Japanese
Half time Old
Skream! マガジン 2022年06月号掲載
2022.04.23 @Veats Shibuya
Writer 秦 理絵 Photo by 石原 汰一
ロック・バンドはツーマン・ツアーが好きだという人たちが多い。互いが持っている100パーセントの力を一対一のステージでぶつけ合う。そういうツアーを回ったあとというのは、バンドは驚くほどタフに成長を遂げる。Half time Oldが今年3月からThe Floor、クジラ夜の街、ドラマストア、reGretGirlを迎えて全国5ヶ所で開催してきた[Half time Old presents "戦ってるんだ" ツーマンツアー]も、まさにそういうツアーだったのだろうと思う。ファイナルとなったVeats Shibuyaは、2週連続で出演予定だったreGretGirlが残念ながらキャンセルになり、ワンマンになったが、ここまで4組のバンドと熱い夜を作り上げてきた勢いのまま乗り込んできたようなステージは、いつも以上にアグレッシヴで、Half time Oldとは、熱く泥臭いロック・バンドであることを強く印象づける一夜になった。
オープニング・アクトとして、鬼頭大晴(Vo/Gt)がアコースティック・ギターの弾き語りで、ソロのオリジナル曲「雫」を歌ったあと、改めてメンバー全員でステージに現れた。いきなりフロアの熱狂を最高潮へと押し上げる「101分の1の本音」からライヴはスタート。"ギター、小鹿雄一朗!"という鬼頭の声を合図に鮮やかなギター・ソロを聴かせる小鹿。荒々しく動きまわりながらバンドを支える内田匡俊のベースと、軽やかなビートで楽曲の勢いを加速させる阪西 暢のドラム。それぞれが個性を主張し合う骨太なバンド・サウンドのうえで、鬼頭が紡ぐポップなメロディがクリアに響き渡っていく。
浮遊感が漂うサウンドの中、"人間の細胞は数年ですべて新しい細胞に変わるらしい"と語り掛けた鬼頭。"目に見えない変化はあるけど、自分は同じ。何も残らずとも、変わって代謝していく感情を楽しめたらと思う"と言葉を添えたミディアム・ナンバー「スターチス」に続き、「なにもの」ではフォーキーなメロディをゆったりと聴かせた。自分は何者なのか? という葛藤、探し続ける生きる意味、日々の小さな気づき。頭の中で浮かんでは消えてゆくような大切な想いを、取り零さずに丁寧な言葉でひもといていく鬼頭の歌は、"共感"を呼ぶには生易しい。誰もが自分の歌として抱きしめられる訴求力があるのだ。
後半戦。"こんな世の中に卒業を迎える人たちに作った曲"と紹介した「雛の歌」から、躍動感あふれるストレートな応援歌「エール」といったアップ・ナンバーで、再び熱いステージを展開していった。鬼頭のギターの弦が切れたため、急遽挟み込んだMCでは、インターネット上で起こるいさかいを見ていると、"なんだか変な気分になる"と、次の曲「マッシュルームソング」の歌詞に触れたトークで場を繋いだ。内田のスラップ・ベースに小鹿のタッピング・ギターが絡み合った「忠犬ヒト公」から、"音楽に救われた"という自身の経験がもとになった音楽讃歌「愛してるよ」へ。
クライマックスへと向かうなか、最後のMCでは、鬼頭が"今回は「戦ってるんだツアー」と言いますが、隠しタイトルは「一緒に戦ってくれてありがとうを言うんだツアー」だったと思います"と改めてお客さんへの感謝を伝えた。ラストは、その"戦ってるんだ"が歌詞に刻まれる「ミニマリスト」。"失ってばかりだけど取り戻す旅にでるよ"と、おそらくこの日一番伝えたかったであろう想いを渾身の歌唱で歌い上げると、それに賛同するようにフロアからも力強く拳が上がった。「ミニマリスト」には、"素晴らしい日々をいつか君と迎えれるように"というフレーズもある。Half time Oldがお客さんと一緒に作り上げた素晴らしい景色を目の当たりにすると、この"君と"の部分が大事なのだと痛切に感じた。その場所にいるすべての人たちをバンドの未来へと連れてゆく。そんな覚悟を感じる力強いフィナーレだった。
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