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INTERVIEW

Japanese

キタニタツヤ

2019年10月号掲載

キタニタツヤ

Interviewer:秦 理絵

-今回のアルバムもサポート・ミュージシャンとレコーディングに入ったことで刺激はありましたか?

そうですね。僕は、できる限り詰めてからデモを渡すので、そこまで大きく変わったことはないんですけど、向こうから提案してくれるところもあるので。フレーズと言うよりは、音作りの面で考えてくれることが大きいんですよ。自分は、ドラムとギターについてはプロフェッショナルではないので、そこは任せて良かったなと思います。

-なるほど。曲のコンセプトについても詳しく聞かせてください。まず、「Sad Girl」ができて、そこから膨らませていったんですよね。

これがアルバムのコンセプトの中心になりましたね。

-これは、性を売り物にする女性のことを歌ってるんですか?

性を売り物にするとか、錠剤を一気飲みするとかしないと、逃げ出せない人ですよね。このアルバム自体が"逃げ場"とか、"居場所"みたいなテーマなんです。自分には音楽っていう大きな逃げ場があって、たいていのことは、音楽を作ってしまえば忘れられるし、ストレスを溜め込むこともないんですよ。その他にも趣味があって......。

-あれ? 以前は"音楽以外に趣味がない"って言ってませんでしたっけ?

あ、趣味を作ったんです。音楽が仕事になっちゃったから。他に趣味を作らないと、無趣味な人間になっちゃうなと思って。で、最近スケボーを始めたんです。あとは、映画館に積極的に行くようになったり。そういう細々としたものを始めるようにして、自分の中で鬱憤の逃げ場を増やしたんです。でも、身の回りにそういうものが一切ない人の例もあって。そういう人が、「Sad Girl」みたいな女の子になっちゃってる。だから、人間には逃げ場とか、居場所とかがあるべきだなと思ったところから、このアルバムのコンセプトが決まったんですよね。

-全曲何かに逃げ場所を求める人がテーマになっていると。

そういう人の逃げ場に自分の音楽がなればいいなと思いますね。

-キタニさんの中で"音楽を逃げ場にする"というのは、前作でも思想の根底にあったものだと思うんだけど、今作はそれを物語のように描いてますよね。

そう、自分のことではないですね。前のアルバムは、全部一人称だったから、キタニタツヤっていう人間個人の想いを込めたものが多かったんですけど、今回、自分の想いを込めたものは1曲もないと思います。もちろん僕の作詞だから、思想は反映されてはいるんですけど、主人公が自分だなぁっていうのは、1曲もないですね。他人事のようなんですよ。

-前作を作ってみて、あえて自分と距離を置きたいと思ったんですか?

そうですね、離れようとは思ってました。あんまり"俺が、俺が"ってなってると、聴く人も、そのフィルターを通して曲に触れることになっちゃうかなっていう懸念もあって。他人事のように書いたほうが、ニュートラルに入ってもらえるような気がするんですよ。あと、今は自分が生活に対してストレスを溜めこんでないから、それを曲にぶつけるぞみたいなモチベーションがなかったんです。

-前作は、インターネットに音源をアップするだけで、反応にイライラしてましたもんね(笑)。それに比べると......。

楽しくやれてるかな。だから、そのハッピーな毎日について、"俺、毎日こんな感じだぜ"って歌ってもしょうがないじゃないですか。それは、作品として面白味がない。ってなったときに、ストーリーテラーとして書いてみることにしたんです。

-あと少し思ったのが、前作を聴いただけだと、なんとなくキタニさんって暗くて怖そうなイメージも湧いてしまう。そこへの反発もあるのかなって。

反発っていうほどじゃないですよ。たしかに誤解されたら嫌ですけど。というか、むしろ嘘をついてるような罪悪感があるかも。あのアルバムを作ってたときは、ちょっと落ち込んでたのかもしれなくて。それは嘘ではないんですけど、ずっとそういう人だと思われたら、ちょっと後ろめたい。そんなことないけどな......みたいな。

-実際は、どちらかと言うと、明るいほうですもんね。

そうそう。今回はおちゃらけた歌詞が多いですからね。

-言葉遣いが素に近いですよね。

たしかに。自分で歌うっていうことに対して慣れてきたのかもしれないですね。今まではボーカロイドという自分とは違う存在が歌う前提で作ってたから、歌詞を話し言葉で書こうとは思わなかったんですけど、自分で歌うとなると、話し言葉っぽくなります。

-たしかに。他の曲についても詳しく話を聞ければと思いますけど、「クラブ・アンリアリティ」なんかも"逃げ場がない、悲しみの置き場がない"って歌ってて、わりと今回のコンセプトをストレートに伝える曲だなと。

最初のほうにできた曲ですね。

-これはヴェイパーウェイヴっぽいものを作ろうとしたんですか?

意識はしています。インターネットが逃げ場の曲だから、ヴェイパーウェイヴっぽい、レトロ・インターネットっぽいというか。Twitterとかで、"あぁ"とか"うぅ"とかしか書いてない人のアカウントがあるんですけど、そういう言葉にならない呻きみたいな。

-たまに見かけますね。そういうアカウント。

僕も高校生のときにTwitterに没頭してて、"あぁ"、"うぅ"みたいなことをそのまま書き込んだこともあったんです。未だにインターネットにはそういう人がいるんですよね。あと不幸自慢をして自己憐憫に浸るとか、"死にたい"って言ってる子供とか。そういういろいろな感情の発露を全部まとめて容認してくれる場所が、インターネットじゃないかっていう。実際そこで感情を小出しにしてストレスを発散してる人も絶対にいるし。それで、インターネットの曲を作ろうと思ったんです。

-「Stoned Child」は、お酒を逃げ場にしている人の曲ですよね。

最初に"不幸自慢とアルコール"って歌ってますけど、まさにその自己憐憫と酒がテーマですね。"爆弾みたいなチャンポンかまして"っていうのは、爆弾っていうお酒があるじゃないですか。それです(笑)。

-なるほど(笑)。"へべれけじゃなきゃ生きれないよ"っていう歌詞が、最高でした。

結局かわいそうな自分を"かわいそうだ"と言ってあげられるのは、突き詰めると、自分しかいねぇなぁと思うんですよね。"不幸自慢してんじゃねぇよ"みたいなことを思うけど、それがないと、やってらんないじゃんって。......喋ってて気づいたけど、これは、結構俺の歌かもしれない(笑)。でも、該当する人は、いっぱいいるんじゃないかな。俺の周りはそんなやつばっかりです。

-これは、もう働く大人たちからは......。

絶大な支持を得られる曲かもしれないですね。新宿のションベン横丁で流しながら歩きたいです。"おい、俺の曲を聴いてくれ、わかるだろ!?"って。

-はははは(笑)。キタニさんは音楽を作るときに共感を求めてるんですか?

昔は求めてたけど、今は共感するかどうかは自由だから、あんまり求めてないかな。でも、「Stoned Child」に関しては、共感してほしいです(笑)。