Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

Academic BANANA

2023年11月号掲載

Academic BANANA

Member:齋藤 知輝(Vo) 萩原 健太(Ba)

Interviewer:吉羽 さおり

2018年6月に1st EP『東京』でデビューし、今年5周年を迎えたAcademic BANANA。もともとのバンド編成からこの8月末に齋藤知輝と萩原健太のふたり体制となったが、そこから2ヶ月というスピード感で2ndフル・アルバム『Love Letter』がリリースとなる。ロック、フォーク、ジャズやブルース、ソウルなど多ジャンルを練り込んだ"ネオ歌謡曲"というバンドの名刺はそのままに、さらに今作では通常盤A、Bで内容の違ったコンセプチュアルな作品で、様々な人へ、様々な心情に沿ったラヴ・レターをしたためた全10曲が揃っている。より軽快に作品作りをしている感のある現在、その心境やアルバムに織り込んだ思いについてふたりに訊いた。

-8月の末でAcademic BANANAは齋藤さんと萩原さんのふたりの体制となりましたが、バンドとしてはデビュー5周年を迎えてさらなる先を見据えていくなかで、どういった決断があったんですか。

齋藤:もともとコロナ禍に入ったあたりから、4人でバンドとしてやっていくことへの違和感であったり、窮屈さを僕が感じていたんです。それは個々がミュージシャンとしてどうかということでなく、活動のトータル的なところで、それぞれの活動もあったりとスケジュールの管理などの部分でどうしても難しい面があって。Academic BANANAという生き物に対してすべてを懸けるという意味で、このままでは自分の思い描いたところにはいけないなと、迷いながらずっと活動をしていました。2ndフル・アルバムの制作もそうですけど、4月と6月に5周年のワンマン・ライヴ[Academic BANANA 5th ANNIVERSARY "THIS IS THE LIVE"]を僕の地元広島と東京の2公演でやって、そこで迷いが決断に変わっていくような感覚があって。健太にも相談をしたり、メンバーそれぞれと話をして決めたという感じだったんです。

萩原:コロナ禍はひとつのきっかけになったかなという感じでしたね。マイナスばかりの話ではもちろんなかったんですけど、もっとこうできたんじゃないかってブレーキがかかってしまうこともあったんです。ひとつひとつは小さなものでも、それが積み重なっていった感じで。常にすべてが100パーセントできるのは難しい話で、妥協点は絶対にあるんですけど、ただあまりにも妥協点が低すぎるというかね。

齋藤:うん。

萩原:それが繰り返されちゃうのは、あまり良くないのかなっていうところでの決断ではありましたね。ただ、ふたりは抜けましたけど、本人たちと喧嘩してというわけではまったくなかったので、今もAcademic BANANAに何かしら関わっているのは変わらないです。

-ということは、今回のアルバム『Love Letter』にももともとのメンバーも参加しているんですね。

齋藤:そうです。ピアノの大浦(史記)は4曲弾いてますし、ドラムの清水(裕貴)も3曲叩いていて、エンジニアとしてレコーディングにはほぼ全曲参加してるんですよね。

萩原:清水は本職がレコーディング・エンジニアなので。信頼もしているし、そういう形では関わっていくことに変わりないです。

-それぞれの道を選択して進んでいったということだったんですね。そうした思いや動きがあったなかで、アルバムの構想はいつ頃からあったんですか。

齋藤:昨年1stフル・アルバム(『SEASON』)を出しているんですけど、やっぱりバンドだから年に1枚盤を出したいと──最近のバンドはそんなこともないですけど、僕らが小さい頃って、毎年アルバムがリリースされるというのがあったので(笑)、今年も作ろうかという話をしていて。でも、アルバムをリリースすることを発表したのが今年の6月だったんですけど、発表した段階で音が録れていたのは「君の街まで」だけだったんです。

萩原:曲としてできていたのも、3曲くらいだったのかな。

-それで10月にリリースしようとは、だいぶ急ピッチで進めていくことになりましたね(笑)。

齋藤:そこから書き下ろした曲ばかりなんです。5周年のワンマンに向けて新曲は作っていたり、演奏したりもしていたんですけど、じゃあそれがこのアルバムの核になっているかと言うとそうでもなかったりするというか。そのあとにできた曲たちが核になっていった、という感じで。

-今作では通常盤AとBで、1曲収録曲が違ったりとコンセプチュアルな感じもありますが、それが核となっていくというわけでもなかったんですか。

齋藤:まず、コンセプトととしてA盤、B盤に分けたいなというのがあって。それで男性目線のラヴ・レター「青いラブレター」と、女性目線のラヴ・レターで「夕暮れに染まった手紙」を書いたんですけど、これがある意味『Love Letter』という作品のコンセプトに近いところで。これができたのが......「青いラブレター」が8月くらいかな?

