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Japanese

あいみょん

2018年08月号掲載

あいみょん

Writer 石角 友香

前作『満月の夜なら』(2018年4月リリースの4thシングル)で、男性目線の歌詞でありつつ、一線を越えるか越えないかの状況をむしろ柔らかな感覚で描いたあいみょん。本人は1曲ごとに個別のテーマで作品を作っていると言っていたのだが、カップリングの「わかってない」が同じ状況での女性目線に受け取れて、若干ビターで、男性と女性の愛の感じ方が当然異なるという現実を、シングル全体で、エロティック且つ俯瞰で捉えた秀逸な出来映えだった。小説や舞台、映画など、あらゆる比喩表現を貪欲に吸収し、ポップ・ミュージックを芸術として残そうとする彼女らしい手さばきが見事であった。

さて、なので今回のシングルもタイトル・チューンとカップリングの関係性はいったん置いておこうと思いつつ、どうしても2曲続けて聴くと、同じ状況での男女の熱量の違いや、時間軸の違いが2本の映画のようにリスナーの内面に投影されるのではないだろうか。タイトル・チューンの「マリーゴールド」は、あの淡々と強い、ファクトを目の前に差し出してくるようなあいみょんの歌声がまっすぐ入ってくる。アコギの小気味よいカッティングとミディアム・テンポが、ギミックのないフォーク・ロックといったアレンジだ。思いもよらぬ夏の強い風に吹かれて、ちょっと怯えている彼女を抱きしめているのだろうか。まるで確認するように"絶望は見えない"と自分に言い聞かせているように感じられる。相思相愛に思えて、節々に過去のことであるような描写が顔をのぞかせるのもなんとなく怖い。"いつまでも離さない"と歌いながら、暑苦しさも熱量も"ない"不思議な歌なのだ。そこで若干反則気味だが、マリーゴールドの花言葉を引いてみる。"嫉妬"、"絶望"、"悲嘆"といった負のワードもあれば、"生命の輝き"とか"変わらぬ愛"といったものもある。なんという二律背反。その意味合いありきでタイトルが付けられたのだとしたら、怖いというより、人を愛するということはある意味、誤解だったりするということかもしれない。意味とサウンドを何度も反芻しているうちに妙に腑に落ちる曲だ。

そして、2曲の関係性と連続性で聴くと、「あなたのために」はやはり同じ状況下での女性目線での、本当のことなんて言ってなかった自分が描かれており、"あなたのためにのばした"長い髪も、風が吹けば絡まるだけで面倒臭いものとして表現される。しかも、そんな独白がウエディング・ソングめいた鐘の音のイントロで歌われるのだから、女の怖さがいっそう際立つようでもある。だが、聴き様によっては"もう誰のものでもないわたし"の開放感と一抹の寂しさの両方を彩るアレンジのようにも受け取れる。謎解きのように聴き進めると、"なんだ、ふたりとも本心を明かさないまま別れてしまったの? 男性も女性も二律背反に悩んでいたんじゃないの?"という結論に至る。もちろん、違う解釈もあるだろう。だが、まるで映画のような展開で、すべてを語らない表現は、あいみょんの作品性の深まりを確かに印象づける。メッセージ・シンガーのように受け取られがちな初期のイメージや、実際に所信表明するレパートリーもあるだけに、すべてが物語で構成されているわけではないからこそ、新曲でどんな切り口を見せてくれるのかが毎回楽しみだとも言える。

作家性の高いシンガー・ソングライターであり、エッジーなモードを着こなす、ファッションの文脈も理解しているアイコンであり、地元に愛する家族を残し、東京でのひとり暮らしにも慣れてきた20代の女性でもあるあいみょん。全方位に好奇心を巡らせ、知性と感性両面で作品を作り、歌うときは高い瞬発力で自分の感情を音源に定着させる。表現も究極、情報であることは、人間がコミュニケーションを始めて以来不変だと言える。だが、どの情報が自分にとって必要なのか? という迷いの多い今、あいみょんの発する表現が簡単に消費されない、それは確かだ。


▼リリース情報
あいみょん
5thシングル
『マリーゴールド』
aimyon_marigold.JPG
2018.08.08 ON SALE
[unBORDE]
WPCL-12910/¥1,000(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV
 
1. マリーゴールド
2. あなたのために
3. マリーゴールド(Instrumental)

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