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INTERVIEW

Japanese

Drop's

2019年10月号掲載

Drop's

Member:中野ミホ(Vo/Gt)

Interviewer:山口 智男

-そんな「Blue」がある一方で、スタジオの鳴りも含め、バンドの演奏を聴かせる「Little Sign」のような曲もあって、ほんとに一曲一曲いろいろ試しながら作ったことが伝わってきますね。

そうですね。最後に入っている「マイハート」は、ほんとに最後の最後にできた曲なんですけど、最初の歌とクラップだけのパートは、思いつきでやってみたら思っていた以上に楽しくて(笑)。 

-「マイハート」は個人的に一番好きかもしれないです。

あ、そうですか。

-でも、そう言ってしまうと、アルバムの意図を汲み取ってないと思われちゃうかもしれないんですけど(笑)。

入れる予定というか、曲自体がなかったんですけど、最後の最後に"速い曲がないんじゃないか"って話になって、たしかにそうだなと思ってノリで作ったんです。何かやっぱりちょっと面白いことをしたいと思って、頭のクラップはミナ子さんが提案してくれたのかな。あと、コーラスですね。他の曲でもコーラスはたくさん入っているんですけど、「マイハート」は、みんなで歌ってみました。そんなふうにメインの歌じゃないところでの広がりっていうのは、他の曲でも作れたんじゃないかと思います。

-「マイハート」はロカビリーっぽい感じとか、エレキ・ギターのカッティングのリフとかがすごくかっこ良くて。

荒谷が喜ぶと思います。前だったら、こういう曲はエレキ2本でやっていたと思うんですけど、あえて私はアコギでElvis(Presley)っぽくやってみたりして、荒谷も最初は普通にストレートにいくソロを考えていたんですけど、途中からジャズ・スケールを使いたいと言い出して。そんなふうに面白いことをやりたいという気持ちは、こういうロックンロールでもしっかり反映されていると思います。

-勢いで聴かせるようなロックンロールでも新しいことをやっている、と。

ええ。そういう曲になったんじゃないかと思います。

-アルバムの最後に、勢いを残して終わるこういう曲があるっていうのもいいですよね。今回、新しい音像を作り上げるうえでは、メンバーそれぞれにプレイヤーとして成長したことも大きいと思うのですが、中でも荒谷さんはギタリストとしてひと皮剥けたと言うか、新しいプレイ・スタイルを打ち出しているように感じました。

彼女は新しい音楽に敏感で、自分で見つけて掘り下げて研究するのが好きなんですけど、それを私が作った曲にうまく反映させてくれるし、ギターだけがメインじゃないっていうか、曲の中にどういうふうに入れていったら一番効果的か考えている。今までの"歪んでバーン"っていうだけに留まらない、いろいろなアプローチを考えながらやっていると思います。私自身が以前のガッといくような、いかにもロックって感じだけではなく、歌を中心に柔らかい部分や静かな部分も表現したいと思うようになってきたので、荒谷もそれを感じ取って、プレイも変化してきたんだと思います。

-今回、ヴォーカリストとしてはどんな挑戦がありましたか?

歌を聴かせるという意味で、全部を100パーセントで歌うのではなく、抑揚をつけたり、ファルセットを使ったり、そういうことをしてみてもいいのかなと思いました。そのほうが自分にとっても負担が少ないし、歌いやすいんです。今まで裏声を使うことに抵抗があったんですけど、"使ってもいいんじゃない?"ってメンバーも言ってくれたし、何をしたらダメっていうのはないなと思ったので、「アイラブユー」でも使ってみました。弾き語りをやっていると、そういう歌声を出したり引いたりするのが気持ちいいんですよ。言葉ははっきりというところは変わらないんですけど、それで生まれる表現の幅もあると改めて思いました。

-一番いい歌が歌えたのは?

