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INTERVIEW

Japanese

ユプシロン

2024年06月号掲載

ユプシロン

Interviewer:高橋 美穂

14歳の僕と3年前の僕と今の僕がコラボしているミニ・アルバムになりました


-でも、ミクさんバージョンで作ったときは、自分で歌うことを想定していましたか?

まったくしていませんでした。だから、やりたい放題だったし、ほぼ息継ぎもないし。ある意味、ミクちゃんならなんでも歌えるっていうことで、自分が歌わないことを想定して作ったから。それを歌うことになったので、ヒーヒー言いながらレコーディングしました。『ガタカ』の前に、インディーで2枚ミニ・アルバムを出したとき(2022年リリースの『シロン』、『セイロン』)も、入れようか悩んで断念したんですよ。だから、今回は3回目の挑戦で、やっと思い通りに歌えました。

-限界に挑戦するようなハイトーンとスピード感で、本当に人間技じゃない(笑)。

人間技じゃないですね(笑)。サビはまだいけるんですけど、Aメロのグルーヴ感がとにかく難しい。

-ライヴはどうなるんですかね?

......が、が、頑張りまーす(笑)!

-ユプシロンさん、歌うことで成長しようとしているような楽曲が多いなかで、「RED」はその象徴というか。これをライヴで歌い上げたら、ご自身でも気持ちいいでしょうね。

そうですね。僕の曲、課題曲っぽいのがたくさんあるんですけど、これはトップ・レベルで難しい曲ですし、ずっと課題曲になると思います。やっぱ、1回ミクちゃんで正解を出しちゃっているから、ミクちゃんでいいじゃん? って思っている自分もいて。そういう意味でも難しいんですよね。ミクちゃんっぽく歌うことは、もちろんできないんですけど、無機質に歌うのがいいのか、逆にエモーショナルに歌うのがいいのか、すごく試行錯誤しながら。グルーヴが難しいのもありつつ、感情の持っていき方が......ある意味、僕が初めてミクちゃんに楽曲提供したような感じだったので、そこで"これでいいじゃん"って思っちゃっているから、そう思わないのはどういう歌だろう? って悩みましたね。

-歌詞は、当時どういう想いを込めていたんですか?

ミクちゃんが、僕に歌ってくれているイメージで作詞しました。今作は、実は歌詞を1ヶ所だけ変えていて。1番と最後のサビが、ユプシロンバージョンでは"ギリギリのところで生きている君に/誰かの声など届くでしょうか"になっているんですけど、ミクちゃんバージョンは"わたしの声など届くでしょうか?"なんですよ。MVイラストも1ヶ所だけ間違い探しが入っています。ミクちゃんバージョンを出したときに、のちのちのユプシロンバージョンのために描いてもらっていたんですけど、(MVのイラストレーションを担当した)Eめるさんも、まさか3年後に世に出るとは思っていなかったと思います(笑)。もちろん改めて今回出ることをご連絡しました。

-やっと辿り着けましたね!

はい。インストのミックスも変わっていて。ギターも、安島龍人さんに弾き直してもらっています。

-ちなみに『シニフィエ』のテーマにも合うと思ったから入れたんですよね?

そうですね。すごく『シニフィエ』らしいなって思ったので。連想ゲームみたいな歌詞が「RED」の中にいっぱい入っているんですけど、"ユプシロンの「RED」"というシニフィアンを聞いたときに、みんなどんなシニフィエを頭の中に浮かべるのかって感じです。

-その次に入っているのは「scar;prayer」ですけど、これはどのタイミングで書かれたんですか。

これは、中学生のときにポエムノートを書いていたんですけど、そのときに作っていた曲です。ピアノの練習が嫌だなって逃避して作詞作曲を始めた頃(笑)。

-「RED」よりも以前の楽曲が入っているとは!

はい(笑)。中2くらいだったかと思います。いつもアルバムを作る際に、1曲は好き放題やる曲を入れさせてもらうんです。で、僕の黒歴史のポエムノートが3冊あるんですけど(笑)、それを久しぶりに見返していたんです。字汚いなぁとか思いながら(笑)。"絶望"ばっかり書いてあるなぁとか(笑)。中2だな! って。その中に何曲か、ポエムにメロをつけていたものもあったんですけど、それを覚えていて、完成させてみようかなって思ったのが「scar;prayer」でした。当時は"scar"=傷跡っていうタイトルだったんですけど。実はそのときのメロも歌詞もほぼ変えていなくって。A、B、サビぐらいまでは当時の感じ。2番サビ以降を書き足した感じで、中2のときの僕がそのまま出ています。

-当時から才能を感じますね。

どうなんでしょう(笑)。でも、過去の自分とのコラボって、面白いと思って。

-そのポエムノート、3冊あるわけだから、ユプシロンさんは黒歴史っておっしゃいますけど、私たちリスナーからしたら、これからも掘り起こされるかもしれないお宝が詰まっているわけですよね。

(笑)どうだろうなぁ? まぁ、昔の自分からインスパイアされることもありますけど、99パーセントは使えないと思います!

