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LIVE REPORT

Japanese

Lucky Kilimanjaro

2025.08.03 @豊洲PIT

Writer : 石角 友香 Photographer:森山学浩

バンド結成10周年を、今年2月16日に幕張メッセで開催したツアー[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2024 to 2025"]のファイナルで完遂したLucky Kilimanjaro。11年目に入ったバンドは、再び全国ツアー"LOVE MY DANCE LOVE YOUR DANCE"として、5月6日の大阪 服部緑地野外音楽堂でのフリーライヴを皮切りに、月2本程度のゆったりしたペースで11月24日の札幌公演まで旅を続けている。今回レポートする8月3日の豊洲PIT公演は、前日に大瀧真央(Syn)が熊木幸丸(Vo)との間に第一子を懐妊したことが発表されたタイミングで、この日の開演前の大瀧の影アナで早くも祝福ムードが溢れる。彼女いわく"中華弁当を完食する元気さ"らしく、ファンも一安心といったところだ。

なお、ツアー中なので全ての曲目は掲載できないが、本編1時間40分ノンストップのセットはラッキリ(Lucky Kilimanjaro)らしいものでありつつ、全キャリアからの選曲であったり、セクションごとの心情の明快さだったり、新曲「はるか吠える」のフレッシュな楽曲像をはじめ、リズムや曲想のバリエーションが圧倒的に豊かになったことは特筆すべきだと思う。

ダンス・アクトっぽいクールなライティングがオープニングを彩りながら、序盤はこれでもか! という勢いでテンションを上げていく。この猛暑である。「350ml Galaxy」でサビのシンガロングが爆発し、熊木がジョッキを携えて袖から戻ると早々に乾杯。ここで缶ビールを持った手がたくさん上がるのもライヴハウスのラッキリのお楽しみだ。と、同時に序盤からクライマックス級のフロアの盛り上がりに熊木をはじめ、メンバーも驚きの笑顔を隠さない。間髪入れずビートのバリエーションを見せつつ、生音でビルドする「HOUSE」で飛び出す熊木からの"ダンスは自由です!"発言が様々なファン歴が構成するフロアをまさしく自由に開放していく。

メンバーのプレイもフィーチャーしながら、最初のピークは歌詞に思い入れのあるファンが多いであろう「Super Star」だ。誰もが誰かのスーパー・スター。それはとても身近なことで、今このライヴの最中にも、お互いを尊重しながら踊り続けるフロアに横溢するムードが繋がっている。序盤のハウス/テクノなビート感から、ソウルやヒップホップのノリを持つレパートリーで横ノリやクラップの楽しみも堪能。キャリアの広範囲にわたるレパートリーを、違和感なくグルーヴの共通点で接続していけるのは演奏の説得力、そして曲の良さゆえだ。

TikTokのバズで再注目された「Burning Friday Night」は、大瀧のエレピのイントロと"豊洲、踊れてる?"の問い掛けに大きな歓声が上がり、サビの"今フライデーナイトは燃える"からのシンガロングに、熊木は感無量の表情を浮かべる。山浦聖司(Ba)のグルーヴィなラインはCHICばりのファンクネスを生み出し、フロントのメンバー全員が揃いの振りで踊ったり、松崎浩二(Gt)が熊木に背中を預けてソロを弾いたり、前半の大きな山場を作り出した。面白かったのは「エモめの夏」の軽快なイントロにOiコールに近い掛け声が上がったこと。ダンスも自由形ならコールは輪をかけて自由。このあたりのライヴ定番曲のノリはいい意味で日本のバンドであることの証左でもある。

大きな流れで捉えるとハウス〜ソウルやヒップホップ〜シティ・ポップと、カラフルにジャンル感を横断してきた流れの先にはいわゆる聴かせる歌のナンバーが、より深いところでバンドとファンの心を通わせる。例えば美しく慈しみ深いストリングスのSEが誘う「MOONLIGHT」では、メンバー一人一人を順番に照らすスポットライトが、孤独な夜を仮想的に演出。ミラーボールに反射して零れる光の粒も歌の世界に見事に寄り添う。ちょうど踊り疲れた身体に水が染み込むような感覚で、メロディが行き渡っていくのだ。この聴かせるセクションの美しさはライヴ全編を通してこそ味わえるんじゃないだろうか。

さらに自分らしさは枷なのか強みなのか、子どもっぽさは弱みなのか......止まらない逡巡、友達とのよくある会話。誰にも思い当たりそうな「KIDS」のストーリーがアフロビーツに乗って展開する。でも悩みよりは今や"OK OK OK!"でシンガロングして笑い飛ばすぐらいライヴの4番打者感が強い。バンドと頼もしいオーディエンスの立場はほんとにフラットだ。この曲を皮切りに、ちょっと強めのビートと共に内面にも向かうナンバーを挟みつつ、新曲「はるか吠える」は"Lucky Kilimanjaro、新曲やります!"の一言でスタート。ギターを携えた熊木というヴィジュアルだけでも恐ろしく新鮮なのだが、8ビートのインディー・ロックのニュアンスに乗り、"鳴らすしかないこのディストーション"という歌詞がまっすぐ届く。音源以上にストレートにロック・チューンとして響くフレッシュな聴感と共に、まだ何者でもない自分が自転車のペダルを精一杯踏んで今日みたいな暑い日に、どんくさく走っている実感が確かにあったのだ。でも、素朴なロックンロールで終わらないこの曲は、ブレイク・ビーツ的な要素も飲み込んで走っていく。ちょっとキメラ化したアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)みたいな体感とでも言おうか。これからツアーを経てどんどん育っていきそうな予感があった。

終盤に向かって、フロア全体が1つの生命体めいた「Kimochy」、ポストパンクな四つ打ちビートを柴田昌輝が叩き出す「Dancers Friendly」は、徐々にブレイク・ビーツの面白さを増幅し、すっかりライヴ・チューンになった今年リリースの「楽しい美味しいとりすぎてもいい」へ。これまでラッキリが示してきた"ダンスは自由です"を、今から入ってくる人にも明快に言語化した歌詞を持つこの曲が、タフに踊り続けてきたファン全てを肯定するようで、めちゃくちゃピースフルだ。繰り返すが、終盤の畳み掛ける選曲の最新とベーシックな根本の連続は、ラッキリの大事なマインドを堪能できる流れなので、ぜひ現場で体感してほしい。その先に、何より優しい「メロディライン」の愛に満ちたエンディングが待っているのだから。

アンコールの中で、大瀧は9月以降はライヴから離れること、そして5人体制での新たな"Lucky Kilimanjaro pre.『LOVE MY DANCE LOVE YOUR DANCE LOVE MAOTAKI DANCE』"と銘打った"大瀧応援ツアー"の実施も発表。休養する大瀧も活動するメンバーもお互いを応援するニュアンスがラッキリらしい。メンバー紹介では、どうもファンも聞き流していなかったらしい熊木の"今日赤ちゃんが産まれました"というMCのくだりを、ラミ(Perc)が逃さず熊木に突っ込む場面もあり、爆笑を誘う。熊木が尋常じゃないテンションにあったのは間違いない。大瀧の"私が戻ってくるまで踊っててくれますか?"という願いはお馴染みのラスト「君が踊り出すのを待ってる」に、より強く込められた気がした。人生を賭けて楽しむ彼等は今、すごくタフだ。

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