Japanese
ネクライトーキー
Skream! マガジン 2022年05月号掲載
2022.04.10 @日比谷公園大音楽堂
Writer 石角 友香 Photo by かわどう
2020年9月以来の東阪での野音公演"ゴーゴートーキーズ! 野外音楽堂編"。昨年9月の『FREAK』を携えた豊洲PITでのツアー・ファイナルでも、"こんなバンド、他にいる?"と、独自の進化のベクトルに驚いたが、今回はそれも上回ってきた。『FREAK』の歌詞の意味にもフォーカスしたアレンジ、過去の人気曲のライヴ・アレンジの変化、さらには朝日(Gt)のボカロP(石風呂)名義曲のさらなる発掘とバンド・アレンジという、ネクライトーキーのタフな胃袋を証明するようなセットリストが組まれていたからだ。
この日東京は最高気温約27℃の夏日で、しかも乾いた空気もあってか、1曲目の「Mr.エレキギターマン」のミックスが5人の音と歌を明快に届けていた時点で、いいライヴになる予感。最初のブロックは、全員の楽器の音の気持ち良さに自然と客席にグルーヴが起こるナンバーがセットされていた感じで、藤田(Ba)のフレージングが際立つ「はよファズ踏めや」や、ストップ&ゴーのキメがツボに入る「北上のススメ」など、ファンク・バンド的な隙間の多さに、改めてスキルの高さを実感する。朝日の"声は出せずとも、聴こえてきます、心のワウ・ペダル。好きなだけ踏み倒してください!"というMCからスタートした「誰が為にCHAKAPOCOは鳴る」での、朝日のワウ・カッティングの気持ちいいこと。中村郁香(Key)のオルガンもファンキーだ。しかも、LED ZEPPELINばりのハード・ロック・バンドのファンクのニュアンスがあるのがネクライトーキー流。
朝日がナスカからジャズマスターにギターを持ち替え、音を出すだけで朝日が"ちょっとNIRVANA、漏れ出した"と嬉しそうに言葉を挟むのも、バンドが新たな武器を獲得している状態を映しているようだ。「ふざけてないぜ」ではキャッチーさに加え、間奏でふたりで弾くギター・ソロの絡みも、ロック・バンドの醍醐味を加味してゴリゴリ攻めてくる。すっかりバンド・アレンジが定着した「魔法電車とキライちゃん」はカズマ・タケイ(Dr)のシュアな8ビートと部分的にトライバルに変化するビートがユニークで、FOO FIGHTERSのようなダイナミズムとXTCっぽい仕掛けが同居した感じだ。さらにもっさ(Vo/Gt)が歌うメロディはあくまでキャッチーで、時代を超越した一挙両得感に笑いがこみ上げてくる。また、「踊る子供、走るパトカー」のアウトロから「夕暮れ先生」の繋ぎがスムーズで、ちょうど日没に近い18時15分あたりに、もっさの絶唱に近い"勇気のひとつも出せないで/どうして明日へ進もうか"が重なり、照明も夕焼けを思わせるオレンジに変化してゆく瞬間はこの日のハイライトのひとつだった。
ケロッとした口調で、暑さが気になったのか、もっさが"大丈夫ですか? 涼しくなってきましたね、良かった"と話す。どんどんタフになっていくもっさは、相変わらず前代未聞のヒーロー感を漂わせている。朝日が"久しぶりの野音なんで、普段やらない曲もやります"と、グッとフュージョン・テイストを増したアレンジで「ボケナスのうた」、トーキング・ヴォーカル調で、一瞬メロウなセクションに突入する構成でも楽しませる「カニノダンス」、タケイの確かな4分キックがジャンプやダンスを促す「こんがらがった!」では、ネオン・カラーのライティングで、前半とはガラリとムードを変えた演出でも楽しませる。13曲演奏してきているにもかかわらず、ここでライヴでは外せない「許せ!服部」を入れ込んでくるのも相当にタフだ。お馴染み"CD"と"ライブ"のプラカードをもっさが交互に挙げてテンポ・チェンジするが、2枚同時に挙がっているときは、16ビートを軸にしたテクニカルなスタイルになることを今回知った。タケイ以外は全員、フロントでソロの応酬をぶちかますのもお馴染みだが、何度観てももっさがギター・ソロに入るタイミングが良すぎる。アベフトシ(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)やWilko Johnson(DR. FEELGOOD)を想起させる最強のマシンガン・ギタリストである。
