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Japanese

saji

Skream! マガジン 2020年01月号掲載

2019.12.18 @代官山UNIT

Writer 山口 哲生 Photo by 牧野健人

改名後初のワンマン・ライヴを代官山UNITにて開催したsaji。この日を待ちわびていたオーディエンスが殺到し、チケットは瞬く間にソールド・アウト。人で溢れかえったフロアに向けて、3人は改名後の1stアイテムとなった『ツバサ』の収録曲はもちろん、phatmans after school時代に発表した作品の中から満遍なくセレクトした楽曲を、続々と放ち続けた。また、"特別なライヴなので、みんなをハッピーにしたいと思って、いろんな準備をしてきた"ということで、内容も盛りだくさん。再び歩み始めた決意と喜びに満ちた大切な1日を、オーディエンスと分かち合っていた。

照明が激しく明滅を繰り返し、低音を効かせたSEが鳴り響くなか、まずはユタニシンヤ(Gt)がステージに登場。フロアにクラップを求めているところに、ヨシダタクミ(Vo)、ヤマザキヨシミツ(Ba)、サポート・ドラマーのテディが姿を現し、持ち場につく。そして「形而上パラドクス」でライヴをスタートさせると、一気に駆け出し始めた。続く「ノットビリーバー」もかなり豪快で、ユタニがフライングVのギターを派手にかき鳴らせば、ヤマザキはどっしりと構えながらスピード感迸るフレーズを奏でていく。大合唱が巻き起こった「過去現在未来進行形」では、ヨシダがパワフルなハイトーンを響かせるなど、凄まじい熱量で曲を繰り出していった。

圧巻だったのは、心地よいビートでオーディエンスの身体を揺らした「まだ何者でもない君へ」のあとから始まった"YPT"こと"ユタニ・パーティー・タイム"。その名の通り、ユタニがオーディエンスを盛り上げまくるセクションなのだが、ギタリストでありながらギターを一切弾かない(というか持たない)ほどの徹底ぶりで、ひたすらフロアを煽りまくっていた。ミラーボールが回る「FR/DAY NIGHT」では、ステージの上で所狭しと踊りまくり、「あいまいみー」ではチアリーダーのポンポンを持って、曲のキメに合わせてポーズを決める。"まだまだ終わりません!"と突入した「無重力少年」では、バルーンで作られた翼を背負ったユタニが、バルーン製のスプーン(=匙)を手に、バルーンでデコレーションされたソリに乗ってフロアに出航。ちなみに、これらのバルーン・アートは、吉本興業所属の芸人 キャベツ確認中 キャプテン★ザコによるもので、アンコールで披露された「クリスマスタウン」では本人がゲストとして登場。キャプテン★ザコが持ってきた特大サイズの風船を、サンタクロースのコスプレをしたユタニが割ると、中からたくさんの小さな風船が出てくるという演出でオーディエンスを喜ばせていた。

中盤以降は"昔から鍵盤を生で入れてライヴをやりたいと思っていた"ということで、キーボーディストの工藤拓人(オノマトペル)を迎えて、5人体制で進行。軽やかに跳ねる鍵盤の音色が、曲の持つ温かさと切なさをより増幅させた「猫と花火」に始まり、ヨシダのフェイク・メロディが美しかった「ツキヨミ」、ギターが感傷的なフレーズを掛け合う「棗」など、どれも旋律が心地よく、彼らの楽曲には誰が聴いても"いい曲"と思える要素が揃っていることを改めて思い知らされる。その真骨頂とも言えるのが、やはりバラード・ナンバー「イトシキミヘ」だろう。情熱的に奏でられる音を、オーディエンスたちはじっくりと味わっていた。

改名後に行ったインタビュー(※2019年11月号掲載)で、ライヴにおいて"エンタメ性をもっと高めていきたい"と話していた彼らだったが、それは圧倒的に"いい歌"が、このバンドの軸にあるからこそできることでもあり、そんなエンタメ性というキャッチーな部分がその軸をより輝かせていたと思う。2020年春には新譜をリリースし、東名阪ツアーを行うことを、この日のラスト・ナンバーとなった「シリアル」の曲中で発表した彼ら。より高く飛ぶために広げた翼で、力強く羽ばたいていく3人の姿が目に浮かぶステージだった。

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