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LIVE REPORT

Japanese

Half time Old

Skream! マガジン 2022年01月号掲載

2021.12.09 @Spotify O-EAST

Writer 秦 理絵 Photo by タカギ・ユウスケ

今回のツアーのタイトルが"発芽"なのが、今のHalf time Oldにとても似合っている。その理由のひとつ目は、今こそ彼らが全国に蒔いた音楽の種が美しく芽吹くときだから。そして、もうひとつはHalf time Oldというバンドの芽がいよいよ勢いよく育つ季節を迎えたと思うからだ。今年10月にメジャー・デビューを果たしたHalf time Oldが、最新ミニ・アルバム『ステレオアーモンド』を引っ提げた全国5ヶ所のワンマン・ツアー。その折り返し地点となったSpotify O-EAST公演は、一歩ずつ着実に進化し続けてきたバンドが新たなフェーズに到達したことを告げる一夜になった。

OASISの「She's Electric」をSEに、鬼頭大晴(Vo/Gt)、小鹿雄一朗(Gt)、内田匡俊(Ba)、阪西 暢(Dr)がステージに現れた。この瞬間を待ちわびていたかのように4つの音が一斉に鳴らされた。これぞライヴハウスの音という爆音。"名古屋のHalf time Oldです! 全国に種を発芽させにきました。東京の番ですよ"。鬼頭の第一声を合図に、アメリカのスタンダード・ナンバー「The Entertainer」をアレンジし、"au三太郎シリーズ"のCMソングで話題になった「みんな自由だ」でライヴは幕を開けた。"陽気なドラム"、"無邪気なベース"、"歪んだギター"と、メンバーを紹介するようなユーモラスな歌詞に合わせて、鬼頭がそれぞれに視線を投げ掛けながら歌った「my^2」に続き、阪西が繰り出す性急なビートにポップなメロディがはずむ「SHALALA」、小鹿が切り込む速弾きのギターに内田の抉るような重低音が重なった「アセスメント」へと、『ステレオアーモンド』の楽曲を中心にライヴは進んだ。全員が自分の持ち場で強く主張する手数の多いアンサンブル。Half time Oldというバンドの最大の武器とも言える鬼頭のクリアなヴォーカルは、どんな轟音の中でもポップな煌めきをまとってまっすぐに聴く人の胸へと突き進んでいく。

"僕はね、変わっていくことも、死ぬこともすごく怖いです"。最初のMCで鬼頭はそんなふうに語り掛けた。"死ぬことばっかり意識してるのも良くないなって、最近はすごく思ってます。人が死ぬなんてあっけないことだし、昨日まで元気だった人が急に死ぬこともあるし。生きてるからこそ、考えて、感じて、希望にあふれた曲を4人で楽しく作っていきたいです。それをみんなに聴いてもらえたら、それほど幸せなことはないなと思っています"と。その想いを楽曲に託するように届けたのは「スターチス」。ステージに美しい光が降り注ぐ。シーケンスを用いた深遠なサウンドスケープがやがて生命力に満ちたバンド・サウンドへと移っていく。"人生は謎解きなんだぜ"と、"歴史とは言わば落書きなんだ"と。まるで子どものような心で人生に立ち向かおうとするその歌の答えは、おそらく数えきれない逡巡の果てに得た鬼頭なりの気づきなのだろう。

ムーディなライティングがステージを包み込むなかで小鹿がクールなギターを聴かせた「2020」に続き、疾走感あふれるライヴ・アンセム「シューティングスター」ではサビでフロアから一斉に腕が上がった。今回のツアーからは阪西が自前のドラム・セットを、ファミリーカーにギューギューに詰め込んでまわっているという。そんなMCを挟み、「なにもの」へと続く。"僕ってなんなんだろう? そんな曲をやります"と鬼頭。まるで独白のようなフォーキーな歌が、壮大なストリングスや重厚なコーラスを伴ってぐっとその飛距離が伸ばしていく。小鹿がステージ際で派手なソロ・プレイを繰り出す後ろで、鬼頭と内田が向き合って演奏していた「スイッチバック」、内田のファンキーなベースにやさぐれたヴォーカルを乗せた「ウェイバーモンキー」から、カラフルな照明が彩るなかでギターとベースが瑞々しく絡み合った「drop」。初期曲が続いた中盤戦で強く思ったのは、バンドの地力が急激に底上げされたとき、新曲はさることながら、過去曲たちもこれまで以上に輝きを増すということだ。結成から10年。長くインディーズ・シーンで培ってきたライヴ・バンドとしての実力が大きく開花したそのステージを目の当たりにして、Half time Oldは最高のタイミングでメジャー・デビューを果たせたと思った。東京ではバンド最大キャパになったO-EASTですら狭く見えた。

"ずっと配信ライヴ配信ライヴでうんざりだった。ステージに立って歌えるのは嬉しいけどさ、目の前にいないとさ.........会いたかったですよー!"。コロナの緊急事態宣言下にはまったく有観客ライヴができなかった日々を振り返り、そんなふうに叫んで突入した「愛してるよ」、さらに超ド直球の応援ソング「エール」から、ライヴはクライマックスに向けて熱量を上げていった。インディーズ時代にバンドの存在を広く知られるきっかけになった大切なナンバー「アウトフォーカス」では、"舞台の袖から見守ってくれてる人"というフレーズで、鬼頭はチラッとステージ袖に目線を投げ掛け、その歌声がかすかに揺れた。もしかしたらそこには彼らと長年二人三脚で歩いてきたマネージャーがいたのかもしれない。"最後の曲っ!"と渾身のちからで叫び、ラスト・ナンバー「ミニマリスト」へ。"正装に身を包んだまま"という歌詞を、このご時世だけに"マスクに覆われたまま"に変えると、今この人生を"戦ってるんだ"と力強く歌い上げ、本編を締めくくった。

アンコールでは、ここまでのツアーを振り返った。"久々にツアーで各地をまわれて懐かしいよね。10時間ぐらい車の運転をするのも、しょっちゅうやってるとキツいけど、久々にやると楽しいなって"と小鹿。"これからも健康第一、安全運転で突き進んでいきます"と阪西がMCをまとめ、届けたのは「雛の歌」だった。音源とは構成を変え、ギター1本でサビ頭の"どうか幸せであってね"から歌い出した鬼頭。そこにバンドの演奏が加わり、全員の大合唱で上り詰めていく8ビートのロック・ナンバーは、笑顔の再会を約束する晴れやかな別れの歌だった。

本編で「アウトフォーカス」を歌う前、鬼頭がこんなふうに語り掛けた。"しんどいこともあるし、クソめんどくさいこともあるし、気持ち悪い、あぁほんっとに気持ち悪いって思うこともある。だから楽しいなって思えることを、なるべく幸せだなって思えることを。今日がその時間のひとつです"と。その言葉にHalf time Oldというバンドの存在意義が詰まっている気がした。彼らの音楽は生きるためにある。本編の最後に歌った「ミニマリスト」には"生きることが辛いなら逃げることも選ぶんだ"というフレーズもある。逃げて、生きればいい。Half time Oldの音楽はきっとそのすべてを肯定してくれるから。

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