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LIVE REPORT

Japanese

ネクライトーキー

Skream! マガジン 2023年12月号掲載

2023.11.26 @Zepp Shinjuku (TOKYO)

Writer : 石角 友香 Photographer:垂水 佳奈

もっさ(Vo/Gt)のMCで思い出したのだが、ネクライトーキーは2020年の"ネクライトーキー「ZOO!!」リリースツアー 「ゴーゴートーキーズ! 2020春」"で、今はなきZepp Tokyoでライヴを行うはずだった。コロナ禍での延期、そして肝心の会場も撤去された今、念願のZeppワンマンは実は思い入れの深いライヴだったと知る。今回はEP『踊れ!ランバダ』のリリース・ツアー。当時からグッとレパートリーも増え、メンバー全員のキャラも強化されている。

いつものコラージュ風SEに乗り、Zepp Shinjuku (TOKYO)のみの演出としてステージ後方のLEDパネルに映されたメンバーの足もとの映像がビートとリンク、さらに今ツアーの日程とコメントが順に映し出されて、9月から始まったツアーの充実を感じさせる。ひとりずつステージに現れる全員への拍手と歓声にファンの渇望感が見て取れる。そして「めっちゃかわいいうた」の1音目で前方はさらにステージ方向へ駆け寄っていくのだ。冒頭からフロアのテンションの高さが凄まじい。すかさずカズマ・タケイ(Dr)のスネア・ロールが轟く「ジャックポットなら踊らにゃソンソン」へ。朝日(Gt)のおどろおどろしいフレーズにニヤつかされ、藤田(Ba)のディスコっぽいベースラインが腰を直撃する。

もっさの"新曲をやります!"の一声から、8月にリリースしたEP『踊れ!ランバダ』の中でもアッパーな「優しくなれたなら」をセット。加齢ややさぐれを感じる朝日の詞世界を歌うもっさというシュールさに加え、テンポ・チェンジや中村郁香(Key)のピアノで場面転換する構成など、かなりカオスな曲だがライヴではとにかく楽しい。5人の音の抜き差しで、空間が埋まらないのもいい。続く「こんがらがった!」では改めてAメロのリズムの革新に気づいたりもした。演奏の緩急とPAの良さが相まった効果だ。勢いだけじゃない、ネクライトーキーのライヴのすごさを感じる。

"地下4階までお越しくださりありがとうございます。今日は新宿の地面を揺らしていきます"と、謎の地下生命体のようなMCをするもっさ。このとき、念願のZeppワンマンにも触れ、フロアも大いに祝福していた。そこからストレートなバンドの良さ、メロディに勇敢さと切なさが溢れる「北上のススメ」、朝日ともっさのツイン・ギターに個人的にはStevie Salasっぽさを感じた(ブラック・ミュージック×ロックというニュアンス)「誰が為にCHAKAPOCOは鳴る」。そして藤田のベースで繋いで「はよファズ踏めや」へと、ファンクネス溢れるオルタナティヴ・ロックのネクライトーキー流の昇華が堪らない。朝日のイラストをもとにしたアニメーションも流れ、女の子のアップ、ファズを踏む足もと、2コードで成立しているこの曲の"G"と"A"の表示も楽しい。"だらだらだらだ!"のシンガロングもひと際大きくなった。

「だけじゃないBABY」でも街並みのイラストが映し出され、"六畳一間で僕はただ/NUMBER GIRLを聴いていた"朝日の悶々とした日々が、今この楽しいライヴの中にも地続きであることをふと思い出させる。そして朝日のR&Rやガレージ好きが渋く表れる「ふざけてないぜ」への接続にもグッとくる。そして、もっさが朝日をステージ前方に行くように促し、ギターのボリュームつまみを操作するとフロアで奇声が上がる。そう、「許せ!服部」だ。お馴染みのコーナーを超え、芸の域に達しつつあるが、何度見てもメンバーの神妙な顔つきはこのレパートリーでしか恐らく見られない。

新旧交ざりつつ、テンポ良く展開した前半10曲がオールタイム・ベスト的だとしたら、中盤は新曲多めで、今回のツアーでひとつフックになった流れだろう。『踊れ!ランバダ』から、70年代ロック・テイストのメロディの「今日はカレーの日」がプレイされると、もっさの声がメロディに新しい意味をつけていく。さらに彼女の個人史も窺える「ゆうな」に溢れる郷愁。朝日が奏でる雨音のようなギター、タケイのハイハットも情景を際立たせていた。静かに自分の内側と対峙する心地のあと、歌舞伎の鳴物風SEと背景に大写しになった信楽焼の狸で笑わせた「ぽんぽこ節」。民話とTHE BEATLESの世界観が合体したこの曲に続いてはニューEPのリードである「ランバダ・ワンダラン」が、初披露の頃よりグッと引き締まった演奏で届けられた。

なるほどライヴで聴くほうがより「UFO」(ピンク・レディー)っぽさを感じる。中村のサイン波みたいな鍵盤のキャッチーさ、サビでのコーラス・ワークのポップな聴感を経て、Aメロのポスト・パンクなリズムに戻る確かな演奏力に唸ってしまった。乗るというより翻弄されるこの曲に続いては、さらなる新曲「bloom」についてというより、この曲がOP主題歌であるNetflixアニメ・シリーズ"スコット・ピルグリム テイクス・オフ"についてメンバーが喋り始め、曲よりアニメの話に終始していたのがおかしい。アッパーでコミカルな音もあり、ネクライトーキーらしさ炸裂のナンバーだがラウドロックの側面もあり、ストレートに盛り上がる曲に今後も育っていきそうだ。

終盤は一気に加速、オーケストラ・ヒットが放たれる「オシャレ大作戦」のサビでは尽きることのないフロアの熱量とステージが拮抗。さらに朝日のマインド全開な、石風呂名義曲でありつつネクライトーキーのレパートリーの中でも高い人気を誇る「ティーンエイジ・ネクラポップ」では大きなシンガロングが起こり、本編ラストは新曲「あべこべ」がツアー・ドキュメント映像を背負って鳴らされる。失礼ながら、誰かスターがいるわけでもなく、メンバーの個性も凸凹なこのバンドの、でも音楽への冴えたセンスとバンドじゃなきゃなし得ない冒険の物語が、演奏と映像で見えてきた。ネクライトーキーのライヴで何度もグッとくる場面には遭遇してきたが、やはり彼らでしか出会えない感情だなと確信したのだ。

アンコールでは、朝日が"コロナ禍で作った1曲"と説明した「だれかとぼくら」が、今こうして声を出せる状態で曲として成仏した印象を持った。バンドが音楽を作り、ライヴをする理由が詰まった曲がこれまで以上に染みる。そしてこの日のラスト・チューンは「遠吠えのサンセット」で、ネクライトーキーとファンの共通認識を分かち合うかのように終了した。メンバーがステージを降りたあと、2024年2月21日に4thアルバム『TORCH』がリリースされることが告知されたのだった。ちょっと意外なタイトルだが、果たして? いつも以上に想像を上回りそうな予感を残した。

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