Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

LIVE REPORT

Japanese

nano.RIPE

Skream! マガジン 2016年06月号掲載

2016.05.22 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer 山口 智男

"ファイティング・スピリット"と言うと、ちょっと小っ恥ずかしい。しかし、"闘志"と言ってしまうと、なんだか堅苦しい。とにかく、何かに立ち向かうとき、自分を奮い立たせる強い気持ちがnano.RIPEの大きな原動力になっていることが改めて感じられるようなライヴだった。

大阪、名古屋、そして東京の3ヶ所を回った今回のワンマン・ツアー名に、ガンダム・シリーズに登場するモビルスーツの名前から"百式"とつけた理由を、前回のインタビュー時にきみコ(Gt/Vo)は"ガンダムが好きだから"と笑いながら話してくれたが、実はそれは照れ隠しで、本当は持ち前のファイティング・スピリットの表れだったんじゃないだろうか。この日、オープニングのSEと共に流れたきみコによる詩の朗読にも"僕らは戦士だ。戦わなければならない"という一節があったし、序盤のMCでも"今日はここを戦場にして、ライヴをお送りしたいと思います"ときみコは言い、まるで自分を奮い立たせているように見えた。

詩の朗読の時点で、すでに激しい手拍子をしながら、盛り上がっていたオーディエンスは、もちろんそんなきみコとバンドを大歓迎。1曲目の「タキオン」から激しい手拍子に加え、"ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!"と野太い声を上げ、タオルをぶんぶんと振り回した。最後列にいる筆者には見えなかったが、全員が良い顔をしていたことは、スタンディングの客席の反応を見たきみコの破顔一笑からも容易に想像できた。

懐かしい曲で、序盤の滑り出しをググッと加速させたあと、早速披露した最新シングルの「ライムツリー」ではひと際大きな歓声が上がった。大人っぽいnano.RIPEを意識したロック・ナンバー。ササキジュンが鳴らす歯切れのいいギターのカッティングの間を縫うようにメロディを奏でるアベノブユキのベース。そしてそれを支える青山友樹のジャストなドラム。あえて隙間を作ったアレンジがアンサンブルの妙と共に、ギターをガシガシとかき鳴らすきみコを支えるバンドの演奏力の高さをアピール。初めて聴いたときは新たな挑戦を印象づけた「ライムツリー」もすっかりnano.RIPE節に聴こえるものになっていた。

それにしても客席は野郎ばかり。彼らのライヴに足を運んだことがない人には、にわかには信じられないかもしれないが、男女比は9対1ぐらい。もっと女の子がいてもいいと思うんだけど――そんな客席を眺めながら、"体格的に弱いんだから、(ライヴ中は)男が女を守るんだよ"と言おうとして、"女が男を......"と言い間違えたきみコが"ええい!"とばかりに"nano.RIPEのライヴに来ている女の子は、はなから守ってもらおうなんて思ってないか。(メンバー3人を見ながら)女が男を守るんだよ!"と言い放って、会場を湧かせる場面も。そして、今年3月に対バン・スタイルで全国7ヶ所を回った"秘密のツーマンSHOW"で"対バンからパワーを吸い取った"と語ると、その仕上げである今回のワンマン・ツアーは、"いい意味で(観客を)裏切るセットリストとアレンジを用意してきた"と宣言。ファンキー且つダンサブルな演奏で観客を飛び跳ねさせた「希望的観測」、そして、"全部出す覚悟でかかってこい!"というアベの雄叫びから後半戦に突入。さらに演奏は加速するかと思ったところで、頭が一瞬真っ白になったのか、「ナンバーゼロ」の出だしをきみコが間違える痛恨のミス。それに対して、"え~!"と挑発するように声を上げるオーディエンスを冷静に受け止め、"ちょっと時間をちょうだい"と出だしのコードを確認するきみコを見ながら、意外にシビアなバンドとファンの関係を知り、彼女のファイティング・スピリットがそんなところでも鍛えられてきたことが想像できた。

終盤、ラスト・スパートをかけるようにアップテンポの曲を畳み掛けると、観客はバンドの熱演に掛け声、手拍子、タオル回しで応え、そんな盛り上がりは本編ラストの「ツマビクヒトリ」でモッシュの渦を出現させた。オーディエンスも一緒に歌い、完全燃焼を遂げたアンコールでは10月22日から"ルミナナリー"と題した全国ツアーが始まること、そして翌日(5月23日)、新曲のリリースに関する発表があることをアナウンス。オーディエンスを喜ばせたが、印象的だったのは、2年半前の渋谷CLUB QUATTROワンマン公演の本番直前まで泣いていたというきみコの告白。"それでもみんなに助けられてここにいる"という彼女の話を聞きながら、彼女のファイティング・スピリットはそんな自分の弱さを認め、それを乗り越えようという気持ちの発露であることを、筆者は知ったのだった。

  • 1