Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

LIVE REPORT

Japanese

インナージャーニー

Skream! マガジン 2024年12月号掲載

2024.10.26 @渋谷duo MUSIC EXCHANGE

Writer : 石角 友香 Photographer:Asuka Kobori

今年の10月1日でバンド結成5周年を迎えたインナージャーニー。その翌日には4作目となるEP『はごろも』をリリースし、本作を携えた初の東名阪ワンマン・ツアーを実施した。ここでは初日の東京公演をレポートする。

これまでも映画主題歌への書き下ろし等、新人バンドとしては異例の抜擢が多かった彼等。新しいEPにもNHK土曜ドラマ"%(パーセント)"に書き下ろした「きらめき」、映画"とりつくしま"主題歌の「陽だまりの夢」が収録されているが、いずれの作品も日常の中の革命とも言える、大袈裟ではないけれど人生において大事な気付きのある内容で、インナージャーニーの音楽とは単に親和性が高いというだけでなく、若手バンドの中では他にない相思相愛ぶりを感じる。世代やジャンルで割り切れない彼等の音楽が幅広いリスナーに届いている理由に納得する部分でもある。

そんな幅広いリスナーが集まった東京公演の会場であるduo MUSIC EXCHANGEは彼等が初めてオーディション"未確認フェスティバル2019"で立ったステージで、結成3周年にも立ち、今回が3回目だ。なんと開演前のアナウンスは脱退した櫻井海音が務め、今も仲のいい関係が窺える。Joe JacksonやMOTT THE HOOPLE等なかなか渋い選曲の開場BGMが流れ、オーディエンスのステージへの視線が集中したところで赤いワンピースが鮮やかなカモシタサラ(Vo/Gt)、本多 秀(Gt)、とものしん(Ba)、そして今回のサポート・ドラムであるフカイショウタロウ(からくりごっこ/The Dixie Trucks Band)が登場。新体制を象徴するようにオープナーはオルタナティヴ・ロック色を強めた「Mary」だ。ベースとギターのユニゾン・フレーズがフックを付ける。続く「Fang」はパワー・コードで牽引し、フロアの熱量がグッと上がり、エンディングをビートで繋いで「クリームソーダ」のシャッフルのリズムが放たれると自然にクラップが起こり、バンドにエネルギーが注ぎ込まれていく。先日、対バン・イベントでも観たのだが、フカイのパワーヒッターぶりは素直に今のエネルギッシュなインナージャーニーのバンド・アンサンブルと好相性で、特に本多がギタリストとしても人としてもキャラを前へ出している印象だ。

EPからの新曲をどう配置していくのかも見どころなのだが、続くセクションはすでに以前のライヴでも披露されている「予感がしている」までの構成がなかなかいい。ソウルを感じるとものしんのベース・フレーズに歓声が上がり、本多のワカチコカッティングもグルーヴを生み出す「PIP」。話し言葉っぽい部分もあるカモシタのヴォーカルもユーモアを添えてく。続く「ステップ」はブギーっぽいギター・リフ等、ここでも本多のロックンロールに対する愛と精度を感じる。第一、去年までは割とクールに振る舞っていた本多がギター・プレイ同様、表情も豊かにオブリガートを弾いているのが新鮮でならないのだ。それはカモシタの個性であり持ち味の堂々とまっすぐ放たれる歌がこの夜一番体現された「夜が明けたら私たち」(後の「ペトリコール」と同じくこちらも東京限定曲)でも確認できた。ここまで楽しさに振っていたライヴの表情が「夜が明けたら私たち」で、一気に凛とした表情に変わる。表現の幅を広げてきた彼等の音楽の中でも、顔を上げて前に向かっていくようなこの曲のトーンは深いところで共振しているのだと思う。この曲と「予感がしている」のスケールの大きな一連の流れは前半のハイライト。1A、2Aで"夢の始末"、"この世界から/なくなったものを書き記していくこと"と、それぞれ刻み込むように歌い、サビで歩き出すように開ける展開はライヴでさらにその体感をリアルなものにしてくれた。まるでここだけ風が吹いているように。