萩原:で、「夕暮れに染まった手紙」が9月か。

齋藤:なので、ついさっきくらいの感じで(笑)。ただ、あくまでこれはリード曲ではないなというのが僕らの中ではあったんです。それで、Academic BANANAらしいリード曲――"ネオ歌謡曲"でちょっとドロッとした「五月雨」を書いたんですけど。

-たしかに1曲目がこの「五月雨」で始まることで、Academic BANANAの作品という色合いが濃くなりますね。都会的で、それでいながら歌詞の世界観やサウンドに特有の湿度や情念も感じる"ネオ歌謡曲"で。そして作品を聴き進んでいくといろんな手触りがあって、いろんなところに向けたラヴ・レターなんだなという広がりを感じる作品でした。

齋藤:それぞれ主人公というか、年齢層もちらばっている印象ですね。それはあえてそうしたところもあったんですけど。きっと1曲目の「五月雨」がなかったら、こうはなってないというか。

萩原:はははは(笑)。

齋藤:わりと僕の中では「五月雨」がキー曲だったかな、リード曲ではあるけど。これがあるとないとでは、全然アルバムのスッキリ度合が違ったりするというか。「五月雨」がAcademic BANANAっていう名刺になる。「青いラブレター」でAcademic BANANAですとはね(笑)。

萩原:うん、なかなかいかないかな。

-こうした「五月雨」のような"THEアカバナ(Academic BANANA)"という曲はすぐに形になるような感じですか。

齋藤:そうなんですけど、よりいいものを作りたいというのがあったので、今回はすごく悩んでいたんですよね。

萩原:アレンジにしてもどうしようかっていうのは結構かかったよね。

齋藤:僕がデモを上げた段階で、"この曲もうちょっとなんとかしないとダメじゃない?"っていう健太の意見もあって。だって最初はBメロがラップっぽい感じもあったんですよ。

萩原:Aメロとかサビを聴いた感じだと、たぶんBメロは弱すぎるからもっと何かあったほうがいいなとか。より耳に残りやすいメロディにしようとかは、すごく話しました。

齋藤:2番以降の構成もかなり迷って、結局「五月雨」のアレンジには1ヶ月くらい時間をかけているんです。

-ロックであり歌謡でありジャジーな香り漂う洒脱さがあるアレンジですが、齋藤さんとしてはデモ時点ではいろいろやりたいことがあったと。

齋藤:ハイブリッドにしすぎようとしてたところはありましたね(笑)。それがすごくいい形に落ち着いて。自分の想像したものとは別のものができたけど、かなり満足度が高いというか。いいAcademic BANANAらしさが出せたかなって思います。

-"ネオ歌謡曲"とはまた違いますが、「GIRI GIRI」のちょっとファンキーな香りがするざらついたロック感なども新鮮でした。

齋藤:「GIRI GIRI」はその名の通りマジでギリギリでした(笑)。しかもこれはアレンジが2日とかで終わって。

萩原:一番爆速でできたかな。ただ、爆速ではあったんですけど、最初に送られてきた段階ですげぇメロディしてるなっていうのがあって。どこのキーを歌ってるんだ? みたいな曲だったんです。これを変にいじると曲が崩れる可能性があるなと思ったので、不思議ちゃんは不思議ちゃんのまままとめていったら、すぐに終わってしまったという(笑)。

齋藤:実はこれ、最初は健太にリファレンスでSuchmosの曲を送っているんですよね(笑)。"こういう感じでどう?"って。

萩原:いや、違うでしょ! っていう。どちらかというとB'zとかそっち寄りでしょうって思ったんですけど、"うーん、Suchmosなのか"と思って。うまくまとまって良かったです(笑)。

-(笑)そして「Summer Tuner」では、平川地一丁目の林 直次郎(Vo/A.Gt)さんがゲスト・ヴォーカルで参加していますが、どういう経緯で一緒にやろうと?

齋藤:林 直次郎君は僕の好きなアーティストで、最初は5周年のワンマン・ライヴにぜひ出てもらいたいということで、TwitterのDMでお誘いをしまして(笑)。

萩原:齋藤お得意のね。

齋藤:その打ち合わせも兼ねて3月に初めてお会いしたとき、せっかくだから曲も一緒にできませんかっていうオファーをしたら、ぜひっていうことで。それで、僕が直次郎君に歌ってほしい曲を想像して作って、デモを聴いてもらってという感じで進めていて。中学時代によく平川地一丁目のライヴを観に行っていたんですけど、当時は平川地一丁目自体も学生だったから夏休みにライヴをしていたんですよね。直次郎君自身は冬生まれなんですけど、歌声からは夏らしさを感じるので、夏の曲を書きたいなと思って。

萩原:後ろで演奏をしていると、あまりにも声のキャラクターが違うので面白いんですよね。