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INTERVIEW

Japanese

Absolute area

2022年12月号掲載

Absolute area

Member:山口 諒也(Vo/Gt)

Interviewer:稲垣 遥

好きって感情や愛情があるから傷つくことができると考えているので、 回りくどい言い方をするけど、これが僕の最大のラヴ・ソングなのかな


-たしかにそうですね。そして、「いくつになっても」は歌詞の物語に惹き込まれます。ライヴでもすでに演奏している曲ですよね。

そうですね。結構"いい"って言ってくれてる人は多いですし、初披露したのは去年の10月のWWW Xのワンマン("Absolute area one man Live2021 「あの約束の埋め合わせを」")で、そのときから早く音源で聴きたいみたいな声もあったので、今回やっと出せます。この曲の歌詞はアブソらしいというか、すげぇ遠回りだなみたいな(笑)。"いくつになっても傷付きあう2人でいよう"って、前にリリースした「カフネ」(2019年11月の配信シングル)で伝えたかったことと結構類似しているような気がしてて。大人になっていくにつれて、昔だったら傷つくようなことだったとしてもどんどん鈍感になっていくというか、傷つかなくなっていく。それっていいことなのかな? って思ってて。好きって感情や愛情があるから傷つくことができると考えているので、回りくどい言い方をするけど、これが僕の最大のラヴ・ソングなのかなという。

-どうしても人間って順応していくものだし、よく長年連れ添った夫婦やカップルが"空気みたいな存在"とか言いますけど、そこじゃないものを山口さんは求め続けてるんですね。

はい。敏感でいたいというか。でも僕結構鈍感なほうなんですけど(笑)。自分が傷つかなかったり、感情が変に大人になってしまったりしている気がするので、そこに抗うための歌詞なんじゃないかなって思いますね。

-「ANNIVERSARY」もラヴ・ソングですが、作品の流れで聴くと、どんどん歌詞のカップルが年を重ねているような感覚です。

そうですね。この曲も設定は「いくつになっても」と似たような感じなんですが、長く一緒にいることによってなくなってしまうこともあるけど、逆にそれを肯定していて。この曲は歌詞が自分の中でも気に入ってるんです。冒頭の"君が思っている通り/8割くらいは僕が悪くて/投げやりな気持ちでもまだ/守り続ける残りのたった2割を"は僕の性格をすごく表しているというか、男女の恋愛ってそうなっちゃうんだろうなと思うし、きれいに書けたなって感じがしますね。

-幸せな瞬間でもなくて、何か事件が起きたシーンでもない、この絶妙な温度感を描いている曲はなかなかない気がします。

ファンタジーよりも日常を描きたいって思っているからこそ、この曲はすごく日常に溶け込んだ曲になってるかなと感じますね。

-「橋を越えれば」は先日ライヴでも演奏されていて、すごく情景の浮かぶ曲だったので印象に残っています。学生時代、橋を越えたところに好きな人が住んでいたというところからできた曲でしたよね。

はい(笑)。この曲は人と人の距離感をうまく描けた曲だなと。ヒロインは僕の中では中学時代に恋愛をしていた人で、その後ずっと大きな存在で、音楽を始めるきっかけになった人で、「遠くまで行く君に」(2019年4月リリースの2ndミニ・アルバム『無限遠点』収録)とおんなじ人なんです。あの頃は橋をひとつ渡れば会えた近い存在だったんですけど、内心では遠い存在に感じていたと思うんですよ。でも時が経って、距離的にはすごく遠くにいるんだけど、心の中では近い存在になっているというか、ずっと心の中にいてくれるというか。新しい自分を生み出していく、前に進んでいけるのはあのときの記憶や相手の存在があるからで、だから遠いけど近くに感じていて。そういう絶妙な距離感を歌うことがアブソは結構多いんじゃないかなと思いますね。