久々のワンマン・ツアーの喜びを隠せないメンバーの表情が思わず伝染する中盤。EPの中で特にアコースティック且つオーガニックなアレンジにトライした「陽だまりの夢」をライヴ・アレンジで披露。1番はカモシタのアコギの弾き語りで聴かせたのだが、いつもと違い少し柔らかく丸みのある歌唱がとても新鮮だ。バンドがインしてからも丁寧に歌に寄り添い、アウトロに向けて本多のブルージーなソロが音源とは違う味わいを残した。素朴さという意味で、カントリー調の「すぐに」と「手の鳴る方へ」でアコースティック寄りのライヴ・アレンジを作ったのもいいアイディアだった。

メンバー紹介の中で、カモシタはこのライヴの前日が誕生日だったとものしんをフィーチャー。照れる彼をファンからの"おめでとう"の声が包む。そしてEPからの新曲はすでに3曲披露してきたが、先行シングルでもある「きらめき」が披露されると、これまでのインナージャーニーのオーソドックスなギター・ロックだったり、自分に向き合いがちな毎日を綴った歌詞だったり、彼等らしいトーンを感じさせながら、サビの"イメージを超えてフレームの外へ"という、今のインナージャーニーの心持ちが鮮やかに示される。カモシタの声もバンドの新章を表す清々しさに満ちていて、ライヴでこの曲の求心力を改めて確認した感じだ。そして、イントロのストロークへのリアクションの大きさにファンの待望感が窺える「夕暮れのシンガー」へ。カモシタのヴォーカルはフォーキーでもあるが、言葉を詰め込んで爆発させるスタイルは時代を問わず、ロックンロールのカッコ良さの1つだ。本多のソロもどんどん熱量を上げていく。さらに人気曲は「グッバイ来世でまた会おう」と続き、インナージャーニーでしか得られない不思議な仲間意識を演奏が作り出していった。

最後のセクションの前にカモシタはバンドが結成して5周年を迎えたこと、この場所が初めてインナージャーニーとして立ったステージであること、この1年が最もライヴを行ってきた時間であること、そして"メンバーの性格もバラバラで、音楽がなかったら関係なかった、出会ってなかったと思います"と、音楽に感謝する発言をしたのだが、"関係ない"というくだりのバッサリ感に笑いが起きるという、これもまた彼等らしい一幕だった。

ライヴも終盤に差し掛かり、「ノイズラジオ」では孤独の中にあっても発信し続ける個々の存在を思わせる透徹した歌詞がしっかり聴こえ、カモシタが音楽を作ることの原点を思わせてくれた。この曲に「ラストソング」が続くことで、さらに強まる歌の核心。さらに"ソング繋がり"でもあり、一人一人の命の光を自覚させるような「トーチソング」が堂々と放たれた。カモシタの作る普遍的な名曲のメロディ、本多の旨みたっぷりなフレージング、タフなグルーヴを作るとものしんのベース・フレーズ。メンバー各々のやりたいことを盛り込める曲の大きさに感嘆してしまった。演出らしい演出はなく、シンプルに演奏で突き進んできたライヴにむしろ醍醐味を感じたのだった。

アンコールでは東京公演のための選曲で「ペトリコール」を披露。2本のギターが作る音の壁がホワイトアウトしそうな爆音を作り上げたのも今のバンドのスタンスの1つ。嬉々として分厚くなるサウンドの中で暴れるメンバーはどんどん前に進んでいた。ラストは一部、レゲエ・アレンジを加えた「会いにいけ!」。エンディングでドラムを囲んで限界まで音を放ち、清々しい表情でツアー初日を完遂した。進み始めた新しいインナージャーニー、今年の冬フェス等にもぜひ登場してほしいところである。

  • 1