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INTERVIEW

Japanese

saji

2019年11月号掲載

saji

Member:ヨシダタクミ(Vo) ユタニシンヤ(Gt) ヤマザキヨシミツ(Ba)

Interviewer:山口 哲生

-そのタイトル曲がありつつ、カップリングとして「猫と花火」と「まだ何者でもない君へ(※通常盤のみ)」が収録されています。sajiとして初音源なのもあって、この2曲もかなり重要になってくるわけですが、トータルとしてどういう1枚にしようと考えていましたか?

ヨシダ:「ツバサ」だけじゃなく、今回はどの曲にも"夢"というのがテーマにあるんですよ。「まだ何者でもない君へ」も夢がテーマなんですが、「ツバサ」とは違って、この曲の主人公は大人なんですよね。夢を一度諦めたうえで、でも大人になるってそういうことだよなって折り合いをつけながら生きている人。僕のイメージでは、おじさんが出てくるんですけど。ただ、主人公も気づくわけですよ。"夢ばっか見てらんないよ"って言い訳を並べて生きてきたけど、別にやりたいことに対して見切りをつける必要はないんじゃないかと。

-そうですよね。

ヨシダ:このおじさんが何になりたかったのは僕もわからないけど、例えば、仕事をしながら音楽をやっている人も多いし、イラストレーターとか小説を書いている方も多いですよね。それだけじゃ食べていけないから、サラリーマンとして働きながら作品を作っている。だから、"本当は絵を描きたいんだけど、この仕事をしているんです"と言う必要がないというか。仕事をしながら絵を描いて、それが日の目を浴びたらそっちを専業にするという生き方が、できる時代になっているじゃないですか。主人公としても、やりたかったことはあったけど、面倒くさいからやっていなかっただけで、自分自身が気持ちを切り替えたらやれるんじゃないかなっていうところで、曲が終わるんですよね。だから、「ツバサ」とは違う角度だけど、"夢"というものは掲げています。

-「猫と花火」は、夢ではあるけれども......という感じですね。

ヨシダ:そうですね。意味合いがちょっと違っていて。この曲の主人公は、例えば渋谷を歩いていたらそこら中で見かける、もう本当にありふれた恋人同士なんですけど、彼女のほうがサヨナラしちゃうんですよね。

-そうですね。1番が過去で、2番が現在というか。

ヨシダ:はい。僕の好きなマンガで、好きな話があって。お酒が出てくるマンガで、バーのマスターが主人公なんですけど、ある日、男性のお客さんが来るんですよ。その人には、結婚の約束をしていた人がいたんだけど、いわゆる"木綿のハンカチーフ状態"になるんですよね。地方で愛し合っていたんだけど、男性だけが都会に働きに出てきて、落ち着いたら一緒に暮らそうっていう。だけど、最初の1~2年は忙しすぎて彼女の存在を忘れてしまい、落ち着いてきたら職場の女の子といい仲になっちゃって。

-あぁ(笑)、なるほど。

ヨシダ:結局ふたりは別れてしまうんですけど、"あなたと一緒に飲もうと思っていたお酒を送ります"って、男の人のところにお酒が届くんですよ。それをバーのマスターと飲みながら、自分はすごく後悔していると。東京という街で浮かれていたけど、俺のことを一番思ってくれていて、自分が一番好きだったのはあいつだったんじゃないのかなって。今からでもやり直せるならやり直したいけど、風の噂でもう幸せになってしまったと聞いているし、自分が悪いのはわかっているんだけど、どうするべきだったのかなっていう話をマスターにするんですね。そしたらマスターが、人生の中でもう二度とないような大恋愛をしたと思っているかもしれないけど、実はそんなことはなくて、誰にでも起こりうるし、それは人生の中で何回も来るんですよと。人生は年を重ねるごとにドラマが増えていくから、それはそれで素敵な思い出だったじゃないですかって。たしかに、そういう感情ってリアルタイムのときには出てこないものじゃないですか。めっちゃ好きだから。

-もう完全にその人のことしか考えられないっていう。

ヨシダ:そうそう。俺はもうあいつと添い遂げられないなら無理だとか言うんですけど、2~3年経っちゃえば、別の人と繋がってパっと結婚したりするじゃないですか。

ユタニ:そうだよねぇ......。

-かなり深い相槌でしたね(笑)。

ヨシダ:この主人公も、"君"が戻ってきてくれるとは思ってはいないけど、何年か経ったときに、あれはいい恋だったなと思い出せるんじゃないかなって。あるいは、"俺、こんなこと言ってたんだ"って赤面するか(笑)。

-(笑)そのときは本気でそう思ってるんですけどね。

ヨシダ:そうそう。紛れもなく等身大の自分なんだけど、このときの自分はイタかったなぁ......っていう。だから、これは将来とか未来とかではなく、ひとつのいい夢を見させてくれてありがとう、みたいな歌ですね。

