな演奏や音色、特にとものしんのメロディアスなベースが体感を広げていた。

赤いスポットを受けてアルペジオを爪弾きながら始まる「エンドロール」が、本多のOASISのNoel Gallagherばりのギター・サウンドで凄まじい空間を作っていく。さらにコーラス系のエフェクトをかけたベースが異世界に導く「少女」では荒涼とした大地や空気の鋭さも感じられる、4人の意志が噛み合った演奏を聴くことができた。たった4曲で違う場所に空間移動したような感覚に襲われたあとは、よりたくましくなったハチロクのリズムと重量感のあるアンサンブルが迫る「ペトリコール」。冒頭の「平行線」もハチロクだが、その変化を実感した場面でもあった。そして"ぼくら大人になるけれど/さよなら/またいつか会えるさ"とコーラスで歌うKaitoにこの歌詞はあまりにもハマっていたんじゃないだろうか。演奏が終わると男性の野太い叫びが上がった。

カモシタがKaitoに向けて、自分の人生を生きてほしいし、自分の選択をすることはすごくいいことだと思うと話した。このMCがあることで、歩き続けて疲れて眠って、また歩くというシンプルだけど真理の詰まった「Walking Song」がよりヴィヴィッドに届き、繰り返していく中で変化が起きていく「わかりあえたなら」の説得力が増す。そう、4人が歩いてきた道のりと演奏の説得力で、これまでで最も今ここで鳴っている曲が全身に入ってくるのだ。別れは同時に未知の世界への入り口でもあり、「予感がしている」、「少年」というストーリーをここにいる人たちと共に歩いている気持ちに、なんとも言えない満たされた気持ちになっていた。

だんだんドラムの締めが長くなっていることに4人の名残惜しそうな気持ちを感じながら、この日の本編の締めくくりである「ラストソング」の前にKaitoが脱退を決心するまでの思いを丁寧に話してくれた。俳優の仕事とバンドの両立はシンプルに時間的な齟齬だけれど、確かにバンドが前進していくタイミングで思うように活動できないことが自分に起因していたら、とても苦しいだろうし、脱退というKaitoの選択はもっともなことだと理解した。ベース・リフと歌が始まる。ビートが滑り込み、コードがかき鳴らされるという、4人が集まってくるイメージもラストに相応しい。ライヴのラスト・ソングがバンドとオーディエンスにとってどんな存在かを表したこの曲は節目のライヴであるこの日、さらに意味を深いものにしていた。全身全霊の演奏を終えた4人は過去最高にバンドだった。

本編に集約されていた4年間の足跡と今日この日に上書きされた最新のインナージャーニー。全身全霊で本編を駆け抜けたあとのアンコールは近しい表情を見せるリラックスしたものだった。カモシタのアコギとKaitoのカホンで届けた「手の鳴る方へ」。とものしんと本多も登場して、Kaitoへの感謝状と花束を送った。そして曲と演奏の良さで突き通した「グッバイ来世でまた会おう」がすでにエヴァーグリーンの輝きを放ち、最後の最後にメンバーのソロ回しも盛り込んで、合奏の楽しさ、この4人であることの歓喜を爆発させた「会いにいけ!」が記念すべきこの日の最終曲。日常は続くし、伝え足りないことは"歌って歌って歌って歌って"行くほかない――道は分かれるけれど、これまでで最も彼らの情熱と欲求を強く感じたことに可能性しか感じない。大きな一歩を刻んだ夜だった。


[Setlist]
1. グッバイ来世でまた会おう(intro)
2. 平行線
3. クリームソーダ
4. Fang
5. PIP
6. すぐに
7. ステップ
8. 夕暮れのシンガー
9. 夜が明けたら私たち
10. 深海列車
11. エンドロール
12. 少女
13. ペトリコール
14. Walking Song
15. わかりあえたなら
16. 予感がしている
17. 少年(original ver)
18. ラストソング
En1. 手の鳴る方へ(Acoustic ver)
En2. グッバイ来世でまた会おう
En3. 会いにいけ!

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