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LIVE REPORT

Japanese

ネクライトーキー

Skream! マガジン 2025年01月号掲載

2024.12.08 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer : 石角 友香 Photographer:Kana Tarumi

ネクライトーキーの対バン企画"オーキートーキー"が2年ぶりに開催。今回は大阪にMOSHIMO、名古屋に崎山蒼志、東京に橋本絵莉子を迎えたのだが、ファンもご存知のように、もっさ(Vo/Gt)の橋本へのリスペクトは見ているこちらも胸が苦しくなる程本気のそれ。想いの深さが120パーセント溢れ出たライヴとなったのは必然だろう。

先攻の橋本絵莉子はまず1人で登場。アコギを構えての「脱走」にネクライトーキーファンも熱心に歌に聴き入る。曲の途中で曽根 巧(Gt)、村田シゲ(Ba)、北野愛子(Dr)が合流し、牧歌的な曲がグッとオルタナティヴになった。「宝物を探して」、「人一人」と選び抜かれたリフを弾き、今現在の人生観を歌う橋本の佇まいには"カッコいい"という言葉以外出てこない。ダンサブルな「かえれない」の後、彼女の心にあるイマジネーションが、魂を通わせるバンド・アンサンブルでここではないどこかを描く「fall of the leaf」、グランジ的ですらあるギター・サウンドや、街場のライヴハウスでのやりとりを思わせる歌詞に滲むバンドへの憧れがジワジワ迫る「ロゼメタリック時代」等、いずれも橋本ならではの世界だ。厚いアンサンブルのインスト「離陸」の凄みにも圧倒された。

MCではもっさが自分の音楽をずっと聴いてくれていることは以前から知っており、お礼を言わなければと思っていたところ、こうしてライヴができることになって一番良かったと話した。

ソロの覚悟が綴られた「今日がインフィニティ」にしても、表現の幅が増えたことを思わせる「私はパイロット」にしても、変わらない素直なヴォーカルでありつつ、マイクに向かう自然体でしなやかな姿はやはり2024年の今を感じる。シンプルな4ピースのオルタナティヴ・ロックを体現する「ワンオブゼム」まで、バンドでの競演であることに真摯に向き合う橋本のスタンスを存分に味わった。

後攻のネクライトーキー、主にもっさの興奮と感動はいかに? と想像しているうちにSEに乗ってまずもっさが勢い良くステージに走り込み、カズマ・タケイ(Dr)、中村郁香(Key)、藤田(Ba)、朝日(Gt)の順に現れたのだが、特にもっさの気迫がすごい。オープナーからこれぞオルタナなリフをかまして「ちょうぐにゃぐにゃ」がスタート。一瞬、こんなアレンジだっけ? と頭を捻るタイトさだ。「北上のススメ」ももっさの切れ味鋭いカッティングがアンサンブルを引き締める。サビ前のクラップの大きさ、サビでの爆発力。冒頭からフロアも高いテンションで挑んでくる。思わず朝日が注意喚起したのも納得。「ぽんぽこ節」もこの曲ののどかな側面を忘れてしまう程キレッキレのアンサンブルで、冒頭からステージに煙が上がってるんじゃないか? と錯覚する爆走ぶりだ。

テレキャスからファイヤーバードに持ち替えたもっさは、すでに紅潮した顔で橋本の出演に感謝し、今回の"オーキートーキー"は各地のゲストを意識したセットリストであることを述べた。加えて、この機会にいろいろなレパートリーを聴いてもらいたい主旨もあるという。そこで鳴らされた「今日はカレーの日」のイントロ、歌の新鮮な聴感。切なさを伴うAメロ、THE BEATLESライクな中村のオルガン・サウンドもいい。伸びていくメロディの良さは続く「あべこべ」にも接続。朝日のオルタナ好きの側面が具体的なバンド名として登場し、ギター・ロックの爆音でやるせない気持ちを塞ぐという、バンド・ミュージック好きにとって普遍的な内容がこの日の対バンにしっくり来る。

