Japanese
Half time Old
2020年11月号掲載
Member:鬼頭 大晴(Vo/Gt) 小鹿 雄一朗(Gt) 内田 匡俊(Ba) 阪西 暢(Dr)
Interviewer:秦 理絵
-アルバムの制作はいつ頃からスタートしたんですか?
小鹿:今年の2~3月ぐらいからですね。もうコロナの影響が出てるころで。
鬼頭:ライヴができないぶん、曲を作らなきゃっていう感じでした。
-4月には緊急事態宣言が出て、スタジオに入れない日々もあったと思いますけど、その時期はどんなふうに曲作りをしてたんですか?
鬼頭:緊急事態宣言が出る前までは、ちょっとだけスタジオに入れたんですけど。これはさすがにヤバいぞとなってからは、いったんスタジオはやめとこうかってなって。
小鹿:ひと月半ぐらいスタジオには入ってなかったよね。それでパソコンの中で、お互いに"このアレンジどう?"って投げ合って。それでも、わりと進んだよね。
阪西:アレンジに関しては、そうだね。
鬼頭:僕らは、わりと普段からハイブリッドな作り方なんですよ。スタジオである程度決めてから、パソコンに入れて、またやりなおして、みたいなことを繰り返してて。
内田:でも、今回はほぼデータでやりとりをしたね。
-その結果、今までと違う仕上がりになったなと思う曲はありましたか?
阪西:考える時間は長くなったよね。
内田:うん。データで作るときは、最初にドラム、ベースを入れて、ヴォーカル・ギター、サイド・ギターのあと、最後にリード(ギター)が乗るっていう順番なんですけど。スタジオ・セッションのときって、"ここ、どうする? みたいな譲り合いが起きるときがあるんですよ。データだとそれがないから、結構好き勝手に弾いたものが採用された曲がありますね。
-例えば?
内田:「あまのじゃく」とか。2番でベースが暴れ倒してるんですけど。スタジオ・セッションでは絶対にやらないアプローチでやってみたんです。自分の中では、"あとから入れる小鹿さんのリード・ギターにもよるけどな"と思ってたんですけど、そこは譲ってくれて。
小鹿:めっちゃかっこ良かったからね。"ここはうっちー(内田)のベースを聴かせよう"と思って、僕はシンプルにしたんです。たしかに、そういうのはあったかもしれないですね。
-阪西さんはどうですか?
阪西:データのやりとりだと、曲を大きく捉えるようになりますね。変にドラムで埋めないで、みんなが乗せてくるのを見守るって感じでした。スタジオだと、勝手に手癖で動いちゃうところもあるんですけど、よりシンプルに作ることで、うっちーの暴れるところとかもハマったんです。
-小鹿さんのギターは、今回、曲ごとにまったく違う雰囲気で弾いてますね。
小鹿:そこはシンプルに言うと、曲が全然違うからですね。特に差別化しようって考えなくても、ちゃんとバラバラになるというか。自然にバリエーションがつくんです。
内田:前回もバラエティ豊かな1枚ではあったんですけど、今回はより振り切ってるんですよ。
小鹿:より幅広い作品になったよね。
内田:そのうえで、ちゃんとこのバンドのかたちに落とし込めたので。メンバーの守備範囲の広さを生かせたと思うし、これからもっといろいろなことができるっていう可能性を見いだせましたね。
-そもそもアルバムを作るうえで、バラエティ豊かな作品にしようとか、こういう作品にしたいという全体的なヴィジョンはあったんですか?
鬼頭:なかったですね。最初、本当に書くことがなかったんです。1ヶ月ぐらい何も書けなくて。曲を書こうと思って、パソコンの前でいろいろやってても、何も書けないまま1日が終わる。次の日も、コロナで外出できないから、1日中家にいるわけじゃないですか。何も変わらないんですよ。
-日々の生活にメリハリがつきづらかった。
鬼頭:そう。今までだったら、曲が書けなかったら、友達と飲みに行ったりして、外で何か刺激を貰って、"あぁ、そういう考えもあるんだな"とかインプットできてたんですけど、それがなくて。最初の曲が書けた時点で、"あ、こうやって書けばいいな"ってコツを掴んだんです。
-最初にできたのはどの曲だったんですか?
鬼頭:それが覚えてないんですよ。そこから1週間に2曲とか書けるようになったんですけど。
阪西:うん、急にペースが上がったよね。たしか「my^2」が最初じゃなかった?
