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INTERVIEW

Japanese

キタニタツヤ

2019年10月号掲載

キタニタツヤ

Interviewer:秦 理絵

-「トリガーハッピー」の逃げ場所は、死ですか?

いや、"トリガーハッピー"っていうのは、銃をババババって撃って、その状態が気持ち良くなっちゃうことなんですよ。FPSっていう銃を撃つようなシューティング・ゲームとかを始めたての人とか、従軍歴の浅い人とかにある状態らしいです。"エヴァンゲリオン"にも初めて銃を構えたときに、ただ撃ちまくって、その弾幕で敵が見えなくなっちゃうシーンがあるんですけど。銃を撃つことに酔っちゃう状態のことを歌にしてみたんです。

-へぇ。

都合良く人間の手に収まっちゃうものの象徴として銃をテーマにしたけど、人間を壊すものなら、銃じゃなくてもよかったんですよ。人間がいるせいでいろいろな不利益があるなっていう気がするんです。人間の苦しみって、孤独、嫉妬、生殖とかが主だと思うんですよね。他者を羨むこと、それと比較して自分が落ち込むこともだし、他者がいなければ、孤独を感じることもないし。生殖にまつわる嫌なこともあるし。そのすべてが、人間がいなければ、解決するなと思ったんです。反出生主義っていう考え方があって。

-反出生主義?

"子どもを産むことは悪である"という思想で、私は生まれたいと思っていないのに、その想いに反して、生んだ両親には罪があるっていう考え方があるんです。実際にそれで訴える人がいるんですね。そういう考えを知ったときにこの歌詞を書いてみたいと思ったんです。アンチ人間っぽいですね。

-でも、キタニさん自身は、いろいろあっても、人間自体は結局好きですよね?

そうそう。特に今は、人間ラヴに寄ってるので(笑)。「トリガーハッピー」の思想が、今の自分がすごく思ってることか? って言われたら、そうではないんですよ。でも、人間が嫌いな人の気持ちもわかるんです。

-「花の香」は、艶めかしいですね。

これは、日本の古典文学っぽく書きました。和の表現が、エロチシズムを隠すじゃないですか。本当はエロいことを書いてるんだけど、そういう文学の世界になるというか。

-これも「Sad Girl」と同じように、セックスを逃げ場所にする歌ですか?

僕の中でこの曲は、"Flower In The Mist"っていう英題があるんです。"Flower"は、実際の花の意味でもいいし、花が何かを暗喩するものとしてとってもいいんですけど、ある美しいオブジェクトがあって、それに恋い焦がれる人間について歌にしようと思ったんです。それが、女の人でも、男の人でも、花とか、車でもいい。

-自分が愛でるものであれば、なんでもいい。

そうです。それに憧れてしまう想いを書き連ねたんですよ。

-「君のつづき」は、大切な人が死ぬことがテーマだけど、着眼点が遺された側じゃなくて、死んじゃった人の視点ですよね。

仮に自分が、家族とか友達とか、恋人とかを置いて死んじゃったときに、その人たちが、いつまでも"キタニ~!"って泣いてたとしたら、"お前ら、もうそろそろ忘れていいよ。前向きに生きてくれ"って思うんじゃないかなと思ったんですよ。ちゃんと区切りをつけて普通の生活に戻っていくために、葬儀や、喪に服す期間があるわけだから。

-こういう曲を書こうと思ったきっかけはあったんですか?

有名なアーティストが亡くなったときに、みんながSNSでそのことについて触れなきゃいけない、悲しみを表さなければいけない空気があるような気がしたんです。普通に"今日松屋で飯食ったのがうまかった"みたいなことを言うのが、後ろめたいというか。もし自分のとき、そうだったら嫌だなと思って。そこが、テーマだったんですよね。

-この曲が表現している"逃げ場"っていうのはなんでしょう?

逃げ場というよりも、もと通りの生活を送っている"君"の隣にいることが、死んでしまった自分にとっての"安息の場所"っていうことですね。

-「君のつづき」と次の曲「穴の空いた生活」は、繋がってるんですか?