大阪、名古屋と対バン・アーティストのカバーに挑んできたことを朝日が話し、必然的にこの日もカバーが披露されるわけだが、橋本のレパートリーからは意外にもチャットモンチーではなくソロ、しかも最新アルバムから「ホテル太平洋」を選んだ。もっさが橋本の音楽を聴き続けている証左だが、曲そのものがいい。ネクライトーキーのライヴ・アレンジは16ビートのインディー・ポップ・テイストが際立ち、メロディのキャッチーさにもヴィヴィッドなリアクションが起きる。芯のあるマイペースなスタンスを一人称で歌うのは気持ち良さそうだ。演奏を終え、朝日が橋本のライヴを観に行った際のもっさのやらかしをバラす。"皆さん、LIQUIDROOMのドリンクは現金のみです。注意しましょう"と、財布を忘れたもっさからのアドバイスになっていたのが可笑しい。そんな思い出から真剣に橋本の音楽と存在について話題が移る。朝日は"俺たちのオルタナティヴの指標になってる人がギターをかき鳴らしてる姿"に、感銘を受けたようだ。

高いテンションは維持され、「壊れぬハートが欲しいのだ」、「明日にだって」と心の底から発される言葉と伸びていくメロディが痛快な曲が続く。ちゃんと演奏で対決しにいく姿勢は、朝日が言う"オルタナの指標"というマインドが存在してこそなのだ。さらに現在進行形を見せる意味なのだろう。目下制作中でもあるネクライトーキーから新曲の披露も。藤田のルート弾きが珍しく、中村のジャズっぽさを感じるリフが印象に残った。新曲披露という集中力の必要な場面も、序盤から続くテンションに連なっていい結果をもたらしたのではないか。

感謝の言葉は述べていたもっさだが、橋本との対バンを望んだもっと深い理由を話し始める。"尊敬する人は遠くから応援できてればいいと思ってたんです。だけど2024年に橋本さんも音楽をやってて、私たちもやってて、健康に生きてて。いつかやろう、でもそのいつかっていつなんだと思ったらこのままではいけないと思いました。『TORCH』のツアーで3ミリぐらい大きくなれた気がして、今なら対バンできると思ったんです"と。一切、不要な形容のない言葉にもっさが考える尊敬の意味を知った思いだ。このMCでさらに忘れがたい対バンになったことは間違いない。

そこから、ギタリストの激情の吐き出し方が言語化された「bloom」が演奏されたのもアツい。アンサンブルも研ぎ澄まされて、なんだか自らまた飛び越えなければいけないライヴのハードルを設けた印象すらある。終盤はキラーチューン「オシャレ大作戦」でファンの狂騒に輪を掛ける。タケイの爆発的なソロを挟んでエンディングに突入。そのままラストの「石ころの気持ち」へ。もっさのシンガー・ソング&ギタリストとしての冴えはもちろん、歌の言葉が生まれる悔しさや悲しさの発端を描く、ネクライトーキーファンにとって自分ごとなこの曲が、記念すべき大切な対バンの日に鳴らされた意味はとても大きかった。

アンコールでは来年のメジャー・デビュー5周年のデビュー日に、ゆかりのある下北沢ERAでの記念ライヴ開催を発表。"ここにいる人全員は入れません!"(藤田)という事実に笑いと悲鳴が起きた。バンドにとって思い出の多い場所でのライヴに大いに期待したい。興奮が続くフロアはアンコールの「レイニーレイニー」と「遠吠えのサンセット」ではほぼ誰も帰らず、ダブル・アンコールはその場で決定した「タイフー!」が披露され、ステージの上も下も全力を出し尽くしての終演となった。


[Setlist]
■橋本絵莉子
1. 脱走
2. 宝物を探して
3. 人一人
4. かえれない
5. fall of the leaf
6. ロゼメタリック時代
7. 離陸
8. 今日がインフィニティ
9. 私はパイロット
10. ワンオブゼム

■ネクライトーキー
1. ちょうぐにゃぐにゃ
2. 北上のススメ
3. ぽんぽこ節
4. 今日はカレーの日
5. あべこべ
6. ホテル太平洋(橋本絵莉子カバー)
7. 壊れぬハートが欲しいのだ
8. 新曲
9. bloom
10. オシャレ大作戦
11. 石ころの気持ち
En1. レイニーレイニー
En2. 遠吠えのサンセット
W En. タイフー!

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