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INTERVIEW

Japanese

saji

2019年11月号掲載

saji

saji(ex-phatmans after school)

Official Site

Member:ヨシダタクミ(Vo) ユタニシンヤ(Gt) ヤマザキヨシミツ(Ba)

Interviewer:山口 哲生

自分の中で未踏の地みたいなところがまだあるんです


-先ほど、今回の収録曲は"夢"がテーマになっているというお話がありましたけど、そもそもヨシダさんの歌詞って"夢"というワードがよく出てきますよね。

ヨシダ:めちゃくちゃ出てきますね。そこは意図して入れるようにしていて。曲のセルフ・ライナーでも喋りましたけど、夢ってどんな場面でも使える言葉でもあるんですよね。なりたい自分という意味での"夢"もあるし、未来とか将来みたいな意味での"夢"とか、あとは恋愛においても使える。だから......これは僕が歌詞を書くうえでも、聴くうえでも一番重視していることなんですけど、曲って世の中にたくさんあるじゃないですか。時々刻々とたくさんのアーティストたちが新曲を世に出していて。その膨大な曲たちの中で、リスナーは自分に当てはまる曲だけを選んでいくんですよね。アルバムの中の好きな曲だけを買うことができる、サブスクで好きなアーティストの好きな曲だけをピックアップして聴く時代において、歌詞はなんのためにあるか考えると、曲をより自分自身の身近に感じるためのものだと思うんですよ。ラヴ・ソングってまさにそうじゃないですか。"わかる、この気持ち!"っていう。あと、より一歩ディープなことを歌えるかどうかという部分もあって。表面的なことじゃなくて、日常においては気持ち悪いと思われることを書いたほうが響くと思うんです。

-というと?

ヨシダ:例えば、"あのとき君に貰った歯ブラシ、今もまだ使ってるよ"って普通に言われたら、超気持ち悪いじゃないですか。だけど、歌詞になるとそれが響く人もいるんですよね。曲を聴いたときに、"私も彼氏と一緒に買いに行ったマグカップ、別れたあともまだ使ってます"みたいな。

-あぁ、なるほど。共感するというか。

ヨシダ:で、僕がなぜ"夢"という言葉を入れるのかというと、夢という言葉を聴いたときに、その人にとって"たぶんこれは俺のことを歌ってる"って思うことが多いと思うんです。自分としてはそういう意図じゃなかったとしても、聴いてくれた人にとってその歌がそういうものになってくれるのであれば、僕はそれでいいと考えていて。だから、自分にとっての歌詞って、共感できるかどうかに尽きるんですよね。曲以上に歌詞は好き嫌いが出るので。だから、そこは僕の中での手法のひとつというか。

-その手法の代表的な言葉が"夢"であると。

ヨシダ:そうですね。あと、「猫と花火」では書いているけど、"愛してる"ってほとんど使わないんですよ。普段そんなに言わないし。"愛してるの言葉じゃ足りないぐらい君が好き"みたいな気持ちになることは、もちろんあるんだけど、カッコつけてしまうというか。男って恋愛においてヒロイックになりたがりません?

-そういうところはありますね。

ヨシダ:なぜか知らないけど、男って女の子を守るんだ! っていう気持ちでいるじゃないですか。女性にしてみたらわからないですよ? うるさいなって思ってるかもしれないけど。でも、男は"女性は好きな人に守られたい願望がある"って勝手に思っているから、ヒロイックになりたがるんだろうし、そういう自己犠牲の精神みたいなものが、男は恋愛においてあると思うんです。僕があまりラヴ・ソングを書かない理由としては、今一歩、気持ち悪くなれないんですよね。カッコつけてしまって、さっき話したようなディープな一歩を踏み込めないというか。だから、そこでカッコつけなくなったときに、また面白くなるんじゃないかなと思っているんですけど。

-たしかに。

ヨシダ:僕は斜に構えて生きているので、そこが自分の良さなのか、それとももうちょっと突っ込んだ部分に良さがあるのか、自分の中でまだちょっとわからないところもあるんです。特に歌詞は人間性が出るから、人の書いた歌詞を見ていて、"この人、よくこんなことまで書けるよな"って尊敬するときもありますし。だから、sajiとしての1stシングルはこういう表現になっていますけど、これが今後どうなっていくのかは、僕の生き方ひとつだなと思いますね。"夢"って歌わなくなるかもしれないし、あるいは、現実ではない物語の語り部みたいになるのかもしれないし。

