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INTERVIEW

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SUEDE

 

SUEDE

Member:Brett Anderson(Vo)

Interviewer:山本 真由 Translator:金子みちる

90年代に世界を熱狂させたブリットポップ・ブームの火付け役でもあり、その後一時活動休止期間を経て、復活後は休止前に負けず劣らず精力的な活動を続けているSUEDE。今作は、そんな彼等の10作目となるフル・アルバム。インタビューでは、ベテランと呼ばれるような立ち位置になった今も、このようにライヴ感溢れるエネルギッシュなアルバムを作れるモチベーションや、制作の経緯について、フロントマンのBrett Andersonに詳しく訊いた。

-各方面から好評だった前作『Autofiction』(2022年リリースの9thアルバム)から約3年、アルバムに伴うツアーも含めこの数年は特に充実した活躍ぶりが窺えますが、実際この3年間の活動はいかがでしたか?

俺たちは最近とてもたくさんツアーをしていて、俺自身ツアーが本当に好きなんだ。このバンドにいるのも楽しいし、ライヴで演奏するのも大好きなのさ。ライヴをすればする程、それが曲作りやレコーディングに生きてくると思う。そして今は、そのライヴのエネルギーをいかにレコードに反映させるかを常に考えているよ。新作『Antidepressants』もまさにそういう試みだと言える。俺たちが作るレコードが、ライヴと同じエネルギーを持っているようにしたかったんだ。 それに加えて、パフォーマーとしても俺たちは成長してきたと思う。ライヴをどうすれば本当に素晴らしいものにできるか、今は分かっているし、その"スイッチを押す"方法も理解している。年を重ねることで、人は学ぶものなんでね。"ライヴを上手く操作する"という言い方だと、ちょっと偽物っぽく聞こえるから語弊があるけど、ただステージ上で何が正しいのか、どうやればいいのかが分かってきたんだ。要するに、正しい方法を習得してきたということだね。

-今回のニュー・アルバムは、SUEDEにとって記念すべき10作目のフル・アルバムですね。結成30年を超え、ついに10枚目ということで、作品に対しての思い入れやそんな感慨はありましたか?

10枚目というのは嬉しいことだけど、俺にとってもっと興味深いのは、これが再結成してから5枚目のアルバムだということなんだ。つまり、最初の活動期に作ったのと同じ数のアルバムを、再結成後にすでに作っているんだよね。それは本当に素晴らしい成果だと思うけど、ただこの話で一番肝心なのは、俺たちが今でも自分たちのサウンドを進化させ続けているという事実だと思う。俺たちのサウンドは今も変わり続けているし、進化を続けている。そういうバンドは実際にはあまり多くないんじゃないかな。 たとえバンドを続けていても、同じようなレコードを作り続けたり、昔の作品をなぞるようなものを作ろうとしたりすることが多いと思う。でも俺たちはそんなことをしたいと思ったことはない。30年前にやったことには、正直あまり興味がないんだ。俺が興味を持っているのは、"次に何をやるか"なんだよ。そういうことに強く惹かれているのさ。だからこそ、常に前に進もうとする原動力を持ち続けてきたんだと思う。 そしてそれこそが、俺たちが今もここにいる理由なんだよ。大切にしているのは、30年前のレコードじゃなくて、今作っているレコードなんだ。

-新作は当初、"コンセプチュアルなパフォーマンス・アート作品のサウンドトラックとして制作が始まった"とのことですが、実際はもっとギター・ロックの純粋さが際立つパワフルな作品になりましたね。この方向性の転換や、その際のメンバー間のコミュニケーションについて詳しく教えていただけますか?

