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INTERVIEW

Japanese

小林太郎

2022年02月号掲載

小林太郎

Interviewer:吉羽 さおり

2020年にデビュー10周年を迎え、ソロのロック・ミュージシャンとして高らかに、その馬力のあるヴォーカルとほとばしるエネルギーを豪快に放ってきた小林太郎。近年はEPや自身のレーベル"MOTHERSMILK RECORD"のレーベルメイト、Academic BANANAとのスプリットEP『ESCAPE』で、新たな面や音楽的広がりを提示してきた。そして、久々のフル・アルバム『合法』はこのタイトルに感じる、どこかヤバげでヒリヒリとしたロック、そして真正直にど真ん中を撃ち抜いていく小林太郎のロックが、堂々と鳴っている作品となっている。オルタナ、ヘヴィ・ロック、ミクスチャーから繊細で叙情的な曲までとサウンド面はバラエティに富みつつ、そのすべてを強いエネルギーが貫いている今作。その制作の背景について話を訊いた。

-フル・アルバムとしては2015年の『URBANO』以来ですが、まずは久々のフル・アルバムということでどのように作品に向かっていったのでしょうか。

実は、2019年にAcademic BANANAとのスプリットEP『ESCAPE』を出したあと、すぐにフル・アルバムのリリースを考えていたんです。でもコロナの影響を受けて、計画していたワンマン・ライヴが中止になってしまって、そのあとに予定していたアルバムの発表もどんどん後ろ倒しになってしまって。順番通りには進んでいるんですけど、時期的にはだいぶずれ込んでしまった感じだったんです。

-では当時から曲は準備していたんですか。

全部ではなかったですけど、この曲とこの曲を入れようとかは準備していたんですが。ただ当時考えていたフル・アルバムは、僕の趣味に近いというか。絵を描くことが好きなんですけど、その自分で描いた絵の世界観に音楽をつけるような、趣味性の高いものを想像していたんです。今回の『合法』とはまったく違ったものでしたね。ただ、僕を含めていろんなミュージシャンがコロナ禍でライヴができなくなって、音楽を取り巻く環境が大変な状況になってしまったのと。音楽以外でも、例えば当たり前に出社していたのがリモート・ワークになるとか、社会の仕組みが変わるくらいの大変な出来事って、これまでにない歴史的なことで。

-コロナ禍の数年でいろいろなこと、社会も人の心情なども変化した感覚がありますね。

そういうなかで趣味性の高いアルバムを出すのは......それでも別によかったとは思いますけど、例えば僕の音楽を聴いてくれるのは、ポジティヴな感情になりたい人とかが多いと思うんです。それなら、その音楽を使って少しでも誰かの背中を押せたり、人の役に立つ、貢献できたりするものを作りたいなと思い始めたんですよ。アルバムの1曲目「骨伝導」は、そういう思いで作った曲でもありますね。

-「骨伝導」は、まだまだ気持ち的には整理のつかないこともあるけれど、でもそのなかでも心のままに歌っていくんだという小林さんの意志が詰まった曲ですね。ほかの曲も、ただ誰かを応援するわけでもなく、小林さんの素直な気持ちや揺れる想いも感じ取れるものがあって、真摯な作品だなと思います。

そうですね。作ってるやつがこんな感じで変わらないですからね(笑)。外的な要因ってなかなか変わりづらいと思うんです、例えばコロナはなくなってほしいけど、明日にもなくなるかと言えば難しい状況だし。じゃあ現実的にできることは何かと言ったら、自分を納得させることというか。自分の気持ちを整理して、理解や把握をして、明日から自分の行動を良くすることが現実的だと思うんです。そういうのを音楽や歌詞で言ってあげたい──これは、自分に対してもですけどね。

-こうしたアルバムにしようと意識して最初にできたのが「骨伝導」で。逆に最後のほうにできてきた曲はどのあたりですか。

アルバム後半の曲たち、「SeaSwallowTale」、「覚えちゃいないよ」、「伝波」あたりはあとのほうに作っていますね。たまたまバラードやミドル・テンポの曲が中心にはなったんですけど、このアルバムをどうしたいかが自分で熟成されたタイミングでもあるので。歌詞やメッセージを乗せるのが非常に楽しかったし、スムーズだったのはありましたね。

