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LIVE REPORT

Japanese

Absolute area

Skream! マガジン 2024年02月号掲載

2024.01.28 @日本橋三井ホール

Writer : 石角 友香 Photographer:阿部瑞樹

主に恋愛を軸に人との距離感を綴ってきた山口諒也(Vo/Gt)が、メロディと言葉、つまり歌を作ることの意味を迷いや不安も正直に吐露しつつ、今回のツアーのために書き下ろしたのが新曲「Sing With You」だ。山口のパーソナルな想いであると同時に、Absolute areaというバンドが今、どんな視線を持っているのか、もっと言えばその存在意義めいたものも含まれるこの曲名を冠したツアー・ファイナルを観た。2024年の今、音楽に"普遍的"という形容を与えるのは危険だと思うが、最初に浮かんだのは紛れもなくその言葉だった。

バンドと同世代の20代のファンはもちろん、想像以上に幅広い年齢層のオーディエンスが集まった日本橋三井ホール。ライヴハウスとはひと味違う大人のムードも漂う会場。ステージ背景には白いドレープが施されているのみのシンプルなセットだ。オープニングは山口がギターをストロークしながらの弾き語りで「introduction」が始まる。自分にしかわからない憧れと逡巡を歌うこの曲は彼がなぜ歌うのかを示す、まさに1曲目に相応しい印象を残した。歌に寄り添い、より遠くに曲を届ける演奏も非常に端的だ。立ち尽くして観ていたファンのいい緊張をほぐすように温かな光を感じるピアノ・ポップ「いくつになっても」、シームレスに繋いだ「まだ名のない歌」では高橋 響(Dr)のラテンっぽいフレーズがフックをつけていく。スッと耳に入ってくる歌と、ポップスを今の時代にアップデートするリズムの解釈にニヤついてしまう。

山口が"今日という日をほんとにほんとに心待ちにしてました"と語り掛けると、会場の拍手もそうだが、メンバーが山口を見る表情の優しさにも目が行ってしまう。言葉ではわちゃわちゃしていても、3人の関係が勝手にわかる。MCでグッとほぐれたせいか、続く「少年」へのリアクションはよりヴィヴィッドに。続く「ひと夏の君へ」での気づきやちょっとした不安。自分は進んでいないような怖さを萩原知也(Ba)のよく動くダイナミックなフレーズが印象づける。ものすごくさりげないけれど、どこまでも歌が描く時間経過をたてるアレンジがいい。そして変則リズムのスネアに合わせてクラップが起きると、彼らのレパートリーの中ではダンス・ミュージックのテイストもある「SABOTEN」へ。淡々と歌われるAメロと、アイリッシュ・ミュージックや唱歌を思わせるサビメロの対照も面白い。

この日、最初の試みとして、アコースティック・セットがこのあと展開したのだが、殊更、説明することなく山口とサポートの松本ジュン(Key)、ヴァイオリンで中島優紀が加わった編成で「発車標」を披露。ファルセットを自然に盛り込んだ切実な歌声にピアノとヴァイオリンが駅のホームの景色を想像させるようだ。弦の本数が違うとはいえ、音源でしか聴けないアレンジだと思っていただけに、ライヴで集中して聴ける場面があるのはこのバンドの大きな強みだと思う。さらに「遠くまで行く君に」も言葉のひとつひとつが自分なりの情景や温度と相まって響く。恐らくあの場にいた人のほとんどが自分のこととして束の間の別れと、誰かを思う気持ちに浸されていたことだろう。このあとのMCで中島が加わったライヴ・アレンジは今回が初めてで、山口の念願だったようだ。

高い集中力から大きなギャップで、山口が中学時代、高橋にいきなり"ドラム教えてくれ!"と迫り、相当ビビらせたという話がフロアの笑いを誘う。なんでも、その頃、Justin Bieberに夢中だった山口はいろんな楽器を弾けるJustinに憧れていたのだとか。さらに萩原との身長差の話になり、この日は7センチ・ヒールのシークレット・ブーツであることを告白。"今日これで踊ったらコケるなって。Perfumeすごいわ"と、妙な感心の仕方をしていた。

より空気が温まったところで、グッとライヴ・アレンジのダイナミズムが加わった「ANNIVERSARY」、聴かせるミディアムの名曲は次の「失恋歌」と続く。失恋を歌いながら、少し前の自分がどんな自分であったのかをひとつひとつ書き出していくような胆力というか、その覚悟が、シンプルな曲を力強く前進させているように思う。山口のルーツであるMr.Childrenの影響を感じさせるのは、その胆力なのではないか。思いっきりエモーションを後押しするサポートの坂本夏樹(Gt)のギター・ソロもどこまでも曲が求めるアレンジとして響くのだ。さらにもう一段、ヴォーカルがゾーンに入った感じの「カフネ」も圧巻だった。

そして新曲「Sing With You」の前に、山口はこの曲を作る気持ちの発端を話した。"世の中に何十億、音楽があるのにAbsolute areaになんで出会ってくれたのかなって。何よりライヴに足を運んでくれるって、なかなかならんのよ。そんなことを考えて一緒に歌えたらいいなと思ってこの曲を作りました。一方的に投げ掛けるものじゃなくて、みなさんのものになって一緒に人生を歩んでいければいいなと思っています"と。このくだりで彼の飾らない、そしてちょっとユニークな人柄が溢れて、"たった12音の中を 迷っている"し、"12音の中で 息をしている"彼の決意と迷いは何かを作り続ける人につきものだが、この曲ではメンバーの"ラララ"のコーラス、そしてライヴではオーディエンスの"ラララ"も加わって、お互いの存在を確かめ合うようでとても美しかった。

ライティングがスッとフロアを横切り、シーンが切り替わるように「ノスタルジア」、続く「いつか忘れてしまっても」ではストリングスが同期で加わり、バンドのグルーヴに揚力を与えるようだ。そしてラストはバンド、人生の決意を思わせる「僕が最後に選ぶ人」をセット。演奏の緩急にロック・バンドのダイナミズムと人生の紆余曲折を投影しているようなアレンジは最後まで貫かれた。エンディングでオーディエンスに向けて放たれた強力な光は、歌詞にある"君みたいな人"を指しているかのようだった。

アンコールはまずメンバーだけで登場し、「reborn」を披露し、この日最もネイキッドなロックを聴かせ、正真正銘のラストは新曲をサポート・メンバーを含めた6人で演奏。"ただの友達になる前に"と題された、ポップでダンサブルなこの曲で山口はフロアに降り、会場をぐるっと回りながら客席の男の子とハイタッチするなど、新たにエンターテナーの側面も見た印象。まだまだ見せていないAbsolute areaの底の深さが楽しみになる、2024年の始まりだった。

なお、3月、5月、7月に開催される自主企画ツーマン"Absolute area 2man Live2024「ふたりのり」"も発表された。


[Setlist]
1. introduction
2. いくつになっても
3. まだ名のない歌
4. 少年
5. ひと夏の君へ
6. SABOTEN
7. 発車標(Acoustic Ver.)
8. 遠くまで行く君に(Acoustic Ver.)
9. ANNIVERSARY
10. 失恋歌
11. カフネ
12. Sing With You
13. ノスタルジア
14. いつか忘れてしまっても
15. 僕が最後に選ぶ人
En1. reborn
En2. ただの友達になる前に

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