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INTERVIEW

Japanese

ユプシロン

2024年06月号掲載

ユプシロン

Interviewer:高橋 美穂

歌い手で、ボカロPで、バーチャル・シンガーであるユプシロンが、2ndミニ・アルバム『シニフィエ』を完成させた。"シニフィエ"とは、スイスの言語学者 ソシュールの思想で、言語が持つ"意味"の側面を指す(なお、対となる"シニフィアン"は、言語が持つ"音"の側面)。豊かな知識や感情の引き出しを持つユプシロンの、音楽へのこだわりが詰まった今作。東野圭吾の小説"白夜行"からインスパイアされた「白夜」など、様々なカルチャーと重ね合わせてユプシロンの生き様が表現されている。

-新作のお話をうかがう前に、ゴールデンウイークは、5月4日はSODA KIT("SODA KITワンマンライブ「ロングラン」")、5月5日はユプシロン("ユプシロン1st Real Live「OPEN THE DOOR」")と、それぞれ昼夜でライヴやファン・ミーティングが続きましたが、その感想を教えていただけますでしょうか。ハードな2日間でしたよね。

死ぬかと思いました(笑)。

-正直(笑)!

ユプシロンとしてはリアル会場での初ライヴだったというのと、2日間2公演ずつあって全部違うことをやったので。だからリハーサルも4種類あったんですよね。SODA KITでは歌とダンスのレッスンがあって、夜のファン・ミーティングはちょっとした打ち合わせがあって。ユプシロンは、昼はマニピュレーターのsachiさんとふたりでやるライヴだったので、インストの音作りから一緒にスタジオに入って。ただカラオケを流すのではなく、パラ・データからライヴ感ある音作りをしたので、スタジオに入っても歌わずに、音を決めていく時間が長かったですね。コーラスのバランスとか、ライヴ感を出すためにドラムのキックを大きめにしたりとか。夜はアコースティック・ライヴだったので、バンド・メンバーさんに原曲ベースに覚えてきてもらったあとに、相談しながらアレンジを決めていって、何回もリハーサルしました。原曲を生かしつつアコースティックに映えるアレンジにしたいと思って。バンド・メンバーのみなさんのおかげで特別感のあるライヴになりました。

-また、ユプシロンさんのライヴは、SODA KITの3Dとは違う"高性能3D"の身体(実写)で行いましたよね? あれは、前々から考えていらっしゃったんでしょうか。

いえ、まったく考えていなかったです。でも、去年ポニーキャニオン(※所属レーベル)のボスに背中を押されて。衣装もイチから全部作ってもらったんですけど、さくしゃ2さんデザインのユプシロン衣装まんまになっていて、プロの衣装屋さんってすごいなぁと。完全にオーダーメイドで、袖のヒラヒラとか襟の立っている感じとか、そのまんま再現されていたんです。めちゃくちゃテンションが上がって、気づいたらステージに立っていました(笑)。

-ライヴを観たお客さんも、しっくりきたでしょうね。

ですかね? だといいなぁ~(笑)。

-そういう違和感ないかなぁとか、いつもと違う身体で出るから心配だなぁとか、いろんな感情があったかと思うのですが、前日のSODA KITのライヴとは、心持ちが違いましたか?

違いましたね。3Dなのか、"高性能3D"なのかというところもあるんですけど、ひとりでステージに立つってところで。sachiさんもステージにいてくれるとはいえ、歌うのはひとりなので、すごく緊張しながらステージに上がりました。あと、いつも(インターネットでの活動の際も)お客さんは目の前にいるんですけど、より"ほんとにいる!"って思いました。なので、昼の部の最初の2曲ぐらいはめちゃくちゃ緊張していて、3曲目ぐらいから、ほどけてきたかなぁって感じでした。昼の部があったから、夜の部はあんまり緊張しなかったかもしれないです。

-慣れるのが早いですね(笑)。

そうですね(笑)。順応性は高いんだと思います。

-あの会場で、『シニフィエ』のジャケットも発表しました。ファンの方のリアクションのひとつひとつを間近で感じて、ホッとしたところもあったのではないでしょうか。

みんなの反応がアットホームで、いつも通りだったというか、ネットでやりとりしているときと変わらないみんながそこにいたのでホッとしましたね。"ネットもリアルも変わらない"って声をたくさんいただいたんですけど、僕もそれをみんなに思いました。XとかYouTubeで応援してくれているときと同じ反応だ! って。みんな(リアルでは)初めましてのはずなのに、初めましてじゃないなって思って。どんどん緊張が解けました。で、『シニフィエ』のジャケットも出して、みんなの生の声を貰えて、めちゃくちゃ嬉しかったです。あの瞬間はいつものYouTubeの中にいる気分になっていました(笑)。

-そもそも『シニフィエ』は、言葉を形成する"音"と"意味"のうち、"意味"のほうに焦点を当てて、その側面を探求した作品と資料にはありますが、このテーマはどういうきっかけで生まれたのでしょうか。

シニフィエとシニフィアンは、言語学の用語なんですけど、友達が教えてくれたんです。"これユプシロンっぽくない?"って。"あ、たしかに僕っぽいな"って思って調べ出して、これは次回の作品に使いたいと。

-どういうところが自分っぽいと思いました?

まず、ユプシロンっていう名前の由来が――生まれたときに親が付けてくれた名前があって、そこから削ぎ落してYの1文字だけを残してユプシロンになったんですけど、"ユプシロン"って聞いて、性別も年齢感も浮かばないじゃないですか。その音を聞いたときに、すぐに(イメージが)パッと出てこない。でも"犬"って言ったら、パッと出てくるじゃないですか。僕は"出てこないもの"になってみたかったから、"シニフィエ"はピッタリだなって思いました。"シニフィエ"って言われても、みんなパッと出てこないだろうけど、"ユプシロンの音楽は?"と聞かれたときには、"ユプシロンらしさ"を想像してくれると思うので、例えば「白夜」だったら、どんな曲なんだろう? って想像してほしいというか。意味とか、中身を考えてほしいと思って、このタイトルにしました。

-このテーマが決まってから収録曲を決めたのか......以前からある楽曲も入っていますけれども、どういうふうに制作していったんでしょうか。

『ガタカ』(2023年リリースの1stミニ・アルバム)を出したあとぐらいから、次のテーマはこれにしたいって思っていたので。タイトルとして決定していたわけではないんですけど、こんな作品にしたいというのが念頭にあって、「サイレントトリープ」から作り始めましたね。で、「白夜」を制作している頃ぐらいからは、タイトルも"シニフィエ"に決まっていたので、それ以降、「ダイアル」とかは『シニフィエ』に入れるという気持ちで作りました。