-夢であり、リスタートであり、仕切り直しでありというのが、今回の収録曲には共通してあると。

ヨシダ:そうですね。人生の再出発みたいな作品です。

-楽曲としては、「猫と花火」のサビでは、女性とユニゾンされてますよね。

ヨシダ:してます。意図せずにそうなったところはあるんですけど、ラスサビだけ女性の声が大きくなるんですよ。だから、これは僕の中での解釈としていうと、1サビはまだ付き合ってるときのことなんですよね。2サビはひとりで思い出しているとき。で、ラスサビに関しては、もう完全に妄想なんです。自分の夢の中で、好きだった女の子と一緒に歌っているっていう。だから、別れに向かうにつれて、女の子の気配が強くなるっていう。

-だけど、最後の最後で女性の声が消えてしまって......。

ヨシダ:あれはひとりだからですね。女性の声だけじゃなくて、他の音も全部抜いて、ひとりだけの声になるっていう。

ユタニ:悲しい......。

-あそこ、ちょっと怖かったです。これが現実なのか......っていう。

ヨシダ:ははははは(笑)。まさにそういうアプローチです。

-「まだ何者でもない君へ」はホーン・セクションが入っていて、ビッグ・バンドっぽい感じもありますね。

ヨシダ:この曲は、映画"スウィングガールズ"で有名ですけど、「Sing Sing Sing」という曲をモチーフにして作っていたから、デモの段階ではギターをまったく入れてなかったんですよ。管楽器系とドラムとベースとヴォーカルのメロディの状態になっていて。

ユタニ:「まだ何者でもない君へ」も「猫と花火」も、レコーディングのときにちょっと弾いてみたんですけど、"なんか、いらないよね?"っていう話になって、ほとんどギターが入ってないんですよね。

ヨシダ:phatmans after school時代からそうなんですけど、曲によって差し引きを遠慮なくやるんですよ。リード・ギターなのにほぼ弾かなかったり、逆にものすごく出てくる曲もあったり。

ユタニ:僕はギタリストとしてギターを弾いているし、そのプライドもあるんですけど、曲として見ているというか。曲がかっこ良かったら、自分は引いてもいいかなっていうのはずっと思っていることですね。

ヨシダ:あと、「まだ何者でもない君へ」の歌詞も、ほぼファースト・テイクなんですけど、sajiとしての初のシングルで夢を歌っていくと言っているのに、主人公がおじさんっていうのはどうなんだろうっていうところもあったんですよね。ただ、これも自分自身に当てはまるところがあって。この仕事をしていると、途中で降りていく人もいるじゃないですか。続けられなくなるバンドもいるし、辞めていく先輩や仲間も多いし。

ユタニ:悲しいよね。

ヨシダ:すごくお世話になっていた人も、どうしても業界が変わると疎遠になるんですよね。会いづらくもなるし。同じ電車に乗っていた仲間があれだけいたのに、どんどん降りていくのを見ているのが悲しくて。だからこそ、こういう特殊な仕事を選んだのは自分なんだから、自分自身の夢を賭けられるところまではマックス・ベットでいきたいんですよ。例えば数年経って、自分がしんどいなと思ったときに、そういえばこういう曲を歌っていたなと思い出して、もうちょっと頑張ってみようかなって将来の自分が思うかもしれないし。

-未来の自分へ向けて書いているところもあると。

ヨシダ:そういうことを僕はよくやるんですよ。phatmans after school時代に出した「東京少年」(2011年リリースのTOWER RECORDS限定シングル『東京少年 / ナンバーコール』収録曲)もそうなんですよね。あれは、夢破れた少年が、自分の人生は1回しかないんだよなって、もがきながらも生きていく歌なんですけど、あの曲を書いた当時、僕はまだ高校生で、まったくもって一度も挫折していないんですよ(笑)。

ユタニ:たしかに(笑)。

ヨシダ:でも、将来こういうことがあるだろうと思って書いていたから、10年以上経ってもライヴで歌っているし、それだけ経っても歌えるというのは、まだ意味がわかるからだと思うんです。ベテランの方って"もうあのときの曲は歌えないよ"って言うけど、僕の中では年をとっても歌える曲になったらいいなと考えてます。

-あと、「猫と花火」も「まだ何者でもない君へ」もリズムが跳ねていて、ベースもめちゃくちゃ気持ちいいなと思いました。

ヤマザキ:「猫と花火」は、夜に送られてきて、朝起きたときに聴いたんですよ。そのときの感覚が気持ち良かったから、朝起きたときに聴くとちょうどいいような感じにしました。ゆったりとした感じなんだけど、シンプルにしすぎるとダレるので、そこをちょっとリズミカルにしてみましたね。

-「まだ何者でもない君へ」のほうは?

ヤマザキ:この曲はとにかく明るいな! と思って。その印象がデカかったですね。ベースとしては、激しくもなく、ロック感を強調するわけでもなく、動いているものにしたくて。で、イントロは結構せせこましい感じにしているんですけど、歌詞が出てきたらシンプルにしました。いい塩梅でやれましたね。