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INTERVIEW

Japanese

ユプシロン

2023年09月号掲載

ユプシロン

Interviewer:高橋 美穂

疑問と妄想を壮大に膨らませたんです


-あと"シンデレラ"というタイトルですよね。「パラドックス」にも"人魚姫"のモチーフが"いっそ泡となって消えれたら"って出てきますけど、ユプシロンさんの作風にはお伽話の影響が感じられます。

小さいときからたくさん物語を読んだり映画を観てきたから、それを素直に出している......自分の感情と照らし合わせたときに、こういうことかな? って。お伽話とかをヒントに、自分の考えをまとめているところはあるかもしれないですね。

-ユプシロンさんの中にたくさん引き出しがありそうですもんね。

スカスカだったらどうしよう(笑)。でも、この楽曲ではどの引き出しから出そうかな? って考えてはいます。オマージュも抵抗なく使っていますね。自分から出てきたものです! って主張するんじゃなくって、ここからのオマージュですよって伝わるようにヒントをあえて入れるようにはしています。「シンデレラ」は"ドブネズミみたいに可愛くなって"ではじまりますけど、同じ"ドブネズミ"で始まる楽曲といえばTHE BLUE HEARTSの「リンダ リンダ」があるなって途中で気づいて。僕としては"ドブネズミ"は"シンデレラ"の物語からのインスピレーションだったんですが、あまりにも有名な楽曲だからどうしようって悩んだんですけど......"シンデレラ"の物語から出てきたフレーズだから恐れず使おうと決めて。でも尊敬の意も込めてサビに"釈迦もリンダもイエス・ノーじゃ語れないんだ"って入れました。

-「シンデレラ」の次にできあがったのはどの楽曲になりますか?

結構タイトな制作期間だったので「パラドックス」、「祭壇」、「ユビキタス」はほぼ同時進行で作っていたんですよね。

-これだけ濃い楽曲のアイディアが、よく同じ時期に湧き出てきましたね!

普段から、鼻歌が浮かんだらヴォイス・メモに入れるようにしているんです。たぶん1,000曲ぐらいワンフレーズがiPhoneに入ってます。そのせいでスマホがパンパンで(笑)。今回も結構そこから出しましたね。

-すごい! じゃあ「パラドックス」は、どんなアイディアから広げていったんですか?

「パラドックス」は丸サ進行(「丸の内サディスティック」進行)から作ろう、テンポも速めにしようって決めて、そこにサビのメロディを3個ぐらいのせて、一番耳触りがいいものを選びました。それこそヴォイス・メモに、サビの最後の"夢の続きを見る"っていうところだけアイディアがあって、そこから作っていったんですよね。昔描いていた夢ってみんなあったと思うんですけど、Twitterを見ていて、そういうのを働いている合間で叶えている人っているなぁって思って。会社で働きながら絵師さんをやっている方とかいらっしゃるんですよね。それって素敵だなって。日常の中で夢の続きを見ているんだなって思いながら書きました。

-なるほどね。夢ってファンタジーなイメージもありますけど、この楽曲は"明日やることもあるし/何かと予定埋まってるし"とか、現実的なところもあるじゃないですか。

そうですね。夢って美しくあるようで、実現しないみたいな。その反面、"夏休みの宿題"とか、超現実じゃないですか(笑)。2番では"人魚姫"の、夢が叶わなくて泡となって消えたら、それが美談になるのかっていうことを歌っていて。僕自身もリアルな世界で生きているんですけど、その中でファンタジーの世界に浸ってきたので、ふたつが融合した感じですね。

-「祭壇」も、現実とかけ離れているような壮大さがありながら、一方でグロテスクなほど生々しい、そういう世界観が融合されていますよね。

そうですね。(作編曲の)sachiさんにも、ファンタジーの映画作品のエンディングみたいな音にしたいってお願いしたんですよ。これは、今は食物連鎖の頂点に人類がいるけど、きっと昔は弱いほうにいたはずで、でも知力を持って食べられる心配がなくなった、その不自然さには代償があると思って。そういう妄想を音楽にしたんですよね。あと『ガタカ』というミニ・アルバムのテーマが、タイトルも映画の"ガタカ"から来ていますけど、そこでも描かれているDNAについてなので、自分の命はどこから来ているのか、神様が川で拾った石を選んだだけなんじゃないかっていう発想も入れたかった。そういう疑問と妄想を壮大に膨らませたんです。

-こういうお話を聞いていると、ユプシロンさん、物語も書けそうですよね。

あぁ、「「ハート」」(2020年11月リリースの2ndデジタル・シングル)っていう楽曲を出したときにフォトブック("「ハート」フォトブック")も出して、そこにショート・ショート("棘")を書いたことはあります。星 新一さんのショート・ショートが大好きなんです。現実とSFとファンタジーの融合、みたいな。

-ルーツのひとつひとつが腑に落ちますね!

わりと素直に受け継いでいると思います(笑)。あと「祭壇」に関しては、sachiさんの色がすごく出ていると思うんです。ほかの楽曲でも出ているんですけど、どちらかというと僕のオーダーに寄せてくれているというか。「祭壇」は、sachiというアーティストとしてもやりたかったことなんじゃないのかな、って。聴いたときニヤニヤしちゃいました(笑)。

-sachiさんファンも必聴ですね。

そうですね。あと、この曲は歌をひと息で歌うようにして。特に"わからずに/貴方を喰らい尽くす"は苦しそうに聴こえると思うんですけど、これ、わざと呼吸をせずにひと息で歌ったんですよ。

-だからリアルに聴こえてくるんですね。そしてラストに収録されている「ユビキタス」ですが、ほかの楽曲はいろいろなものが重層的に聴こえてきますけど、これは歌声も素直だし、演奏もピアノ一本だし、日常的な歌詞も含めてすごくストレートですよね。最後の最後にすっぴんを見せる、みたいな。

まさに、最後にすっぴんを見せた感じですね。自分はUVERworldのTAKUYA∞(Vo)さんやONE OK ROCKのTaka(Vo)さんに影響を受けたんですけど、彼らもアコギやピアノ一本で歌うことがあって、そこに憧れもあって。そういう意識もあって、かなり現実的な曲になったと思います。ある意味ドラマチックではない。自分の感情はこうだよって、ひたすら言っているだけなので。こういう楽曲は初めて作りましたね。

-ユプシロンさんの楽曲は様々な作品や学問からの影響や多彩な比喩も見えますし、歌声も七変化しますけど、「ユビキタス」で素を出すことに照れはなかったんですか?

ありますね。音数が少ないほうが粗も見えるし、恥ずかしいじゃないですか。でも、照れて然るべき曲というか。それだけ、初めて素を出したと思います。録り直しせずに、一本つるっと歌うことも意識しました。エンジニアさんにも、なるべく修正しないようにお願いして。

-改めて思うんですけど、ユプシロンさんはバーチャル・シンガーだけどリアルを歌っていて。バーチャルとリアルって対極ですけど、そこも融合させていますよね。

僕の場合は最初から、リアルにも存在していると言っているので。世界観の中だけに閉じこもっているユプシロン像を見てほしいっていうのはないんです。ただ、もともと妄想の世界にいる時間が長いタイプなので、そこがバーチャルっぽいのかなとは思います。

-そういう意味では、リアルが感じられるライヴもどんどん観ていきたいですね。

そうですね。『ガタカ』にリアルイベント参加応募券がつくんですけど、応募していただくと抽選で10月15日のリリイベにご招待するんです。そこでは生歌を披露します。ぜひ遊びに来てください!