-今以上に歌詞に自己投影をしていくのか、それともストーリーテラーになっていくのか。ここからsajiとして曲を作っていくうえで、いろんな可能性があると。

ヨシダ:そうですね。自分の中で未踏の地みたいなところがまだあるんです。バンドのキャリアとしては長いけど、新たなフィールドに立ったことで、いろんな方たちが僕らの音楽をどう受け止めて、どう解釈していくのかで、僕の生き方も変わっていく気がします。

-12月18日には代官山UNITでのワンマン・ライヴ"saji 1st Live 2019~尾羽打チ枯レズ飛翔ケリ~"も決定していますが、ここから改めて3人で活動していくにあたって考えていることはありますか?

ユタニ:僕自身、もっとレベルアップしたいですね。

ヤマザキ:トークもパフォーマンスもレベルアップして、ライヴに来てくれた人をもっと楽しませられるようになっていきたいです。

ヨシダ:エンタメ性をもっと高めていきたいんですよ。やっぱりCDとライヴは別モノだし、ライヴって非日常だと思うんです。CDでは見れなかった景色がライヴにはあるわけですし、バンドなんて特にそうで。だから、CDではギターがそこまで入っていなくても、ライヴではアプローチが変わるだろうし。ユタニ君がどんなMCをするのかとか、どんなことをするのかとかも。大きいハコになったら空飛ぶかもしれないですからね。

ユタニ:いろんな意味でライヴ・バンドになりたいとは思いますね。音源だけじゃなくて、sajiのライヴってこういうことしていて、こんなに楽しいんだ、行かなきゃわからなかったっていう。

ヨシダ:まぁ、はたしてそれをライヴ・バンドというのかはわからないけどね(笑)。ライヴ・バンドって、演奏がバチクソうまいとかそういう感じだから。でも、それはめちゃくちゃ面白いと思う。

-ライヴでしか感じられないものがあると考えると、それはまたそれでライヴ・バンドですよね。

ユタニ:そうですね。空を飛んだと思ったら、今回はアンプが爆発しましたとか(笑)。

ヤマザキ:擁護するわけじゃないですけど(笑)、タクミはヴォーカル然としていて、俺はたぶん、曲を表現するほうが得意だと思うんですけど、ユタニは俺ができないようなこと、お客さんとの距離感を詰めたり、楽しませたりするパフォーマンスの部分が得意だと思うので、3人ともそれぞれパワーアップしていけたらいいなと。

-改めて、バンドとしての目標とかはあります?

ユタニ:昔からずっと武道館でやりたいって思ってます。

ヨシダ:"ステレオタイプみたいなミュージシャンになろう"という話を、ユタニとよくするんですよ。ある種、音楽だけで成功した人間っぽいことをわかりやすく体現できれば、それこそ"夢"の話でいうと、"売れたらああなれるんだ"って思えるわけじゃないですか。そういう意味では、今で言うところのYouTuberのお金の使い方って、僕は結構正しいと思っていて。

-すごくわかります。

ヨシダ:例えば、この前HIKAKINさんがやってましたけど、iPhone11全機種買って水没させるとか。僕らは正直ちょっと引いちゃうところもあるけど、あれを子供たちが見たら、"すげー!"ってなるわけじゃないですか。だから、自分に発破をかける意味でも、成功者というものをわかりやすく体現する、こうすればこうなれるっていうものを見せられるかどうかが、若い子たちの夢になると思うんです。僕は、ミュージシャンにはそういう人間になってほしいですけどね。今は世の中的に下手なこと言えないし、萎縮しちゃうところもあるかもしれないけど、ただ、僕に言わせれば、僕は社会不適合者なんですよ。"もし音楽をやっていなかったら......"の典型みたいな人間なんで。だから、誤解を招く発言になるかもしれないけど、バンドでお金を稼いで食っていきたいって言ってる人間が、はたしてマジメな人間ぶる必要性があるのか? って思うんです。

-僕もそう思います。

ヨシダ:だから、僕らはまともじゃないということを自覚したうえで、どれだけ自分の人生を賭け続けられるかということだと思うんですよね。犯罪に手を染めたらダメですけど、ある種、まともじゃない人間だからこそなれたというのが、この世界の華だと思うし、どれだけ自分の身を削っていけるか。それをみんなが楽しんでくれて、共感してくれた数だけ僕らも大きくなれると思います。