気持ちがすごく入ったのは、「春の羊」です。

-すごくエモーショナルな曲ですね。歌詞についても聞かせてください、前作の『DONUT』(2016年リリースの4thフル・アルバム)からパーソナルなことも表現するようになったそうですが、今回はどんなことを意識しながら書いたのでしょうか?

音は変えたいとすごく思ったんですけど、歌詞は自分の生活の中から出てくるものや、自分の個人的な気持ちを歌いたいというのは全然変わってないです。全曲の歌詞を書いてから思ったのが、東京に来てからの2年間で書き溜めたものが多いので、自分の大事な人と自分がそこにいるっていう、"Tiny Ground"というタイトルにも繋がるんですけど、どんなにちっぽけでもちゃんとここにいるんだよってことが、ひとつ大きなテーマとしてあったのかなって。

-たしかに、いろいろな"あなたと私"のストーリーを歌ったものが多いですね。その一方では、「EAST 70」のように東京で生活しながら、札幌時代のことを思い出したりすることもあるようですね。

今まで、あえて振り返るということはしなかったし、そもそも自分はまだ振り返るようなところまでは行っていないというか、振り返らずにずっとやっていきたいという感覚なんですけど、ふと振り返ってみたとき、あれは戻らない時間だったんだなって気持ちが初めて芽生えてきて。歌にするぐらいまで、ちゃんと振り返ったことは今までなかったんですけど、今回は書いてみました。

-今回のアルバム、「春の羊」とか「マイハート」とか、ロック・バンドならではの向こう意気を感じさせる曲ももちろんあるのですが、全体的には穏やかな印象がある。例えば、バンドを始めたころに持っていた怒りのような感情は、今現在もあるのでしょうか?

そうですね。ポジティヴな気持ちはもちろんあるし、バンドを始めたときよりも、それが素晴らしいということは自分でもわかっているし、ポジティヴになることはいいことだと思う気持ちが前よりも大きくなったから、ラヴ・ソングを歌うことも増えたんですけど、帰り道とか、ひとりで歩いているときとか、ふと思い出すんですよ。「マイハート」でも歌っているんですけど、誰かのことがうらやましいとか、悔しいとか、劣等感を。そういう感情っていつまでもなくならないんだと思います。たぶん、誰しも大なり小なりあると思うんですけど、何かうまくいかないなってことは、ずっと変わらず、ぐるぐる巡るというか、結局わからないよって気持ちは、バンドを始めた10年前からずっと変わらないと思います。それを、今回は「マイハート」にそのまま入れましたね。

-そうすると、最後に作った「マイハート」をアルバムの最後に置くっていうのは、結果、意味があるものになったんじゃないですか?

ほんと、結果って感じなんですけど(笑)。でも、良かったと思います。この曲は短期間でバッと、そんなに深く考えずに、今日思ったことをそのまま書こうって書いたので、自分にすごく近いし、これからもこういう気持ちはずっと持っていくし。でも、それがみんなで手を叩きながら曲になって、すごく楽しいし、風が吹いていて、自分がそこを歩いていて、そのまま続いていくんだなってイメージを、最後に持ってこられたので良かったですね。体温というか、熱を感じられるというか。

-そういう曲が最後にバッとできたところに今のバンドの調子の良さや瞬発力が感じられますね。

他の曲でいろいろ試行錯誤をしたので、"最後はハジけよう"みたいな気持ちでした(笑)。

-そして、アルバムを引っ提げたワンマン・ツアー"Drop's 10th Anniversary ONE MAN TOUR 2019『Tiny Ground』"が10月23日から始まります。

自分たちだけでバーンという感じで作ったアルバムではないので、お客さんを前にしたときに、4人の力が試されるというか、もしかしたら、"どうなるんだろう?"と思っている人もいるんじゃないかと思うので、アルバムをそのまま忠実に再現するのではなく、ライヴは別物として、4人の力を見せられたらいいですね。そういう意味でも楽しいツアーになると思います。