この曲はイントロや音だけの部分で言えば10年前とかに作っていたもので。当時Aメロはちょっとあったんですけど、曲としてどうすればいいかが全然わからなかったんです。音の世界観は素敵なものが浮かんでいて、でもそこにきれいな言葉を並べただけでは、抽象的になりすぎてしまってもったいない気がして。ずっと作らずに置いておいた曲だったんです。それをこのタイミングでこの曲なりの前向きさ、力強さ、切なさみたいなものを生かしてフル尺の歌詞やメロディを作りたいと考えて。今回のアルバムの中では、結構抽象的な曲だとは思うんですけど(笑)。

-どちらかというと最初に話に出ていた、絵を音にするというイメージに近いですね。

そうですね。なので、今回の『合法』へと進んでいく以前の作品に入れようと思っていた1曲だったんですよね。なので、ちょっと異色な曲かもしれないです。

-この曲があるからこそアルバムとして説得力があるというか。サウンドや歌に宿る切なさ、哀愁が、このときこういう時代だったよねという匂いのようなものも感じさせていると思いますよ。

ありがとうございます。ほかの曲での前向きさに比べると、この「SeaSwallowTale」は、切なさや孤独感みたいなものをずっと抱えながら進んでいく感じですしね。アルバムとしてはポジティヴになってほしい思いがありますけど、今の社会的な状況ではポジティヴになりきれないときもあると思いますし。そういう側面を表現できたのかなとは感じています。音のイメージとしては、小さな鳥が大海原をひとりで飛んでいるイメージで。大海原は凪の状態で、自分以外は変化していない世界で、澄んだ空気があって──とすごくきれいな映像が思い浮かんでいたんです。映画で言えば、新海 誠監督の描く美しさとか光の感じというんですかね。

-繊細で、キラキラとした感じですね。

あの世界観って非常に美しいんだけど、じゃあ幸せなオーラで満ちているのかといったら、切なさや儚さとかは、なんかひと癖ふた癖ある現実感があって好きなんですよね。この曲はそれを音で表現したいなと思っていたので、ギターのフレーズはもちろん、キラキラとしたシンセやファルセットのコーラスを重ねたりもして。他の曲では表現できなかった今の状況を形にした曲ですね。きっと、人によってはこの状況をうまく捉えられていない人もいると思うんです。助けがない感覚に陥ってしまうこともあると思うんですけど。その孤独感をそのまま受け入れることも、見方によってはすごく美しかったりする。そういうのを音や歌詞で表現したかったんだろうなと思っていますね。

-以前からあった曲ということでは、「sickness」も高校時代の曲だそうですね、ここにきてこの曲が収録となったのは何が大きかったんですか。

最初に言っていたワンマンが中止になって、何も発表できるものがない時期になってしまいそうなタイミングで、「踏み出す一歩目」と「sickness」を単体で配信リリースをしたんです。「踏み出す一歩目」に関しては、コロナ禍以前の曲ではあるんですけど──

-そうだったんですか。それでいて今回のアルバムを締めくくるに相応しい、まさにポジティヴに背中を押す曲ですよね。

もともとは就活生や新社会人、新生活を始めるみなさんへの応援ソングで、これはEP『SQUEEZE』(2018年リリース)の特典として収録していた曲だったんです。コロナ前の曲とはいえ、この120パーセント前向きなメッセージが非常に僕は好きでして。それこそ当時ワンマンが中止になったときに、世に発表できれば個人的にも嬉しいし、この曲で前向きになる人がいてくれたらいいなという感じでリリースをしたんです。同じタイミングで「sickness」もリリースしたんですけど、これは歌詞の世界観としては孤独を歌ったもので。10年前から小林太郎を聴いてくれている方や、ライヴに来てくれていた方に知ってもらっている曲だったんですよ。でも正式にリリースしたことはない曲だったので、そこでアカバナ(Academic BANANA)にリアレンジしてもらってリリースしようとなって。