『Autofiction』を作り終えた後、あのアルバムの完成からリリースまでの間に結構長い空白があったんだ。その間に何か生産的なことをしようと思い、新しい曲を書き始めたんだよ。で、これまでと全く違う方向に進むのも面白いんじゃないかと考えて、サウンドトラック的な作品を作ろうとしたのさ。実際かなり書き進めて、ほとんど完成に近いところまで行ったんだけど、『Autofiction』がリリースされてツアーを始めたら、新曲に対する反応が本当にすごかった。ファンが見せてくれたあの本能的で、動物的とも言えるような反応を目の当たりにして、左派系の芸術作品を気取ったレコードじゃなくて、左派系のロック・レコードを作りたいと思うようになったんだ(笑)。だからこそ方向を変えて、あの形になったんだよ。 結局のところ、俺たちは根っからのパンク寄りのロック・バンドなんだ。35年前ロンドンで最初に演奏を始めたとき、観客がたった2人しかいなくて、しかも誰も気にしていないようなパブの片隅でやっていた。つまり、ノイジーで荒々しいパブの裏部屋が俺たちの出発点だったんだよ。ある意味では、精神的に未だにその世界に生きていると言える。今でもリハーサル・ルームに集まって、とにかく大きな音を出す。俺たちはそういうバンドなんだ。その感情やエネルギーを、レコードにどうやって落とし込むかが腕の見せどころなんだよ。

-結果的に、非常に素晴らしいアルバムができあがったわけですが、当初の計画通りのパフォーマンス・アート作品のサウンドトラックを今後制作する予定はありますか?

どうだろうね。もしかしたらいつかやるかもしれないけど、今はまだだな。今のところ、そっちの方向に進みたいと思っているわけじゃないから。まぁ、物事は常に変化していくから、何が起こるか決して分からないけどね。次のレコードに対するヴィジョンは常に持っているけども、いつもそのヴィジョンから逸脱してしまう。最初に思い描いた通りの作品になることはほとんどない。でも、そこが美しいところなんだよ。なぜなら、その逸脱は、そこに未知の要素が入り込んでくるということだからね。物事が自然に進化していく、その予測できない要素こそが面白いんだ。 もし最初に計画した通りのレコードになったとしたら、逆に何かが間違っていると思う。レコードを作るための曲がりくねった道こそが魅力なんだよ。だから、将来どうなるかなんて分からないけど、もしかしたらやるかもね。

-今作も前作に引き続き、旧知のEd Bullerがプロデューサーにクレジットされていますね。デビュー・シングル(1992年リリースの『The Drowners』)以来の付き合いで、SUEDEのやりたいことを一番に分かってくれるメンバー以外の存在、というイメージではありますが、彼がSUEDEの作品に関わる際のスタンスというか、距離感はどんな感じなのでしょう?

彼はオールドスクールなプロデューサーで、80年代後半からずっとこの業界にいるよ。俺たちが今でも Ed と一緒に仕事をするのは、彼が本当にバンドを大切に思っているからなんだ。SUEDE を心から愛していて、最高の SUEDE のレコードを作りたいと願っている。そしてこれまで彼と一緒に素晴らしい作品をたくさん作ってきたからこそ、彼はバンドのレガシーを理解しているし、SUEDE の何がいいのかをちゃんと分かっているんだ。バンドのメンバーとして、自分たちが時に見失いがちな部分を、彼はいつも思い出させてくれるんだよ。 それに彼は曲に関してとても誠実で、判断も的確だ。気に入らない曲があれば、はっきりと"ダメ。こんなのはゴミだ。やり直せ。新しいのを書け"と言ってくる。そこに一切の感傷はない。俺たちを喜ばせようとはしないし、むしろそこがいいんだ。真実を語ってくれる存在は必要だからね。世の中には耳当たりのいいことを言う人が多いけど、Ed は決してそうじゃない。だからこそ、もし彼が何かを"いい"と言ってくれたときは、それが本当にいいんだと確信できるのさ。 もちろん常に意見が一致するわけじゃない。時には衝突することもある。でもそれは健全なクリエイティヴな衝突であって、創作プロセスには必要なことなんだ。だから俺は彼をとても尊敬している。Ed は古くからの友人であり、まるで家族の一員のような存在なんだよ。

-本作はロンドン、ベルギー、スウェーデンと国境を越えた様々なスタジオで制作が行われたようですが、環境を変えて制作をすることのメリットや、スタジオを選ぶ際の決め手はどんなことですか?

