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フラワーカンパニーズ

2014年10月号掲載

フラワーカンパニーズ

Writer 天野 史彬

フラワーカンパニーズ、結成25周年である。25年。つまり四半世紀である。な、長い。そんな25年目を記念して、フラカンから私たちにとんでもない代物が届けられた(むしろ、フラカン宛に届けられたと書いた方が正確か?)。それが本作、総勢13組のアーティストによるトリビュート盤『I❤FC MORE THAN EVER ~FLOWER COMPANYZ TRIBUTE~』である。若手からベテランまで、様々なカラーを持ったアーティストがフラカン歴代の名曲カバーした、幕の内弁当的豪華盤。まずは一気に、その収録内容を曲順どおり紹介しよう。いくぞ。

まずはフラカンの正嫡子=クリープハイプによる「吐きたくなるほど愛されたい」。尾崎世界観の切なくて愛らしくて、でもねちっこいヴォーカルが期待と諦めの狭間にある男心を見事に歌い上げる。続くTHE BACK HORNは「はぐれ者賛歌」を男気溢れる演奏でカバー。彼ららしい真っ直ぐで艶やかな熱量が放出されている。そして、こちらもフラカンイズムの継承者である忘れらんねえよは「ホップ ステップ ヤング」を、3歩先で転ぶのをわかっているのに全力疾走するような"へたれ"のようで"へたれてない"パンク・サウンドで熱演。平均年齢20歳の爆弾ジョニーは「俺たちハタチ族」というナイス選曲! 無邪気な初期騒動全開のロックンロールが鳴り響く。そして、ここからトーンは一転。ハルカトミユキが「感情七号線」を静謐でリリカルな色に染め上げる。ハルカの中性的なヴォーカルは、鈴木圭介の少年声のカラーが強いフラカン楽曲に実はすごく合っている。お次の田我流は「発熱の男」をミニマルなエレクトロ・サウンドで。フラカンの本質のひとつである"倦怠感"を見事に表現してみせる。そして続いてはなんと、ダイノジ大地率いる豊満乃風+フラカン芸人(これってダイノジ大谷?)による「真冬の盆踊り」。飛び道具的人選......だが、演奏も"ヨッサホイ"のコーラスもヘヴィかつグルーヴィで迫力満点。これはアガる! 続いてシャープなロックンロールで「脳内百景」をカバーするのはgo!go!vanillas。牧達弥の色気のあるヴォーカルと、聴き手をぐいぐいと引っ張っていくようにカタルシスを増していくソリッドな演奏がたまらない。代表曲「深夜高速」をカバーしたのは、本作最年少(18歳)の新山詩織。フラカンのキャリアより若い彼女だが、夜の街を歩く捨て猫のような孤独で気高いその歌声を聴けば、彼女の中にも、この名曲のメッセージは深く刻み込まれているのだとわかる。そして、ここからベテラン・ゾーンへと突入。まずはフラカン同世代組から、TOMOVSKYとThe ピーズの"トモフ&ピーズ"名義による「煮込んでロック」。肩の力が抜けたようで、しかしその実とんでもなくパワフルに煮込まれまくった旨み凝縮のロックが炸裂! 続くSCOOBIE DOは、熱気むんむんのパッションに満ちた演奏で「恋をしましょう」をファンキーにカバー。楽器同士がゴツゴツとぶつかり合うような生々しいアンサンブルに否が応にも腰が動く動く。そして、うつみようこ&THE OLD FELLOWSによる貫禄の「真赤な太陽」。壮大なスケール感のバンド・サウンドもすさまじいが、何より、うつみようこが繰り返し放つ"今日もがんばれよ"という言葉の力強さと優しさ。"人の背中を押す"ロックが鳴っている。そして遂にラスト。最後を締めくくるのはフジファブリックによる「星を見ている」。柔らかくウォームな質感のバンド・サウンドで、そっと聴き手を抱きしめるように、このトリビュート盤の幕を閉じる。夜空に響き渡るような切ないギターの音色と穏やかな山内総一郎の歌声は、聴き手に寄り添うような親密さを持っている。最高のクロージング・トラックだ。

......はぁ、はぁ。どうだ、総勢13組全13曲。駆け足で書いたが、面子も曲も超豪華なのはわかってもらえたはず。でも1番素晴らしいのは、それぞれのアクトが単に曲をカバーしているというだけでは収まりがつかないくらい、原曲を自分たちの血肉にしているのが伝わってくること。どのアーティストも、まるで自分たちの心情を吐露したブルースを歌うかのように、フラカンの楽曲を演奏していることがこの13曲からは伝わってくる。こんな幸福なトリビュート盤、そうそうない。この幸福さの要因はもちろん、それぞれのアクトの音楽的才能とフラカン愛によるところもあるだろうが、でも何より、フラカンの楽曲が持つ"浸透度"がズバ抜けているのだと、本作を聴いて改めて感じさせられた。フラカンのすごさとはやはり、"あの4人にしか鳴らせないサウンド、鈴木圭介にしか歌えない言葉"であるにも関わらず、聴く者ひとりひとりの人生のテーマ・ソングになってしまうぐらい高い"心の浸透度"を持っていることなのだ。"みんなの歌"にはならないかもしれない。でも、誰もが"俺の歌"だと思って聴いている。しかもそこには、年齢や性別なんて関係ない......こんなバンド、やっぱりフラカンしかいないよ。

本当はこの原稿の締めは"やっぱりフラカンは日本のロックの宝だ!"って感じにしようと思ってたけど、やめた。いや、もちろんフラカンは日本のロックの宝なんだけど、それ以上に、フラカンの音楽とは、ひとりひとりが引き出しの奥にしまっている大切な手紙のようなものなのだ。誰にとっても、たったひとつしかない大切なもの。だからこのトリビュート盤は、フラワーカンパニーズという名の1通の巨大な手紙であり、13組のアーティストそれぞれが引き出しの奥から取り出してきた大切な手紙の束でもある。そしてこの作品を聴いたあなたも――たとえフラカンの曲に触れるのが初めてでも――きっとこの中から、あなただけに宛てた大切な手紙を受け取るに違いない。フラカンだからこそ生まれた、特別なトリビュート盤。ぜひ、受け取ってほしい。



V.A.
『I♥FC MORE THAN EVER ~FLOWER COMPANYZ TRIBUTE~』
[Sony Music Associated Records]
2014.10.22 ON SALE
AICL-2751 ¥2,778(税別)
amazon | TOWER RECORDS | HMV

1. クリープハイプ 「吐きたくなるほど愛されたい」
2. THE BACK HORN 「はぐれ者賛歌」
3. 忘れらんねえよ 「ホップ ステップ ヤング」
4. 爆弾ジョニー 「俺たちハタチ族」
5. ハルカトミユキ 「感情七号線」
6. 田我流 「発熱の男」
7. 豊満乃風+フラカン芸人 「真冬の盆踊り」
8. go!go!vanillas 「脳内百景」
9. 新山詩織 「深夜高速」
10. トモフ&ピーズ 「煮込んでロック」
11. SCOOBIE DO 「恋をしましょう」
12. うつみようこ&THE OLD FELLOWS 「真赤な太陽」
13. フジファブリック 「星を見ている」

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