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INTERVIEW

Japanese

nano.RIPE

2018年09月号掲載

nano.RIPE

Member:きみコ(Vo/Gt)

Interviewer:山口 智男

-でもこういう曲があるからこそ、20年やってきた重みがリスナーにも伝わりますよね。

そうですよね。決して短い時間ではないので。人生の半分以上ですしね。この間、出会ったバンドマンから"20歳です"って言われて"nano.RIPEと同い年か。すごい長いことやってるんだ"って改めて感じたんですけど、濃い時期、薄い時期がありながらも20年続けてきたことはすごいことなのかなって。続けるという選択をしてきたので、奇跡ではないと思うんですよ。そうやってここまで来られたことは、ひとつ誇らしい気持ちになってもいいのかなって最近思えるようになりました。

-でも、バンドのことをそこまでストレートに歌うことに躊躇はなかったですか?

ここまで来たら、ためらう必要はないと思いました。今さら取り繕うこともないし、デビュー当時だったらもうちょっとオブラートに包んでいたかもしれないけど、"nano.RIPEのきみコ"っていう人格がちゃんとあたしの中でできあがったというか、それがお客さんの中で一致するところが増えてきたので、"きみコがこういうことを言っても大丈夫だろう"って自信のようなものはありました。

-むしろ、そういうことを歌わなきゃファンも納得しない?

"これが本音です"って渡したとき、"なるほど"と思ってもらえる関係を築けていると信じているので。

-じゃあ、今は胸の内を曝け出してすっきりしていると?

今回のアルバムができあがってから、自分たちでもよく聴いているんですけど、ひとつ前のアルバム(2016年リリースの5thフル・アルバム『スペースエコー』)や、もうひとつ前のアルバム(2015年リリースの4thフル・アルバム『七色眼鏡のヒミツ』)と比べると、歌声が全然違うんですよ。歌声にストレスがない。当時は全然気づかなかったですけど、ちょっと苦しそうに聴こえるんですよね。調子が悪くて苦しいってわけではなく、今思うと歌うことが苦しかった時期なのかなって。だから、今回のアルバムはすごくストレス・フリーというか、今までで一番楽しみながらレコーディングもできたんじゃないかなって、前の作品を聴いて思いました。

-以前感じたストレスの原因って、今振り返ってみてなんだったと思いますか?

うーん、いろいろあったと思うんですけど、あたし自身がこの2年ぐらいで、すごく精神的に安定したというか、大人になったというか。以前はSNSの言葉ひとつひとつを気にして傷ついたり、ときどき噛みついちゃったりしたこともあったので、ふたり体制になってから1回、SNSもプライベートのLINEもやめて、携帯を捨てたんですよ(笑)。そういうものから1回離れて、惑わされずに生きてみようと思ったんです。そしたら世間の声との向き合い方も変わってきて。その後Twitterは再開したんですけど、一度そういうことから解放されたことがとても大きいのかなと思います。

-その解放された気持ちの延長上に新作もあるわけですね。アルバム・タイトルは、釈迦がピッパラ(菩提樹)の下で悟りを開いたというエピソードを連想させるのですが、アルバムを作ったことで、nano.RIPEも悟りを開いたのかなって(笑)。

あたしがそういう境地になったというか、いろいろなことから解放された1枚でもあるので、そういう意味もあるんですけど、アルバムを作りながらたまたま手塚治虫さんの"ブッダ"(※1972年から1983年まで連載されていた漫画作品)を読んだんです。そしたら、このアルバムで歌いたいこととリンクすることがたくさんあって。"ブッダ"を読んでなかったら出てこなかった歌詞もあるんですよ。例えば、「月兎時」の"贄を捧げりゃ救われるものがたり/それを見て懺悔すんのも違うよな"。"ブッダ"の中に、飢えている狼に自分を食べさせるっていうエピソードがあるんです。それを見てブッダが"自分はそこまでできない。どうして彼はそんなことができるんだろう"と悩むんですけど、誰しも生きていたら、そこまで究極ではないにせよ、人を見て"どうしてそんなふうに考えられるんだろう"って悩むことってあるじゃないですか。でもそこと比べて自分が劣っていると思うのも違うし、っていう葛藤を、この曲では歌っているです。12曲目の「うてな」は、なんで"うてな"ってタイトルで書き始めたか覚えてないんですけど、あとから調べてみたら、菩薩の座る蓮の花の台座、あるいは極楽浄土に往生した者が座るという蓮の花の座を意味する"蓮の台(うてな)"という言葉があって、不思議な結びつきを感じました。

-「夜の太陽(クレセントver.)」をはじめ、今回は月をモチーフにした曲も何曲かありますよね。

これだけ集まったのはたまたまなんですけど、インディーズのころに"きみコって太陽じゃないよね"って誰かに言われたんですよ。いつも元気いっぱいってわけじゃない。その意味では、"みんなを元気づける太陽のような存在というよりは月だよね"って表現をしてもらったときに、なんとなく納得できて。それからずっと、"自分は太陽じゃなくて月なんだ"と思っているんです。月って満ち欠けによって、いろいろな形になるじゃないですか。そこが人の心に繋がるところがあると思って、何も考えずに月のことばかり書いちゃうときがあるんですよ。

-ところで、楽曲に目を向けると、20年やってきたバンドならではの成熟が感じられるものになっていますね。バンド・サウンドをアグレッシヴに追求している一方では、ふたりになった自由度を生かして、いろいろな曲に挑戦しています。

20年やってきた延長にあるアルバムなので、今のnano.RIPEだけを詰め込むのも違う気がしたし、だからって20年のどこかを否定するようなこともしたくなかったし。メンバーやお客さん、スタッフと、いろいろな人に出会って今のnano.RIPEになれたので、そのどこかが欠けてしまうと、形として変わっちゃうと思って。バンド・サウンドもしっかり入れつつ、ここ最近やってきたストリングスも取り入れたサウンドも否定せずにバランスを取ったアルバムにしたいということは、ジュンとも結構話しました。