裏表です。自分が遺された人になった場合に思ったことが「穴の空いた生活」で、そっちのほうが、先にできたんですよ。最初は"あぁ、悲しいよ"っていう気持ちなんですけど、少しずつ前向きになるように書きました。やっぱり最後は前を向きたいなっていう気持ちがあって。最近エンタメ映画をいっぱい観てる影響かもしれないけど。

-最後はちゃんと救われたいし、幸せになりたいんですよね。

そう、幸せになりたいですよね。そのために背中を押す機能が音楽には備わっているので、それを自分の音楽でもやっていきたいと思ってるんです。

-この2曲だけじゃなくて、アルバム全体としてのストーリーであったり、登場人物の繋がりみたいなものだったりは、意識したんですか?

そこまでは意識してないと思います。同じ時期に同じコンセプトで書いていると、自然と似たような概念とか言葉とかが、出てきますけどね。自分が好きな音楽を聴いてるときに、"あ、ここ繋がってるじゃん"っていうのは好きなんですけど。

-キタニさんって、ヨルシカのサポートをしてるじゃないですか。

あぁ、ヨルシカはすごいですよね。

-そう、1枚のアルバムで完全にストーリーを描くっていうことをやってて。コンポーザーのn-bunaさんは、自分は"作品至上主義"だって言ってますね。

僕は、作詞作曲の段階では関わってないから、n-bunaが何を考えてるかはわからないんですけど、あいつの美学はこってりしてますよね(笑)。僕の場合は、あんまり何かに固執することがないんです。曲単位ではちゃんと突き詰めていきたいけど、自分はこういう人間だって決めつけないようにしてますね。そういう意味で、いつものらりくらりおちゃらけてるわけです(笑)。

-全然"のらりくらり"じゃないですよ。ソロだけじゃなく、多方面で音楽をやってて。

ははは、音楽をやってるのは楽しいだけですけどね。

-"Seven Girls' H(e)avens"っていうアルバムのタイトルがついたのは最後ですか?

最初に「Sad Girl」ができて、2番目に「穴の空いた生活」ができて、その次が「クラブ・アンリアリティ」だったんですけど、その段階で決めたのかな。コンセプト自体は決まってたけど、HeavenとHavenのかけ言葉がいいなって。Heavenが天国で、Havenは避難所。このふたつの言葉が似てるのも面白いなと思いますよね。

-ええ、語源は一緒なのかな? とか、考えちゃいますね。

ちょっと調べてみたんですけど、そこは、わからなかったんですよ。

-この作品を引っ提げたツアーも予定してるんですか?

それは間もなく発表できると思うので。楽しみにしていてほしいです。

-ライヴは、キタニさんにとってどういう場所ですか? 作品の世界観をしっかり表現したいのか、お客さんとコミュニケーションを取りたいのか。

後者ですね。そもそも最近は曲を作る段階から聴く人のことを第1に考えて作ってるので。音楽を聴く場所って、自分の家の中もあるけど、ライヴも大きな要素だと思うから、やっぱりライヴで聴いてもらうことをちゃんとしたい。特に今回のアルバムは、どれだけ一緒に歌えるのか、踊れるのかを大事にしていますね。

-なるほど。

日本の風潮として、お客さんが歌ってると、"お前の歌を聴きにきたわけじゃない、俺はライヴを観にきたんだ"みたいなことで、論争が起きることがあるじゃないですか。あれ、すごく嫌だなって。

-うーん......でも、後ろの席の人が、曲調とか関係なく、ずーっと歌い続けてたら、正直ちょっと嫌だなと思うときもあるかな(笑)。

もちろんアーティストの特性もあるし、曲にもよるから、空気を読みつつではあると思うんですけど、それを踏まえたうえで基本的に僕のライヴでは歌ってほしいなと。たぶん僕は、エモを聴いて育ったからだと思うんですよね。エモって、みんなで合唱する文化じゃないですか。だから、みんなで歌えるほうが楽しいんじゃないかなと思うんですよ。自分の音楽は、聴き込むタイプじゃないと考えているんです。

-いやいや、キタニさんの曲は、じっくり聴き込む要素もありますよ。今日も歌詞のこととか、いっぱい話してくれたじゃないですか。

ははは(笑)、そうなんですけど、メインはそこじゃないと考えてて。構わず、歌ってほしいなと思います。好き勝手に騒いでほしい。5月の渋谷WWWのワンマン("No H(e)aven for Her")でもみんな歌ってくれたので、"その調子!"と思ったんですよ。これは書いておいてください(笑)。