-いや、そう思っていた中からダイヤモンドが発掘されるかもしれない。

そうなったらいいですね。だからノートは大事に取っておきます(笑)。

-そうしてください(笑)。歌ううえで意識したところはありますか?

遠くへ向けて、昔を思い出しながら歌いましたね。いろいろあったなぁ......じゃないですけど(笑)。あと、当時のことを思い出して。"どういう気持ちで文章を書いたんだっけ?"、"このときって、こんなことがあったな"とか。ただ、この曲を完成させるのに、そのまま中2の自分を掘り起こしてもつまらないから。当時の自分とのコラボにしたかったんで、どうやったら完成にできるかな? って。で、最後にテンポを倍にして走り去る感じにしようと思いついて。この曲、BPM 100なんですけど、最後200の倍テンになって、場面がガラッと変わるっていう。この展開を思いつけたから、「scar;prayer」を採用したんですよね。

-なるほどね!

ずっと寂しい気持ちだったり、一緒に戦っていた戦友が散り散りになっていったりするって歌っているんですけど、最後は左手と右手を繋いだらまったく同じだった、要は自分自身だったというオチになるんです。で、両手を組むと祈っている形になるから"scar;prayer"=傷跡と祈る人っていうタイトルになって、この曲を完成することができたんですよね。

-すごいストーリー性を感じますし、パズルみたいですね。

そうですね。まさにパズルみたいな感じで作りました。で、最後のピース......それこそ(大好きな)"ONE PIECE"が自分の中で決まったので、完成させようと舵を切ったんです。

-今、中2の自分に胸を張りたい気持ちもあるんじゃないんですか? あのとき、ノートに書き殴ることしかできなかったやるせない想いが、こうしてたくさんの人に聴いてもらえるような形でリリースできるんだから。

どうだろう、まだ胸は張れないかもしれないですけど(笑)、14歳の僕に"こんなんでどうですか?"って言いたい気持ちはあります。14歳の僕は遠くへ旅立ってしまっているので、"遠くへ旅立ってゆく友よ"なのかなって。でも「scar;prayer」は、sachiさんのアレンジがあったからこそ完成できたとは思いますね。これは絶対にこんな感じにしたい! っていうのがあったので、めちゃくちゃ伝えて。sachiさんのおかげで、当時のイメージ通りに完成させることができました。

-「scar;prayer」にしろ、「RED」にしろ、いろいろ着々と叶えていると感じられるのは確かですよね。

そうですね。そういう意味では、14歳の僕と3年前の僕と今の僕がコラボしているミニ・アルバムになりました。

-原曲を作った時期はバラバラなミニ・アルバムですけど、先日のライヴでもおっしゃっていたように、生きるための居場所としての音楽っていう目的が貫かれている作品であり、それこそがユプシロンさんの活動する意味なんだなって、改めて思いました。

初期から言っているのが、なんで歌うかって、自分の居場所を見つけていくためという。自分自身、居場所がないって思っていた時期もあって、でもイヤホンで耳を塞げば寄り添ってくれる音楽――自分だけの世界があって。音楽って、居場所がないときや、落ち込んでいるときに助けてくれるものだったから、自分もそういう音楽を作りたい気持ちは変わらずにありますね。音楽を作る理由はずっとブレてないなっていう、点が線になった感じがあります。

-歌詞にもなんかしらの形で生きるというメッセージが込められていますし、音にも心臓の鼓動のような力強さを感じました。

ありがとうございます。まさに「scar;prayer」のラスサビの前は、心臓の鼓動のような音にしてほしいって言ってsachiさんにアレンジしてもらったんです。そんな"生"の音のするこの曲を、アルバムの最後に入れようって決めて作り進めました。

-今作で、よりユプシロンさんの貫いているものが伝わると思います。

伝わっているといいなぁ。伝わったかなぁ? まぁ、言ってしまえば伝わっていなくてもいいので、面白いなって思ってもらえれば嬉しいです。

-7月にはリリース・イベントもありますし、これからも楽しみですね。

たくさん練習しなきゃなって思います(笑)! 頑張ります。