-橋という明確なモチーフがありますけど、子供の頃の橋って、越えるときになんだか違う世界へ足を踏み入れるような、わくわくしたりするものでもありますよね。

そう。2番の歌詞でボートの話があるんですけど、ほんとにボートがあって。今はめっちゃきれいになっちゃってるんですけど、昔は川にボートがめちゃくちゃ浮いてて、半分沈んじゃってるものとかもあって、そういうのを見ると中学生の頃ってうきうきしちゃうんですよ。

-いろんな想像をしちゃいますね。

そうなんです。飛び乗ったら怒られたりするのかなとか(笑)、よく考えていたからそれを思い出しながら書いたんですけど、今思うとむずがゆい、恥ずかしいことを考えていたな......っていうカミングアウトをしている(笑)。

-(笑)この曲は岸田勇気さんがピアノ/ストリングス・アレンジで入られていて、名だたるポップ・アーティストのRECにも参加している吉田宇宙ストリングスも参加していますね。

一応デモでも自分でストリングスを打ち込んで、こういう方向性とか雰囲気にしたいって岸田さんにお伝えして。返ってきたものを聴いてみたらめちゃくちゃ良かったんです。曲を作るときは自分が聴きたい音楽を作ってるんだなって思うので、岸田さんから返ってきたものを聴いてるときはすごく幸せな時間なんですよね。

-すごく繊細にノスタルジーをかきたてる、美しい1曲になっていますね。この曲に限らずですが、アレンジも相まって、大きな会場で聴いてみたい曲が増えてきた感じがします。

そうですね。この曲は"サマソニ"でも演奏してて。フェスだから盛り上がる曲だけで構成しようっていうふうな話ももちろんあったんですけど、"いや、僕はフェスでこの曲を歌いたい"と言って歌わせてもらいました。この曲ってすごく壮大な曲だし、大っきい会場で歌いたいなと思うので、曲と一緒に僕らも成長していけたらなって考えていますね。

-改めて振り返って、今作『Future』はどんな作品になりましたか?

プロのミュージシャンの方や素晴らしいアレンジャーさんと一緒にものを作れるっていうのは幸せなことだなと思うし、いろんなものを受け入れていって良かったなと感じましたね。

-アートワークも素敵ですね。何もないような代わり映えのない道でも進んでいけば虹という光に辿り着けそうな、そんな印象を受けました。でもこの空も鮮やかな真っ青とは言えないし、虹も消えてしまうかもしれないくらいの存在感で、あくまでも"もしかしたら辿り着けるかもしれない"という空気感がアブソっぽい"未来"の描き方のような気がします。

今回コロナ禍が明けたあとの未来を見据えてたって話をしたんですけど、僕にとってコロナ禍はちょっと空白の期間だったので、ほんとに橋を渡っているような感覚だったというか。きっと誰しもが未来に対して希望を抱いていただろうし、僕らもそれは同じだし、だからこのジャケットの景色は、その長い橋を越えた先にあるものじゃないかなって思いますね。

-なるほど。そして12月には本作を引っ提げて東京と大阪でライヴ("Absolute area one man live 2022「Fighter~未来への架け橋~」")を行うんですが、大阪は初ワンマン、東京は去年コロナ禍で入場制限があったWWW Xでフル・キャパで開催ということで、気合もひとしおなんじゃないですか?

そうですね。今回は新たにギターのサポートも入れて、5人体制になるんです。そこが一番大きな変化だと思うんですけど、今回は(映像などの演出を減らして)曲だけで勝負するつもりでいて。なので、その曲をどうアレンジしていこうかなみたいなところが大きいですね。やっぱりライヴの付加価値はつけていきたいと思ってますし、徐々に規制も緩和されているなかなので、とにかくファンのみんなと楽しみたいなっていうのが一番だなと考えています。

-最後に、『Future』は"バンドとしての「未来」を暗示する"作品とのことですが、リリース後や、来年のアブソはどんなふうに進んでいくのでしょうか?

今年は挑戦っていう1年だったんですけど、来年は実現の1年にしたいと思ってて。曲の壮大さに見合うような場所、もっと大きなキャパでライヴをしたいし、ちょっと今まで地に足がついてなかった感覚を払拭して、やりたいことを実現させていきたいなって考えています。