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INTERVIEW

Japanese

ユプシロン

2023年09月号掲載

ユプシロン

Interviewer:高橋 美穂

ユプシロンが1stミニ・アルバム『ガタカ』を完成させた。歌い手として、ボカロPとして、バーチャル・シンガーとして活動してきて3年。性別、年齢、正解の"概念"を失い、音楽を通じて欠けたものを探し続けてきたユプシロン。その節目とも言える今作のタイトルは、ユプシロンのフェイヴァリット・ムービー"ガタカ"に由来する。"ガタカ"とは、DNAを構成している4つのヌクレオチド(ATGC)から来ている。その生物学や映画だけではなく、哲学、宗教学、文学......様々な影響を感じさせる今作の楽曲に迫った。

-1stミニ・アルバム『ガタカ』ですが、率直にどんな作品ができたと思っていらっしゃいますか。

メジャー・デビューして1枚目のミニ・アルバムになるので、今までのユプシロンらしさと、加えてキャッチーな曲も入った、メジャーらしい1枚になったと思います。

-メジャーっていうところは意識されたんですか?

実際あんましてないかもしれないです(笑)。でも、半分は好きなようにやらせてもらって、半分は求められていることをやりたいなっていう気持ちはありました。自分が活動を始めてからの3年間で反響が大きかったものは意識しましたね。

-そもそも、3年前にユプシロンとして走り出したときは、メジャー・デビューしたいという目標はあったんですか?

いやぁ、ほぼ考えていなかったですね。Vsingerというものも......初めは歌い手として"歌ってみた"を(YouTubeに)上げてみたんですけど、それに反響を貰えたのが嬉しくて、コンスタントに活動してみようかなって思ったときにVTuberというものを知って、じゃあこれでやってみようっていう軽い気持ちで始めたので。コロナも流行っていて暇だったし(笑)。なので、最初はほぼ趣味でした。活動しながら、プロになりたいなって思うようになりましたね。

-でも"ユプシロン"っていうお名前(ギリシャ文字のΥ)からして意味があるわけですし、表現したいテーマはあったんですよね。

そうですね。物語を作っていくっていうテーマはあって。小さいときから妄想していたようなことを作品にしていけたらなって。でも、見切り発車だったとは思います。クリエイターの知り合いもいなかったので。やりだしてからTwitterで探して、イラストや動画を手伝ってくれる方が増えていった感じですね。キャラクター・デザインをしてくれているさくしゃ2さんも、ネットで見つけて、実際お会いしたこともないままメールしました。

-さくしゃ2さんとは密にやりとりしたんですか?

僕からWord 10枚ぶんぐらいのアートボードというか、ネットで拾ったイメージ画像と文章......例えば、海に浮かぶ月の写真とかを送ったんですよ。一番最初に作った「ステレオタイプ」(2020年6月リリースの1stシングル)っていう曲も、ワンコーラスぐらいデモができていたので送って、こういうのを作って歌うVsingerになりたいですってお伝えして。最初、デザインのご提案がふたつぐらいあって、こちらがいいですって言って、今の姿になりました。そういう意味でも"ユプシロン"の出生は"ガタカ"の映画内のようないきさつですね。

-そうしてユプシロンとして活動しながら掲げてきたテーマは、このミニ・アルバムでひとつの形にできたと思いますか?

ほぼ100パーセント、表現できたと思います。自分のアーティスト像も、ちょうど固まってきたので。何年後かに、ここ直したいとか思うかもしれないですけど、今のところは頭の中で描いているものが出せたと思います。

-今、ユプシロンさんの頭の中にあるユプシロン像って、言葉にするとどんなものですか?

"気づき"? ユプシロンを聴くと、何かに気づけるみたいな。日常と照らし合わせて、何かに気づけるヒントになる音楽や存在になりたいと思います。

-たしかに、私自身も今作を聴いて気づきがたくさんありました。なのでここからは今作の収録曲について、完成した時系列に沿って1曲ずつお話をうかがっていきたいと思います。最初にできあがったのは、メジャー・デビュー曲にもなった「ZERO」ですか?