狂騒のブロックのあと、朝日が「許せ!服部」を受け、"CDとライヴで全然違うアレンジの曲もあって"と、ライヴ・アレンジの楽しさを話すのだが、全曲プラカード制をやるのはさすがにめんどくさいと苦笑していた。そして再び朝日がジャズマスターを肩に掛けると、"心と身体に悪いジャズマスター。小さいお子さんはイヤーマフか耳栓もあるので"と言うと、もっさが"今?"と突っ込む。手遅れである。そして、グランジ/オルタナの壺の蓋を開けるようにジャグリーなふたりのギター・サウンドが這いずる「豪徳寺ラプソディ」に突入。こんなにブルージーなのにガール・ポップでもある音楽が果たして他にあるだろうか。さらにエンディングで中村のピアノともっさの歌のみの「思い出すこと」から、急転直下、MY BLOODY VALENTINEも真っ青なノイズ・ピットから再びピアノ・メインに戻るという、プログレッシヴな変化に感情が泡立つ「大事なことは大事にできたら」の音源からの凄まじい飛翔っぷりに、度肝を抜かれた。言葉が染み込むだけでなく、同時にロック・バンドの歴史的変遷も存分に盛り込むことが奇をてらうことなく可能になった今の彼らを、真正面から受け止めるほかない堂々たる演奏だ。ゲーム・ミュージックにインスパイアされた「続・かえるくんの冒険」まで5曲で構成されたこのブロックでも、再びバンドのポテンシャルを更新したと言えるだろう。
先ほどのブロックを"お気に入りのコーナーやったわ"と言い満足げな朝日。曲調の振り幅を自覚しつつ、1本のライヴのあとに"今日も楽しかったと思ってもらえたら"と、さらに異なる曲調を繰り出していく。音楽のスラップスティック・コメディめいた「気になっていく」、間奏のギター・ソロでさらにヒート・アップした「めっちゃかわいいうた」、歌詞の一部を"ト、ト、トンと僕らは日比谷でヘヘイヘイ"にアレンジして歌った「オシャレ大作戦」では朝日がいきなりステージを疾走。ラストはポスト・パンク感のあるビートとリフで、5人がさらにタフに映った「俺にとっちゃあ全部がクソに思えるよ」で、痛快にフィニッシュを決めた。
いったんBGMが流れるも、鳴り止まない大きなアンコールの拍手に迎えられて、メンバー再登場。ここで、朝日から石風呂名義の楽曲をセルフ・カバーした『MEMORIES』の第2弾『MEMORIES2』のリリースと、それに伴うツアーを発表した。20代前半に作った曲を今、ネクライトーキーで光らせることができる喜びを素直に表明し、同作に収録する「君はいなせなガール」を披露。ファンクやジャズをアレンジの随所に潜ませた聴き応えたっぷりの仕上がりに、大いに唸りながら、正真正銘のラストは「遠吠えのサンセット」で、明日からのウィークデーへ背中を押してくれたように思えた。どこまでも他にいないバンドへと爆進していくネクライトーキーの現在地を確認した、春の宵だった。
[Setlist]
1. Mr.エレキギターマン
2. はよファズ踏めや
3. 北上のススメ
4. ジャックポットなら踊らにゃソンソン
5. 誰が為にCHAKAPOCOは鳴る
6. ふざけてないぜ
7. 魔法電車とキライちゃん
8. 涙を拭いて
9. 踊る子供、走るパトカー
10. 夕暮れ先生
11. ボケナスのうた
12. カニノダンス
13. こんがらがった!14. 許せ!服部
15. 豪徳寺ラプソディ
16. 朝焼けの中で
17. 思い出すこと
18. 大事なことは大事にできたら
19. 続・かえるくんの冒険
20. 気になっていく
21. めっちゃかわいいうた
22. オシャレ大作戦
23. 俺にとっちゃあ全部がクソに思えるよ
En1. 君はいなせなガール
En2. 遠吠えのサンセット
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