別に特に"スウェーデンで録音したい"とか"ベルギーで録音したい"とか、そういう意図があったわけじゃないんだ。実のところ、経験とか予算といった現実的な問題が大きいんだよ。例えば Richard(Oakes/Gt)は普段スウェーデンに住んでいて家族もそこにいるから、ギターのレコーディングはそこでやったし、ベルギーのスタジオはすごくいい設備があって、しかも予算的にも折り合いが付いたから使ったというだけのことなんだ。 でもレコーディングの大部分はロンドンでやっているよ。俺たちの拠点はロンドンなんでね。だからレコーディングした場所について、特に何か意味があるわけじゃないんだ。要するに単にここなら技術的に十分で、予算も合うという場所を選んでいるだけだ。まぁ、ちょっと退屈な話かもしれないけど、特に何かこだわりやマニフェストみたいなものは全くないんだよ。

-SUEDEらしいスタジオ・ワークや、レコーディングのこだわりについて教えてください。今作に関することでも、常に大切にしていることでも。

面白い質問だね。かなり特異で独特なサウンドをもともと持っているから、どんなことをしても最終的には必ず SUEDE らしいサウンドになるんだよ。その大部分は俺の声や、曲の書き方にあると思う。それに加えて、音楽的には意識している部分もある。例えばコード進行。SUEDE の DNA にとってコードの動きはとても重要なんだ。俺たちはあまり普通のコード進行は使わない。よく使うのはクロマチック・コードと呼ばれる、曲のキーから外れたコードなんだ。俺たちは昔からそうしたクロマチック・コードを多用しているし、バンド内では"SUEDEコード"と呼んでいるよ。サビの前やサビの終わりに出てくることが多いんだけど、それによって聴き手をハッとさせるのさ。つまり、流れの中でキーに沿って進んでいたものが、突然キーの外に飛び出すような感覚を与えたいんだ。 こうした独自の"公式"は SUEDE サウンドの中にいつも存在しているけども、それと同時に、言葉では説明できない"Xファクター"のようなものもあると思う。それは何を取り入れようが関係なく、必ず存在するものなんだ。俺たちはSUEDEらしさを常に意識し、尊重しているよ。それは良いことだと思う。 俺たちは他の音楽を作れるようなタイプのミュージシャンじゃないんだ。バンドを始めた当初は、それがむしろ弱点だったな。その当時の流行りのバンドみたいな音を出すことができなかったからね。単にそこまで上手くなかったんだよ。でもだからこそ、自分たちの音を作り上げることに集中するしかなくて、結果的に他の誰かのサウンドではなく、独自のサウンドを発展させていったのさ。そして、長い年月をかけて、よりSUEDEらしい音を生み出せるようになった。それが今の俺たちであり、それでいいんだよ。

-アルバムのタイトルにもなっている「Antidepressants」は、ファンへのサプライズ的にライヴで初公開されました。このときのファンの反応や手応えはいかがでしたか?

たしか去年のフェスティヴァルで初めて演奏したんだ。すごく良かったよ。俺たちはいつも新しい曲をライヴで試すようにしている。同じ曲ばかり繰り返し演奏するのは好きじゃないし、そういうのは退屈に感じてしまうんでね。オーディエンスに"次は何をやるんだろう?"って想像させるのが好きだし、"あぁ、あのときあの曲を聴けた人は羨ましい"って思わせるような、機会を逃したくないという気持ちを生み出したいんだよ。もし毎回同じ15曲だけをずっとやり続けていたら全然面白くないし、俺には絶対に耐えられない。退屈すぎるからね。だから新曲を演奏するのは好きなんだ。この曲を書いたとき、ライヴ映えしそうだと感じたから演奏することにしたんだ。 で、実際に演奏してみたら、本当に手応えを感じたよ。オーディエンスの反応も良かったし、サビにはとてもシンプルなリズムがあるからね。ライヴではそういうシンプルさが時に必要なのさ。だから、上手くいったんじゃないかな。ただ、その時点ではこれはまだアルバムのタイトル曲じゃなかったんだ。アルバムのタイトルをどうするか決めかねていたからね。だけど、だんだんこの曲やそのコンセプトを気に入るようになって、タイトル・トラックにしたらいいんじゃないかと思い始めるようになったのさ。今ではこの曲がタイトル曲で良かったと思っている。いい曲だよ。