そうですね。実は「ZERO」は2年前にできた曲で。最初はボカロ・バージョンで出したんです。僕は2021年からボカロPとしても活動していて、これはその2作目の曲だったんですけど、この曲に関しては自分が歌うことも想定してはいて。2021年の夏にクラウドファンディングが成功して、ユプシロンのお披露目イベントを池袋HUMAXシネマズさんでやらせていただいたんですけど("ユプシロン3Dお披露目イベント ~supported by池袋HUMAXシネマズ~")、そのときにたまたまポニーキャニオンの今の担当の方が観に来てくださったんです。僕を観に来たというよりは、2年前って、個人VTuberがひとりでイベントをやるって珍しかったんですよ。僕は池袋の劇場の方の協力を得てやらせていただいたんですけど、個人VTuberがどうやってイベントをやっているのかっていうリサーチのような感じで来てくださって。そのエンディングに「ZERO」のユプシロン歌唱バージョンを流していたんですけど、それを"いいじゃん"って言ってくださって。その後やりとりさせていただいたとき、まだデビューとか決まっていなかったんですけど"あれ、いい曲だから取っておいて"って言われたんです。で、1年半後にメジャー・デビューが決まったんで、メジャー・デビュー曲は「ZERO」にしたいですって言って出させていただきました。アレンジやミックスも変わって、歌も録り直したんですけど、歌詞やメロディは変わっていないです。

-ボカロPとして作った曲をご自身で歌うって、想定して作ったとはいえ、普通に考えたらハードルが高いと思うんですが、いかがでしたか?

最初は大変だったんですけど、それを練習することが修行、みたいな(笑)。「ZERO」も、"全部"って繰り返すグルーヴが難しくって。どんどんリズムがずれていってしまうんです。ちゃんと合わせないとダサい曲になってしまうので、めちゃくちゃ練習しました。難しさとか、あんま気にしないで作っちゃっているので(笑)、あとからヒーヒー言っていますね。

-そもそも、歌い手、ボカロP、Vsingerっていう、いろんなアウトプットを用意したのはなんでだったんですか?

やりたいからやっているだけなんですよ。僕の中では1個の音楽活動で、全部一緒じゃんって思っているので。でも、界隈によって呼び名があるから、面白いなって思うんですけど。自分としては音楽をやっている人っていうだけで、そこに線引きはないです。

-じゃあ、ユプシロンさんの源にあるのは、好きな音楽を作りたい、歌ってみたい、っていう純粋な衝動だけなんですね。

そうですね。バーチャルの身体、楽しそうだからやってみたい! みたいなノリです。

-結果的に「ZERO」は、生身の歌ならではのエモーションを宿した楽曲になりましたね。

あぁ、嬉しいですね。デジタルチックな曲も多かったりするんですけど、「ZERO」はわりとロック色が強いので。生歌との相性がいいとは自分でも歌ってみて思いました。

-次に作った楽曲は、すでにリリースされている「シンデレラ」ですか?

そうですね。メジャー・デビューできることが決まったときに、メジャー・デビュー曲の候補を3曲ぐらい作ったんですよ。結局「ZERO」になったんですけど、候補の中の1曲が「シンデレラ」だったんです。これまで発表してきた「フォージェリィ」(2022年2月リリースの配信シングル)、「アンコンフォートゾーン」(2022年5月リリースの配信シングル)みたいな、疾走感がある、言葉詰め詰めで畳み掛けるような曲が人気で、こういうのがユプシロンだよねって言われているので、そこの括りに入るような曲を意識して作りました。

-何回か"もう嫌だ"というフレーズが出てきますが、同じ言葉でも場面によって声色や歌い方が違います。そのあたりもこだわりがありそうですね。

そうですね。何に対して"もう嫌だ"って言っているかが全部違うっていうふうに受け取ってほしくって、それは意識しました。曲調的にはボカロ好きに刺さりそうかなって思うんですけど、それを生の人間が歌う面白さも表現できていると思います。