鬼頭:そうかも。1曲できたことで、無の状態から、身の回りのことを書けばいいんだって、テーマを見つけることができるようになったんですよね。
-「達磨」は、どのタイミングで作った曲ですか?
小鹿:結構最後のほうでしたね。
-サウンドとしてはフォークっぽいわびしさと、小鹿さんが影響を受けているOASISっぽいギターが混じり合っていて、絶妙なバランスの曲だなと思いました。
阪西:これ、最初はフォークっぽさが全面的に出てたんですけど、そこに小鹿がOASISっぽいギターを入れてきて雰囲気が変わったんです。ドラムは、フォーク・ソングの雰囲気を出そうと思って、質素にというか、素朴な感じで叩いてたんですけど。
小鹿:自分でもギターで印象が変わるなって迷いながらデータを送ったんです。
阪西:ガラッと変わったからね。
鬼頭:でも、それがいいなと思ったんですよ。最初に作ったときに、この曲はイントロを明るくしたかったんです。歌詞のストーリーを大事にしたくて。最初のAメロは暗い感じでマイナー・コードを鳴らすんですけど、2回目のAメロはオクターブ上げたコーラスを入れて、少し明るく聴かせたい。っていうふうに、セクションごとに歌詞とオケをリンクさせながら、表情を変えていきたくて。最終的に希望のほうに向かいたかったんですよね。そういう曲の印象って、イントロでだいぶ決まると思うから、おっちゃん(小鹿)からこのイントロを貰ったときに、すごくいいなと思いましたね。
-"騙されて金を奪われて泣いた"っていう絶望から始まる曲だけど、最終的には、"醜くも生きよう/美しく生きよう"っていう言葉で締めくくられるのが、この曲の希望ですよね。失敗しても、何度だって立ち上がるんだっていう。
鬼頭:これは、僕がずっと思ってることなんですね。
-わかります。今までの曲でも、Half time Oldは、惨めで苦しい日々のことを歌ってても、必ず希望を描くバンドですよね。そのうえで「達磨」は、年を重ねたうえで書けた言葉も多いように感じました。否定したくなる過去を真正面から受け入れていて。
鬼頭:たしかに若いころは、何か嫌なことがあったときに受け入れられないことが多かったんですよね。それは、もちろん今もあるんですけど、どうしようもないことを早めに理解できるようになったのかもしれないです。「達磨」でも歌ってますけど、過去の失敗はもうどうしようもないじゃないですか。どうにかして、そこから前を向かなきゃいけない。そうやって、ちゃんと自分の中で受け入れて、納得しないと、次にはいけないんです。なんで、こんな人間になったんでしょうね(笑)。
-ははは。「あまのじゃく」では、"僕は僕の生き方が少しだけ嫌いだったりするのだ"って歌ったり、反対に"僕はこんな生き方でも少しだけ好きだったりするのだ"って歌っていたりしてますね。根本的に、鬼頭さんは自分のことを好きですか? 嫌いですか?
鬼頭:うーん......難しいな。それは場合によるから、自分でもよくわからないですね。
-鬼頭さんらしいと思います。では、別の曲の話を。「2020」は、今までのHalf time Oldにはないタイプの曲ですね。オシャレなグルーヴが心地よい。
小鹿:最初はもっとポップな曲だったんですよ。そこから、うっちーがコード進行を変えて、かなりブラック・ミュージック寄りにしたんですよね。
-内田さんはアシッド・ジャズがルーツだと言ってましたね。
内田:そうなんです。"ちょっとやりすぎたかな?"っていうぐらい振り切ったから、最初は"嫌だったらいいんで"ぐらいの感じで投げてみたんです。そしたら、最終的に、小鹿さんが乗せてくれたリード・ギターの耳なじみが良くて。人懐っこい感じにしてくれたおかげで、Half time Oldっぽい感じに落とし込めたかなっていうのはありますね。マジで良かったです。マジ感謝です。
小鹿:(笑)
-こういう曲調になると、歌詞の乗せ方もロックな曲とは変わりますね。
鬼頭:それはありますね。最初、サビだけがパっと出てきたんですよ。
-"出来ることを出来る時に出来るだけやっていこうよ"のところ?
鬼頭:そうです。このサビのメロディって、この歌詞の感じしか合わないんです。今まで全部のサビを同じ歌詞にするのって、あんまりやってこなかったんですけど。この曲は、これで気持ち良く聴けるからいいかなってなったので。歌詞優先というより、リズム優先にした曲ですね。
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